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しおりを挟む七月も中旬に差し掛かり、来週には夏休みが始まろうとしていた。教室の中は夏休みの予定に胸を膨らます者であふれかえっている。
放課後のチャイムが鳴ると私は一目散に購買横の自販機でスポーツドリンクを買い、プールに向かった。
あの日プールで起こった水難事故はやはり皆の記憶からこぼれ落ちていて、初めから無かったものとして処理されていた。
いつの間にか平然な顔をして時間割に組み込まれていたプールの授業。それも今日が最後の日だった。
私は誰もいないことを確認して忍び込むと、靴下を脱ぎ、プールサイドに腰を下ろした。つま先を水面にすべらせながら先ほど買ったスポーツドリンクを一口、二口と流し込む。そして青々とした目の前の大きな水槽に視線を落とした。
「こんな広いところで泳げたら、エマちゃんも気持ちいいだろうな」
私はスマートフォンを開き、写真のフォルダを遡る。直近の写真はほとんどがエマちゃんを占めていた。六月にまで遡ったところで、画面をスワイプする指を止める。五月の写真は今でも見返せないままでいた。あの日青井くんと撮った写真までもが消えてしまっていたら、私の心はきっと悲しむだろうから。
「青井くん」
ここに来ればまた会えるような気がしていた。しかし目の前の水槽は依然として沈黙を守っている。
青井くんの少し掠れた低い声も、広くて大きい背中も、儚い眼差しも、優しい笑顔も全て好きだった。
ここに来るのは今日で最後にしよう。
私は目に浮かんだ涙を手の甲でごしごしと拭うと、まだ言えていなかった答えを大きな声に乗せた。
「私も大好きだよ! 青井くん!」
七月の太陽に照らされるプールの水面。
返事をするように、小さな青い体がぱしゃん、と大きく跳ねた。
完
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