空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep460 夢にまで見た晴れ舞台だ!

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「もしもーし。あっ、ごめんね。こっちも忙しくてさ。仕事の方はみんなに押し付けちゃうけど、今日だけはどうしても――」

 ウォリアールで新婚旅行並び王位関係内紛から早一ヶ月。時間も経って、あの激動の戦いも懐かしい話だ。
 まあ、日本に戻ってからも色々と忙しくてね。ウォリアールに空鳥工場野菜の技術提供とか、洗居さんの清掃業務の引継ぎとか。

 工場野菜の技術に関しては、以前からお世話になってた資産家さんとかが協力してくれた。フロスト博士にレポートも送ったし、順調に計画は進んでいる。
 ショーちゃんにも話をしたらノリノリで、いつかウォリアールへ視察に行きたいとのこと。
 今はまだ孤児院で小規模な自給自足だけど、いずれはウォリアールの農業問題を完全解決できそうだとか。向こうにも人工太陽の技術はあるし、やっぱこういう平和利用が一番だよね。
 母さんも少しは喜んでくれてるかな? 少しは祖国のためにもなったよね。

「うんうん。清掃の件に関しても調整お願いね。ごめんね、色々と頼っちゃって。――いやー、どもども。また今からの予定が落ち着いたら、アタシも動かせてもらうよ」

 清掃業務の方も抜かりはない。資産家さんにもその話をしてみたら、街の業者さんとの協力体制を築いてくれた。
 アタシ一人だと洗居さんの穴を埋めるのは厳しすぎる。そうなってくると、人海戦術が一番だ。
 アタシ自身も相変わらず現場に出ており、もうエンジニアってよりは清掃用務員だ。まあ、結局はこういう仕事の方が肌に合ってるのかもね。
 最近じゃタケゾーの保育園にもお邪魔して、子供達とも違った形で触れ合いながら仕事に励めている。

 ――曲がりなりにも部下として、弟子として、清掃魂セイソウル継承者(一応)として、洗居さんが安心できるようにしないとね。

「そいじゃ、こっちもそろそろ時間なもんで。アディオース」

 そんなアタシが電話していた相手こそ、現在方々でお世話になってる資産家さんだ。街専用SNSから始まり、ショーちゃんの野菜事業を経由して、アタシの苦手な経営面で面倒を見てもらってる。
 向こうも『堅実なリターンと将来性のある事業』として、好意的かつこちらの要望通りに対応してくれている。
 持つべきものは人間関係だね。世の中捨てたもんじゃないし、どうなるかも分からない。
 空色の魔女になる前の借金地獄からは嘘のような毎日だ。



「隼ちゃ~ん。お電話は終わったのかしら~?」
「今日は隼さんの晴れ舞台。ドレスも凄く綺麗」
「うん。お義母さんもショーちゃんもありがとね。……ようやく、やりたかったことができるのか」



 で、わざわざ資産家さんに予定を空けてもらってまで何をするのかって? そいつは簡単な話だ。
 現在、アタシは個室で純白のドレスに身を包んで待機中。これがどういうことかは、まさしく言うまでもないってところかな?



 ――今日はアタシとタケゾーの結婚式だ。ずっと流れに流れてたけど、これから正式に式を挙げる。



「いやー、やっぱウェディングドレスって特別感が半端ないね。これぞ『馬子にも衣装』ってやつ? アタシみたいにガサツな女でも、随分と絵になってるんじゃない?」
「隼ちゃんは元々美人さんよ~。似合って当然よね~。……ウチの旦那や隼ちゃんのご両親だって、今の姿を見たら同じことを言うはずよ~」
「さっき、武蔵さんの部屋も覗いてきた。凄く緊張してた。隼さんのウェディングドレス姿を想像して、ドキドキしてた」
「ニシシシ~。そう言われると、アタシも照れちゃうや」

 ウェディングドレスに身を包んで鏡の前でクルリと一回転すれば、そこにはまごうことなき花嫁の姿がある。
 なんだか、自分で自分に見惚れちゃう。これまでいろんなことがあった分、余計に感慨深いよね。
 前までは『彼氏なんてロボットでいい』とか言ってたのに、人って変わるもんだ。

「タケゾーとも新婚旅行中、帰ったらやろうって決めてたからね。色々とタイミングも合わさったし、いよいよかって感じ。随分と遠回りしちゃったけどね」
「その分だけ、みんなでお祝いしましょうね~。もうじき、隼ちゃんのご親族の方も来られるからね~」
「ボクからすると大叔母さん。どんな人か気になる」

 振り返って思い起こす出来事は多々ある。嬉しいこともあれば、悲しいこともたくさんあった。
 だけど、それが全部今この時に集約している。今日だけは後悔を超える祝福を受けて、花嫁というステージに立とう。



「おお! 直接会うのは久しいな、隼! それにその姿! ツバメと将鷹殿が見れば、涙を流して祝ったであろう!」
「あっ! クジャクのおばちゃん! よっす!」



 そのために是非とも出席してほしい人たちには声をかけておいた。その筆頭とも言えるのが、母方の叔母であるクジャクのおばちゃんだ。
 相変わらずの高貴な貴婦人ルックで、アタシを見るや否や両手を広げて駆け寄ってくる。
 今となっては、アタシにとってただ一人の肉親だ。この晴れ姿は是非とも見てもらいたい。
 クジャクのおばちゃんもアタシの体を抱きかかえ、そのまま持ち上げて高い高ーい――

「ちょっと待って!? 高い高いは恥ずかしいって!? アタシ、そんなので喜ぶ年齢じゃないよ!?」
「ハハハ! よいではないか! 私も姪っ子には一度ぐらい、こういうことをしてみたかったのだ!」
「自分がやりたいだけじゃん!? ほら! ドレスも乱れちゃうから、もう下ろしてって!」

 ――などと、まさか流れで子供をあやすような真似をしてくるとは思わなかった。
 本当にクジャクのおばちゃんって自由人だ。これで一国の重鎮なのだから、スケールやら何やらが入り乱れて凄い。

 ――でも、こうやって祝福してくれるのは嬉しいよね。

「あなたが隼ちゃんの叔母さんですね~。私は夫である武蔵の母です~」
「ボク、ショーちゃん。隼さんと武蔵さんの息子」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。私も隼から話は聞いているが、大変よくしていただいていたり、複雑な事情も――」
「あー、三人とも? 身内で話したくなる気持ちは分かるけど、それは式の後でいいかな? もうすぐ時間だし」

 アタシはテレビ電話で何度もやりとりしてるけど、お義母さんとショーちゃんは話すのも初めてだ。
 積もることを語りたい気持ちは分かるものの、時間も圧してるから後にしてもらおう。

 ――こうやって身内同士で語る時間は、アタシも大事にしたいからね。

「では、行くとしようか。隼」
「うん、行こっか。クジャクのおばちゃん」

 準備も役者も全部揃った。いよいよ、式場で夢の晴れ舞台だ。
 クジャクのおばちゃんと腕組しながら、アタシは純白のドレスで部屋を出る。
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