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狂月明ける空編

ep462 ここがゴールでスタート地点だ!

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「自分も結婚式への出席は希望しましたが、牧師をやりたいとは言ってませんよ……」
「すみません、ラルカさん。ただ、あなたは隼にとって特別な人です。俺からもどうかお願いします」
「ええ、ご安心ください。自分も本気で嫌ならば辞退していました。……内心、ツバメ様の娘夫婦の結婚式で牧師を務められることに、ちょっと嬉しさを感じてはいます」

 バージンロードの一番奥で待っていたのは、修道服を着たシスター姿のラルカさん。今回の結婚式のため、無理言って牧師役をお願いさせてもらった。
 だって、アタシにとってのラルカさんって『同じ人を母親とする』ってなわけで、とても他人には見えないのよね。まあ、これまでで一番戦ってきた相手ってのもあるけどさ。
 なんにしても、アタシはこの人にこそ祝ってほしい。牧師として、アタシとタケゾーのゴールインを見届けてほしい。

「あなた方夫婦の結婚式に必要な最後の品もお持ちしました。これがないと、せっかくの式が台無しでしょう?」
「おお! 結婚指輪! 完成したんだね!」
「ウォリアールにおける結婚石とも言われる宝石、スワロースカイ。ツバメ様の名付けたこの宝石こそ、この結婚式に最も相応しいと言えるでしょう」

 ウォリアールで作ってもらった結婚指輪も、ラルカさんは約束通り持ってきてくれた。
 シンプルなデザインに溶け込んだ空色の宝石。母さんが結婚した時に名付けたスワロースカイ。
 思えば、星皇社長とラルカさんが結婚祝いの時に持ってきてくれたのも、このスワロースカイの原石なんだよね。
 それらの要因を考えると、アタシとタケゾーの結婚指輪としてこれ以上のものはない。

「さて……では、その指輪をお互いの指におはめください。お二方の未来と愛を、ここに証明してください」
「ラルカさん、なんだかそれっぽい」
「急な依頼だったので聞きかじった知識になりますが、あなた方の結婚式のためです。誠心誠意、牧師としての務めを果たしましょう」

 ラルカさんも見様見真似の素振りだけど、シスターの姿で牧師を続けてくれる。本当にどこまでも律儀な人だよね。
 クジャクのおばちゃんといった親族一同達も席に着いたし、こっちも誠心誠意でお応えしよう。タケゾーと二人で向かい合い、ラルカさんから受け取った結婚指輪をお互いの薬指に通す。

 婚約はとっくにしてたけど、こうやって正式な手順を踏むと感慨深い。色々とこれまでの想いもこみ上げてくるし、何よりもその身に愛を感じられる。
 ちょいとクサい表現だとは思うよ? でもさ、単刀直入にそう表現すしかないのよ。

 楽じゃない道のりだった。むしろ苦しいことがいっぱいあった。
 そんな時でも、アタシとタケゾーは一緒に乗り越えてきた。そして、ここが一つのゴール地点。

 ――幸せって、こういうことを言うんだろうね。

「……隼。これからも俺の傍にいてくれ。必ず幸せにしてみせる」
「ほうほう、そいつはありがたいお言葉だ。だけど、アタシだけが幸せになるなんてのは認めないよ? ……タケゾーはもちろん、ショーちゃんやお義母さんにクジャクのおばちゃん。家族みんなで支え合って、そして幸せになろうね」
「フフッ。そういうところは隼らしいな。……これからも頼りにさせてもらうさ」

 とはいえ、この結婚式は同時に新たなスタート地点でもある。特別何かが大きく変わるわけでもなく、ここからいつもの日常が再び始まる。
 それでも大きな節目は迎えられた。幼馴染という関係から始まり、これからも夫婦として家庭を築いていく。
 アタシもまだまだヒーローとしてやっていくし、タケゾーのことは頼りにさせてもらう。ショーちゃんといった親族とも、手を取り合って先へと進む。



「……それでは、新郎新婦で誓いの口づけを」
「……ああ」
「……うん」



 お互いに気持ちが重なったのか、ラルカさんからキスの話を持ち出されても、焦らず揃って腰に手を回す。
 昔は同じ身長だったのに、いつの間にかタケゾーの方が高くなったんだね。背伸びしないとうまくできないや。
 アタシもタケゾーも、気がつけば随分と深い関係になったもんだ。唇が優しく重なり合い、愛で繋がってるってのがヒシヒシと伝わってくる。

「……なんだか、今までで一番ロマンチックなキスじゃない? 愛情を感じることはこれまでも何度かあったけどさ」
「唇を離して最初に言うセリフがそれか……。つうか、比較対象は何だよ?」
「一緒に大人の階段を上った時の――」
「もういい! 喋らなくていい! まったく、口を開けば余計なことしか出てこない奴だ……」

 そんなロマンチックな中で、アタシもちょいと恥ずかしくなっちゃったのかな。思わずいつもの如く軽口を挟み、タケゾーをおちょくってしまう。
 でも、タケゾーも口では文句を言いつつも、表情はどこか穏やかだ。アタシの扱いにだいぶ慣れてるね。

 ――こんな関係をずっと続けていきたい。このゴールにしてスタート地点から、病める時も健やかなる時もってね。

「ハハハ! 隼らしい! ともあれ、二人ともおめでとう!」
「隼さん、武蔵さん。おめでとう」
「これからも夫婦で頑張るのよ~。私も力になるからね~」

 親族席から聞こえる励ましの声。

「あいつらって、基本的にあんな感じなのか?」
「そうですね。基本的に空鳥さんがタケゾーさんを愉快に困らせてます」
「洗居にそう言われてちゃ、武蔵の奴も世話ねえな~」
「やれやれ。気がつけば騒がしい結婚式になっちゃってない? まあ、お熱いのはオレッチも好きな性分でね」

 他の席からも聞こえるちょっとした冷やかし。
 気がつけば笑い声も聞こえてくるし、フリーダムな結婚式になっちゃった。でも、それはそれでアタシ達夫婦らしいかな。
 祝ってくれてる気持ちは確かだし、それさえあれば何もいらない。

「クフフフ……! そ、それでは、新婦はこちらのブーケをお持ちください。お二方はこのままバージンロードを引き返して、教会の外――クフフフ……!」
「……って、ラルカさん、笑いすぎ。牧師が一番笑っちゃってるよ」
「そもそもの原因がお前の不用意な発言だろ? ほれ、とにかくこのまま外まで歩いて、今度はそっちでお祝いしよう」

 なお、この中で一番笑っていたのはラルカさんだ。アタシにブーケを渡しながら、うつむいて必死に笑いをこらえてる。
 もうここまで来ると、格式も何もなくなっちゃってるかもね。だけど、アタシも結婚式という行事は最後までやり遂げたい。
 そういや、ブーケに関するイベントもあったよね。あれって何だったっけ?
 確か受け取った人がどうのこうので――



「おいゴルゥアァァア! ここに空色の魔女がおるんやろぉぉおお!? 今までの積年の恨み! 晴らさせてもらいに来たでぇぇええ!!」
「どわぁ!? な、何!? 誰!? 教会の外から!?」



 ――なんてことをどうのこうの考えてたら、突然教会の外から怒鳴り声が響いてきた。
 何てやかましい大声だ。今日はアタシとタケゾーの結婚式なんだぞ? 空気ぐらい読んでよね。
 もうこうなったら、直接行って文句を言ってやろう。

 ――え? ゆっくり歩いてバージンロードを引き返さないのかって? だってそれどころじゃないもん。
 なんだか空色の魔女アタシを呼んでるみたいだし、ドレスのままタケゾーと一緒にまず最初に外へ出ると――



「儂ら大凍亜連合を陥れた恨み! 今度こそ晴らさせてもらうでぇぇええ!!」
「ゲエェ!? ひょ、氷山地ぃい!? よりにもよってこのタイミングで!?」
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