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二章 夢のはじまり
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しおりを挟むヨミはイタズラっぽく笑うと胸に手を当てて頭を下げた。
ユメナはその笑顔を見て、くすりと小さく笑う。会いたかったかと問われれば微妙なところだが、なぜか今夜は会える気がしていたのだ。
「やめてよその呼びかた」
「はは、事実じゃん」
ヨミは窓からひらりと部屋に入ると、隅で未だに丸まって微動だにしない青年に声を掛けた。
「やっほー星七くん! そんなとこでなにしてんの? 忍者ごっこ?」
セナと呼ばれた銀髪のイケメンはヨミを見るなり顔を背けた。かろうじて見える横顔には、恥ずかしさと悔しさが入り混じっている。
ユメナはじっとセナを見つめる。
どの角度から見ても整っている容姿に目が離せない。それはヨミがちんちくりんに見えるほどの美しさだった。
「な、何か……?」
セナが初めてちゃんと発した声にユメナの耳がぴくりと動いた。この独特なハスキーな声、どこかで聞いたことがあるような気がする。そうだ、よくホシナが見ているあの歌番組で……
ユメナはハッと顔を上げ、首をずいっと前に突き出す。
「もしかして、ボーイズアンドスターサンシャインの流星ハルトくん!?」
「ボーイズスター……え? なんて?」
ヨミが聞き返すが、セナは珍獣に狙われ逃げ場を失った野ウサギのようにぷるぷると小刻みに震えていた。額からこめかみに伝う一筋の汗。それはもはや図星、というよりも「はいその通りです」と全身でアピールしているようなものだった。
「えっ、待ってほんとに流星ハルトくんなの!?」
「ええっ、待ってセナくんってアイドルだったの!?」
付き合いが浅いだけなのか、単に興味がないだけなのか、ヨミも初耳だったようだ。
セナは肯定も否定もせず、ただうつむくだけたった。
テレビの中で見る流星ハルトは見る人を惹きつける華やかさがあり、アイドルにさほど興味がない自分でも知っているほどの知名度を誇るスーパーアイドルだ。しかしそのアイドルに瓜二つの容姿を持つセナという男はどうだろう、陰気で湿っぽい空気を部屋全体に漂わせている。
「えっ、と……」
「セナくんはユメナの悪夢を食べに来たんだよね」
気まずい空気の中、ヨミはセナに問いかけた。セナは返事の代わりに横目でじとりとヨミを見つめた。
「悪いか……」
「早い者勝ちだ。もう一度食べちゃえば? ユメナの悪夢」
突然何を言い出すかと思えば、本人許可なしの悪夢の譲渡話だった。ユメナはヨミの袖を掴み、耳元でさいなむ。
「ちょっと! 何勝手に……」
「どうせ食べられるならイケメンアイドルに食べられたいでしょ? ユメナも」
「は、はあっ!? 別にそんなこと……思ってるような思ってないような……」
「じゃあ今日は大人しくセナくんにゆずるよ」
「えっ。そんなあっさり……」
「ん? それともぼくに食べて欲しい? あの日みたいに……」
セナに聞こえないよう、甘い声で耳打ちをするヨミをユメナは突き飛ばした。
「そんなこと誰も言ってないから!」
「まあ食べられたら分かるよ。ユメナ」
そう言うと、ヨミは目をほそめた。
――その十五分後、ユメナは再び絶叫と共に飛び起きることになる。
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