空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep455 最後の役目が残っていた。

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「……アタシがラルカさんを倒すことで、発生する意味ってのは?」
「別に王族に戻ることを願ってはいません。ですが、今ここで『ウォリアール王族の人間が反乱勢力最後の一人を打ち倒す』ことこそ、本作戦における最後のシナリオになります」

 ラルカさんが望むのは、アタシによって倒されるということ。真っ向勝負をするのではなく、自らが負けることを望んでいる。
 話だけ聞くと八百長なもんだ。でも、そこには確かな意味がある。

「今回の騒動はウォリアールにとって、王族の権威を固めて強固な一枚岩を作る機会でもあります。フェリア様のご友人にしてツバメ様の娘であるあなたが、ミスター天鐘に与した最後の一人を――すなわち、このラルカ・ゼノアークを討ち果たすことができれば、国民にもその事実を示せます。……だから自分はこうして、あなたを待っていたのです」
「それって……フロスト博士からの命令だよね? ラルカさんの意志は?」
「ボスの命令が自分の意志です。あんな人ですが、自分にとっては育ての父親のようなものです。これでも、将軍艦隊ジェネラルフリートへ招いてくれたことには感謝してます」

 話を聞いていけば、アタシも朧気ながらにそのシナリオが見えてくる。

 天鐘は王族分家の末裔であるアタシを利用し、国家転覆を狙った。だけどそれは失敗して、逆に本家であるフェリアさんに味方することとなる。
 クジャクのおばちゃんという権力者を味方につけるも、アタシとの交流で本家側に寝返った。それにより、天鐘一派は離反者も出ることで一気に劣勢。
 元五艦将コンビを失いつつ、現五艦将コンビとコメットノアで反撃しようにも、結局は攻勢に出る前に潰されて沈黙。主犯である天鐘も捕縛された。
 事実上の総大将となった牙島も敗北し、さらに同格であるラルカさんも敗北したとなれば、反乱因子にはトドメの一撃となる。
 ウォリアール国王が出ることなく事態は収拾し、若い世代に可能性も見られる結果が残る。

 ――これ全部、フロスト博士が描いた絵図ってことだよね。あの人、よくここまでこねくり回したシナリオを思いついたもんだ。
 ラルカさんも牙島同様にフロスト博士への忠誠心は持ってたし、そんだけ優秀な部下が揃っていたからできた芸当か。

「ミス空鳥に王族としての責務は残しません。あくまで一つの陰ながらの伝承――伝説として、ウォリアールの未来を形作る要素になります。事実さえ揃っていれば、後はいくらでもコントロールできます」
「変に嘘で伝承を作るんじゃなくて、事実を織り交ぜるってところも信憑性が高くなる要因か」
「もう、余計なことは考えなくて構いません。あなたはただ、この最後の結末に身をゆだねればいいのです。……悪役ヴィランである自分を倒し、英雄ヒーローとしての逸話だけを築いてください」

 そんな作戦に従ったラルカさんにとっても、ここで敗北することによる完全な作戦成功こそ最大の任務だ。
 そのためにここまで線を引いてきた。裏切者の汚名もあえて被ってきた。

 ――自ら『悪役ヴィラン』なんて名乗っちゃうし、本気でアタシに負ける覚悟があるのは伝わってくる。

「今この右舷護衛艦には自分しかいません。今回は武器の類も用意してません。ミス空鳥ならば、容易に自分を倒し――」
「ねえ、ラルカさん。一つだけ質問させてもらってもいいかな?」
「……このタイミングでですか? まあ、いいでしょう。結末はもう決まってますので」

 でも、なんだかアタシは釈然としないのよね。大義のためとはいえ『負ける覚悟』ってのはなんだ釈然としない。
 それとラルカさんに関しては、アタシもまだ思うところがある。この際だから、全部はっきりさせたいところだ。

「さっきラルカさんはフロスト博士のことを『育ての父親』って呼んでたよね? だったら『育ての母親』みたいな人はいるのかな?」
「……何やら、あなたの中では特定の答えを望まれているような気がしますね。まあ、おそらくはあなたの想像通りでしょう。……挙げるならば、戦災孤児だった自分を拾ってくれたツバメ様です」
「ほうほう。院長先生も言ってた通り、ラルカさんも母さんには心を開いてたってことね」

 ラルカさんはフロスト博士の命令で裏切者を演じたけど、同じ立場の牙島とは大きな違いがある。
 牙島には『アタシとの決着の機会』という過程内での応酬があったけど、ラルカさんにそんなものはない。むしろ、さっきからどこか心苦しそうな表情だ。
 言葉がワンテンポ遅れてるし、どことなく『本当はこんなことをしたくなかった』って印象を受ける。
 思えば固厳首相との一件の直後、ラルカさんはアタシにウォリアールと関わることをやめるように進言してくれたっけ。あの時からこの人には何か心に引っかかるものがあったってことだ。



 ――そういうの、なんだかおもしろくないのよね。だから、少し台本を変更させてもらおう。



「モデル・パンドラ解除。デバイスロッドもガジェットに収納して……黒い方の魔女装束だけは身に着けとくか。でも、三角帽は邪魔っぽいからいらないね」
「……? ミス空鳥、何をされているのですか? 早く自分を打ち倒し、あなたの役目を果たしてください」
「いやいや。ちょっとでも『同じ人物を母とする人』が相手だと、用意された台本通りってのは無粋な気がしてね。……あっ、手袋も外しとこっと」

 ラルカさんが任務を優先する気持ちは分かるけど、こんな形で『はい、悪役ヴィランに勝ちましたー。アタシが英雄ヒーローでーす』で終わりな真似はしたくないのよ。
 第一、アタシってこの人には負け越してるからね。ここで勝たせてもらっても、お情けみたいでプライドが傷つく。

「アタシ、思うのよ。ヒーローの在り方ってのは台本じゃない。決められた筋書き通りのシナリオなんていらない。……ラルカさんがアタシにウォリアールの英雄ヒーローになることを望んでも、そこは曲げたくないかな」
「……なんとも、難儀な流儀ですね」
「自分でもそう思うよ。でもさ、ここは恨みっこなしでいかないかな? 台本通りの結末なんかじゃなくてね」

 ラルカさんと語りながら、アタシの武装はできる限り取っ払う。最終的には三角帽なしの黒い魔女装束だけになり、もっとも原初の姿になった。
 今のラルカさんは部下なしの武器なし。いくら格闘術に優れてても、流石にアタシの方が有利過ぎる。
 これで地力は互角ってところかな。丁度ジェット推進機構付きの手袋も外したし、おあつらえ向きなあの行為もできそうだ。

 ――手に持った手袋をラルカさんの眼前へと投げ捨て、アタシは自らが望むシナリオを口にする。



「ラルカさん、決闘しよう。勝ち負けの未来なんて分からない、正真正銘のラストダンスを二人だけでさ」
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