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武神女帝編

ep436 タケゾー「時間稼ぎもそろそろ終わりだ」

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「ハァ、ハァ……! 流石に隼抜きだだとキツいか……!」
「くっそ……!? こいつら、普段はくだらねえ喧嘩ばっかしてやがんのに、こういう時だけは息が合いやがる……!」

 隼が一人で屋上へ向かった後も、俺とフェリアはラルカさんと牙島の相手を続けていた。
 ただ、隼を含めた三人がかりでも手こずってた相手だ。二人だけとなると心許ない。

「なあ、ラルカ。ワイは空色の魔女との再戦には乗り気やったが、この二人が相手やとやっぱ気分が乗らへんわ。いつまで続けりゃええんや?」
「気の短い人ですね。少しは我慢してください」
「せやけど、もう本気で終わらせて構わへんか? 不完全燃焼とか嫌いなんやが?」

 敵二人についても、完全に俺達二人相手に余裕を見せている。一気に仕留めるでなく、まるで遊ぶように様子を見ながら仕掛けてくる。
 ここまで舐められても反撃の糸口さえ見えない。遠中近の全てに目を張られ、この戦場を支配されている気分だ。

 ――それと気になるのが二人の態度か。どうにも時間をかけている印象が強い。
 一応は『天鐘が逃げるための時間稼ぎ』とも言ってたが、本当にそれだけなのだろうか?



「おや? 噂をすれば何とやらです。ミスター牙島、退却しましょう」
「結局、またお預けかいな……。ハァ~、仕事の選択、間違えたかもしれへんなぁ……」



 ラルカさんはこちらに二丁拳銃を構えて牽制しながら、ふと窓の方に目を向けて言葉を発してくる。
 牙島もこちらへの睨みは利かせたままだが、ラルカさんの言葉を聞くと少しずつ体を窓側へと動かし始める。
 どうにも二人の退却準備ができたらしいが、こんなタワーの中層となると飛行機でも――



「なっ!? あ、あれはまさか……!?」
「空中戦艦コメットノア!? 天鐘の手中あるとは聞いてたが……!?」



 ――そう考えていたら、もっととんでもないものがタワーへ接近してきた。
 俺もかつてその甲板上で固厳首相と対峙した空中戦艦コメットノア。夜の闇に紛れながら、その巨大な機体が俺の目にもハッキリ映る。
 制御用だった星皇社長を模範した人工知能はすでに機能停止していても、別途制御機能は用意されたということか。

「それでは、自分達もこれにて失礼します。ミス空鳥にもよろしく言っておいてください」
「ワイからも言うといてもらおか。次にうた時はこないな結末にはせえへん。今度こそ誰にも邪魔されへんようにして、決着つけたるからな」
「あなたは本当にどうしてこうも血気だけ多いのか……。まあ、いいでしょう。さあ、退避願います」

 冷静に淡々と言葉を交わすラルカさんに対し、いまだに隼への対抗意識を燃やす牙島。その二人は接近してきたコメットノアに飛び移り、俺達が追う暇もなく飛び去ってしまった。
 いや、仮に追う暇があっても追えるような状況じゃない。あの空中戦艦こそ、敵の本当の拠点と言えよう。
 俺とフェリアだけでは洗居さん救出どころか、人質の数を増やすだけだ。

「……くそぉ! いいように遊ばれて、栗阿を助け出すチャンスも逃したってか!? 畜生ぉお!!」
「焦れる気持ちは分かる。だが、ここで追わなかった判断は適切だ。敵が強大すぎる」
「……ああ。俺もどうにか飛び移る衝動を抑えられるぐれえには冷静だ。……そういや、あの空中戦艦にはクジャクおばさんも乗ってたのか? タイミング的にあの人の救援でもあるだろうし、空鳥の方はどうなったんだ……?」

 フェリアもこの不完全燃焼な結末に憤慨は示すが、どうにか自らを落ち着かせている。その上で考察をするが、俺としても隼とクジャクさんの結末は気になる。
 時間自体はそれなりに経過している。あっちの方も何かしらの進展があったはずだ。
 せめて隼自身が納得できる話ができてればいいのだが――



「タケゾー! フェリアさん! よかった、無事だったんだね!」
「隼の婿殿もフェリアも大したものだ。あのラルカ右舷将と牙島左舷将の攻勢に耐えてくれたとはな。私も迷惑をかけたが、まずは二人の無事を祝わせてくれ」



 ――そうこう考えていると、コメットノアが飛び去った窓から隼がデバイスロッドに腰かけて姿を見せてきた。
 おまけにその横には渦中の人物であるクジャクさんの姿。どこか仲良さげに寄り添いながら、二人でこちらに声をかけてくれる。

「ク、クジャクおばさんと空鳥が一緒に……? こ、これってどういう状況だ? さっきのコメットノアで一緒に逃げたんじゃ……?」
「フェリアよ。迷惑をかけた身で厚かましいことは承知で言わせてくれ。私はこれより、隼と共に天鐘の野望を打ち砕く道を歩む。その方の婚約者とてウォリアールの未来のため、必ずや救い出してみせよう」
「そゆこと~。詳しい話は後でするけど、とりあえずはクジャクのおばちゃんも味方になってくれたってことさ」
「ど、どうなってんだ……? なんで二人がこんな仲良さげに……?」

 その様子を見て言葉を返すフェリアは、さらに二人の親密さを見て戸惑っている。
 俺も不思議には思うし、屋上で何があったのかは気になる。ただ、心配するような結末でなかったことは事実だ。

 ――お互いの名前を呼び合う姿を見ても、俺には『仲のいい叔母と姪っ子』にしか見えない。
 心の壁など取り払われ、言ってしまえば最善の結末ということか。隼も納得できる話ができ、さらにはクジャクさんまでもがこちらに味方してくれた。

「流石のクジャクさんでも、可愛い姪っ子の懇願には逆らえなかったってことですかね?」
「ほう? 中々に婿殿は鋭いな? ……いや、婿殿という呼び方も失礼か。今後は隼と同じく『タケゾー殿』と呼ばせてもらうぞ」
「……すいません。『タケゾー』は隼が昔から俺に付けてるあだ名なんです。俺の本名は『武蔵』なんです」
「おお、そうであったか? しかし決まった呼称を持つなど、中々に仲睦まじい夫婦であるな! ハハハ!」

 思えば、俺がこうしてクジャクさんと直接言葉を交わすのも初めてだ。その割には遠慮ない距離感でズケズケと入り込んでくる。
 こういう姿は誰かに似てる。俺にとっても昔から憧れていたヒーローと同じだ。

「……クジャクさんと仲良くなれてよかったな、隼。話してみれば、いい叔母さんだったってことだろ?」
「こんだけ少ない情報でそこまで察しちゃう? タケゾーは名探偵どころか、エスパーか何かですか?」
「それ以上にお前の幼馴染にして夫だ。……とりあえず、お前が元気そうで何よりだ」

 そんなヒーローにして今の嫁さんとも軽い調子で語り合い、この場は乗り切れたことを認識する。
 まだ洗居さんは助け出せていない。天鐘の足取りも再度追う必要がある。
 だが、今回の件は大きな前進だ。クジャクさんが味方につき、隼自身にも一切の迷いが消えた。

 ――準備は整ったと言ったところか。後はひたすら目的を目指し、邁進するのみだ。
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