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武神女帝編

ep431 最強の貴婦人が立ちはだかってきた。

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「やけに悲しそうな顔をするものだな? その者は隼殿にとっても、忌むべき怪物であろう?」
「そうなんだけど……アタシは簡単に割り切れるほど強くないよ……」

 デザイアガルダにトドメを刺し、相変わらずの優雅な貴婦人スタイルでこちらへ歩みを進めてくるクジャクさん。この人からすれば、この程度のことは造作もないといった様子だ。
 ただ、表情にはどこか影が見える。それについては当然と言えば当然の話か。

「この怪鳥は妹であるツバメと、婿殿である将鷹殿を手にかけた大罪人だ。先程までもその娘である隼殿に危害を加えていた以上、私も見過ごすわけにはいかない」
「……『アタシに危害を加える』って点で言えば、クジャクさんも似たようなもんだけどね」

 むしろ、デザイアガルダにとってはここまで生かされていたことの方が幸運だったのか。いや、人ならざる怪物にされた時点で、もう鷹広のおっちゃんは人間としては死んでいた。
 そして、完全に生命としての引導を渡したのは、鷹広のおっちゃんによって妹夫婦を殺されたクジャクさん。いくら天鐘一派に与していようとも、デザイアガルダのことだけは許せなかった。

 ――そんな心境が一発で分かる表情だ。

「デザイアガルダの件については、アタシとしてもコメントしづらいね。……ただ、今回こうしてクジャクさんに会いに来たのは、そんな復讐談義を聞くためじゃないさ」
「……ハハハ、そうであろうな。さしずめ、私の真意を問いたいといったところか?」
「ああ、その通りさ。……そこまで予測できてるのなら、アタシがこんな強引な方法で王位を継ぎたいなんて思わないことも分かってるよね? クジャクさんだって、そのことは承知で条件を提示したはずだよね?」

 言いたいことは多々あれど、今一番尋ねたいのはクジャクさんが天鐘と手を組んだ理由にある。話を切り替えれば、向こうも気持ちを切り替えるように軽く笑いも交えてくる。
 そもそも、アタシに『王家に戻るか戻らないか』の選択肢を与えたのはクジャクさんだ。それなのに『アタシを無理矢理王位に就かせようとする天鐘』なんかと手を組むなんて、いくらなんでも矛盾してる。
 その理由を本人の口から聞かない限り、アタシの中にあるモヤモヤは晴れない。

「……ふむ。確かに私は天鐘殿と手を組んだ。それについては事実と認めよう。その理由についてだが、これは個人的に二つの思惑があったからだ」
「思惑が二つも? 一つは何なのさ?」
「一つについては、つい先程成し得た。ツバメ達家族に不幸を振りまいた悪しき元凶に、私の手で制裁を加えたかったのだ。あの怪鳥の弱点が分からぬことには、いくら私とて倒すことは叶わなかったのでな」

 ようやく語ってくれるクジャクさんの目的の一つ。それは早い話が復讐だ。
 淡々と語ってはいるけれど、その表情には再び影が差している。確かにあんな不死身同然のデザイアガルダを倒すには、飼い主である天鐘の懐に入って弱点を調べないとどうにもならない。
 復讐自体の良し悪しを問いたいけど、それはあまりに不躾がましいと言える。実の妹を己の欲求のために殺した男なんて、反吐が出る程憎いに決まってる。

 ――アタシも心のどこかで、その気持ちを否定できない。

「だったら、もう一つの目的ってのは?」
「……それについては天鐘殿の思想と同じくだ。隼殿がウォリアール王家に戻ること。その一点に限る」
「……それをアタシが嫌がっていても? 考察する期間を与えていたのに?」
「人の心とは移ろうものでな。隼殿の未来とウォリアールの未来。その二つを考慮した場合、やはり隼殿には王家へ戻ってもらいたいと考えた次第だ」

 ただ、もう一つの目的についてはやはりそのままだ。クジャクさんはアタシとの約束を反故にし、天鐘の強硬手段に手を貸したことを認めてくる。
 これで『デザイアガルダへの復讐』だけが目的だったなら、アタシの心もどれだけ楽だったことか。でも、クジャクさんの願望は強そうだ。

「そもそもはアタシとフェリアさんの『どっちが次期王位に相応しいか?』って話で、さらには『フェリアさんには実績がない』ってことだったよね? それだったら、アタシは問題ないと思うよ。……フェリアさんの実績はこれから作られていく。あの人と一緒に戦ったりして分かったけど、実力自体は申し分ない。洗居さんのために前線へと出る気概だってある」
「トップに就くための実績とは、先んじて定められていないと困る。『これから』などという話では、王位を継がせるに値しない。隼殿が築き上げたヒーローという地位や実績のようにはいかぬ」
「……どうしても実績前提って考えは変わんないってわけね。なら、アタシからもそこへ反論させてもらうよ」
「ほう? この私に意見とな?」

 ここはアタシが生まれ育った国じゃない。世界の裏側にも触れる軍事国家ウォリアールだ。
 それでも、アタシなりに言いたいことはある。それがこの国にとって、受け入れられない話でもだ。



「実績なんて……道筋なんて、当人にだってどう作られるのか分かったもんじゃない。現実は台本に書かれたシナリオじゃないんだ。アタシの『ヒーローという実績』だって、王位に就くためのものじゃない。……アタシの行く道を勝手に決めないでもらうよ、クジャク・スクリード」



 ちょいと憤慨も交え、クジャクさんへデバイスロッドを突きつけ、睨みながら思うことをそのまま言葉にしたアタシ。ここまで強引にことを進められて、いい気なんてしなかったからね。
 アタシは確かにヒーローとしての実績を積んできた。だけど、それらは全部『偶然に重なった偶然』と『アタシ自身の思うがまま』で作られた道のりだ。
 何か特別な存在になりたかったわけじゃない。アタシはただ、目の前で困っている人を見過ごせなかっただけ。そんな困っている人達を助けられる力を持っていただけ。
 多分、クジャクさんはアタシが『困難に立ち向かう強い人間』とでも見えてるんだろうね。でも、そんなことはない。むしろアタシは弱い人間だ。



 ――タケゾーやフェリアさんといった『支えてくれる強い人達』がいたから、アタシはここまで辿り着けたに過ぎない。



「……ハハハ。フハハハハ! 実に面白きことよ! 流石はツバメと将鷹殿の娘! この私にここまでの啖呵を切る者など、ウォリアールを探してもおるまい!」
「そりゃどうも。誉め言葉と受け取っとくよ。……それで? アタシの心根を聞いたクジャクさんはどうするつもり?」
「私の目的は変わらぬさ。もとより、こうなることも想定の範疇。ここからはウォリアールの礼節に則り、この国において『武神女帝』とも『マーシャルクイーン』とも称される我が力によって、隼殿の道を決めさせてもらう!」

 アタシとしても、クジャクさんがどう出てくるかは想定できた。この国のやり方としても、天鐘の手段としても、手法としては『戦って決める』という点は変わらない。
 かなり大層な肩書を持ったクジャクさんだし、その能力の底はいまだに見えてこない。下手をすればフレイムをも超える『本当のウォリアール最強』でもおかしくない。
 手に持っているステッキを持ち直し、威風堂々と構えるクジャクさん。アタシも負けじとデバイスロッドを握る手に力を込める。

 ――それでも、アタシはやってやる。アタシ自身の道筋だって、もう決めた話だ。



「さあ、来い! ウォリアール王族スクリード家の血を引きし者よ! 己の道を選びたくば、このクジャク・スクリードを打倒することで示してみよ!!」
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