空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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武神女帝編

ep434 極彩鳥の武神女帝:マーシャルクイーンⅢ

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「んぐうぅ!? ガハァ……!?」

 アタシが電撃を纏わせてフルスイングしたデバイスロッドは、クジャクさんのどてっ腹にクリーンヒット。
 直撃とほぼ同時に時間停止も解除され、その体も大きく後方へ吹き飛んでいく。


 ズシャァァァア!


 屋上を激しく滑った後、仰向けに横たわったままのクジャクさん。アタシも加減はしなかった。そんなことはできなかった。
 この一発で仕留めないと、アタシに勝ち筋なんてない。圧倒的技量に時間停止術まで使いこなすクジャクさんが相手では、こっちが全力を出しても届くかさえも危うい。

「ハァ、ハァ……! こ、これで終わりかい……?」

 今だって、アタシは緊張で息を切らしてる。冷や汗だって止まらない。
 言葉では強がっていても、内心では『これで終わってほしい』って気持ちでいっぱいになる。技量も能力も含めると、フレイムやデザイアガルダとは違うベクトルで勝てる予感がしなかった相手だ。
 これでもう一度立ち上がられたら、アタシでも勝てる自信が――



「……ハハハハ! 見事! 実に見事! 戦いで地に背中をつけたことなど、生まれて初めての経験であるぞ! かえって愉快であるな! フハハハ!」



 ――もうなくなるのに、クジャクさんは上半身をゆっくりと起こしながら言葉を紡いでくる。
 思いっきり笑い声をあげてるし、まだまだ全然余裕と見える。この人、耐久力に関しても生身で常人越えしちゃってるよ。

「……やっぱ、まだやるつもり? だったら、まだ相手してあげるよ……!」

 クジャクさん自身は掃天笏を支えに体を起こしてくるし、こっちもデバイスロッドを構えなおして再度交戦の準備に移るしかない。
 手に汗握るとはこのことか。今まで何度もヴィランと戦ってきたけど、ここまで心理的なおぞましさを感じるのは初めてだ。
 一対一での勝負。母さんのお姉さん。高い実力にそれらの要因が連なり、十分なプレッシャーとして押し寄せてくる。



「……いや、もう十分だ。こうして倒れた以上、私も負けを認めよう。……この勝負、隼殿の勝ちだ」
「……え? へ?」



 だけど、次のセリフを聞いたアタシは思わず拍子抜け。どういうわけかあっさり負けを認めるクジャクさん。
 見た感じ、まだ戦えそうなんだけど? むしろアタシの方が押されてる気さえするんだけど?
 そういや、前にクジャクさん観察の下でフレイムと決闘した時も、中途半端なタイミングで勝負の判定を下してたよね。
 あれについては今思えば、アタシがクジャクさんの姪っ子だったからで――



「……もしかして、今回もあの時と同じってこと? クジャクさんの本当の目的って、アタシを王位にすることじゃなくて……?」
「……フッ、そういう鋭さは将鷹殿譲りか。私の思惑でさえ、見透かすことができるのか」



 ――ただ、ここでアタシの脳裏に奇妙な感覚が浮かび上がってくる。今回の勝負を振り返っても、クジャクさんの様子はどこか妙だった。
 多分、もっと本気を出せばアタシなんかすぐさまねじ伏せれたと言うべきか。変に余裕を見せなければ、時間停止のカラクリさえバレずに終わらせることだってできたはずだ。
 なのにクジャクさんはそうしなかった。どちらかと言えば『アタシと遊んでた』感じの余裕を持ち続けていた。

 ――いや、おそらくは本当にこの人は『そうしたかっただけ』なのだろう。



「もう、私の本心にも気付かれたようだ。隼殿の思う通りだ。……私はただ、隼殿と『戯れる時間がほしかった』だけさ」



 その推測が正しいことを、すぐさまクジャクさん自身の言葉で理解する。
 傍から見れば、なんともはた迷惑な願望に思えるかもね。要するにアタシと遊びたいってだけで、国家転覆を狙う一派に手を貸してたってわけだ。
 アタシが反発することも織り込み、タイミングを見計らってこの屋上で待っていた。王位の話だって、最初からどうでもよかったのかもしれない。

 ――でも、アタシにはこの人の全てを否定しきることができない。

「隼殿の存在は、私も二十年から知っていた。知っていながら、接触することも叶わなかった。もし安易に接触すれば、それはツバメ達夫婦の気持ちを踏みにじることになる。……私はウォリアール王族分家当主として、戦いの世界に身を置く者。二人が望んだ『娘に与えたい平穏な世界』の対極に位置する者だ」
「だけど、アタシは星皇社長や固厳首相の一件に関与することで、いつの間にか将軍艦隊ジェネラルフリートと――ウォリアールと関わりながら戦っていった……」
「ああ。その事実を知った時、不甲斐なくもチャンスと考えてしまった。あわよくば再び王族にとも思ったが……そんなことはさして重要ではない。私はただ……会いたかった。そして語らいたかった。ツバメの――妹の忘れ形見に、どうしても……この目で見て、この手で触れて……! クク……ハハハ……!」

 本当のクジャクさんの目的、本当にクジャクさんがやりたかったこと。それは『アタシと共に過ごす時間』以外の何物でもない。
 母さんの娘であるアタシの存在を知りながら、どうしても接触の機会がなかったことへの苦悩。それが空色の魔女というヒーローを介することで、手が届くところまで来たことによる願望。
 心根を吐露する中でクジャクさんは顔を押さえ、涙を流し始めている。ただでさえウォリアール重鎮という立場で接触が難しかったのに、それが可能な範囲まで来れば欲が出て当然だ。

「ただ、私はこれまで長らくウォリアールにおける武の象徴として、戦うことでしか何かを示せなかった。……強引なやり方であったことは謝罪する。デザイアガルダへの復讐も隼殿には無断で行うどころか、こうして戯れに戦う機会の道具として使ってしまった。隼殿も一時的に洗脳される事態に陥った。……蔑むであろう? このような愚者が隼殿の叔母では――」
「蔑みなんかしないさ。正直、アタシも今の気持ちを全部は言葉にできない。だけど、なんだか『嬉しい』って気持ちだけはあるのよね」
「じゅ、隼殿……?」

 この人、ウォリアールじゃ崇められてるみたいだけど、実際には不器用な人だよね。自分の気持ちを表すって面でさ。
 アタシが戦い自体は嫌いなことを知ってても、わざわざ戦える機会まで作っちゃうとはね。本当、こういう『言葉で気持ちを言い表せない不器用さ』ってのは誰かさんに似てる。



 ――アタシみたいにさ。やっぱ、アタシとこの人は血が繋がってる。悪い気持ちはしないけどね。



 巻き込まれた形で勝負になったけど、なんだかアタシの心はスッキリしてる。それさえも言葉で説明できないけどね。
 でもクジャクさんが矛を収めてくれた以上、もう戦って触れ合うなんてのはやめよう。苦手でもいいから、アタシはこの人と言葉で接したい。

 ――そのための最初の言葉は、アタシの方から頑張って口にしましょうか。



「ねえ、クジャクさん……いや、クジャクのおばちゃん。少しだけ話をしない? 余計な考えは抜きにして、思うままにさ」
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