空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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武神女帝編

ep430 この場はイケメンコンビに任せたよ!

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「ア、アタシ一人で屋上に行けってこと!? そ、それは流石に――」
「いや、赤原の言う通りだな。俺としても、クジャクおばさんの真意は聞きてえ。そうしねえと、この騒動の糸口も掴めねえ。……俺からも頼む。栗阿救出のためにもなるし、空鳥は先を急いでくれ」

 タケゾーが思わぬ提案をするもんだから、アタシもちょいと尻込みしてしまう。だけど、フェリアさんまで同調するように言葉を交えてくる。
 確かにこの場所は吹き抜けだから、ラルカさんと牙島の足止めさえしてくれれば、アタシ一人で空を飛んで突き抜けることはできる。
 クジャクさんがいるのは屋上。上を目指すだけならば、道に迷うこともない。

「隼だって、クジャクさんの本心を聞かないとスッキリしないだろ? ここは俺とフェリアに任せろ。お前の方で決着が着くまでなら、なんとか持ちこたえてみせる」
「最悪、頃合いを見て脱出するさ。フクロウも俺達の反応が鈍いと思えば、またタワーに突っ込んで救援に来てくれる手筈にはなってる」
「あれはあれで強引すぎるんだけどね……。でも、そこまで言ってくれるならお言葉に甘えさせてもらうよ。アタシだって、このまま時間だけを潰すのは嫌だったからさ」

 三人でも苦戦する相手に二人だけで任せるのは忍びないけど、このまま戦力を集中させていてもあまりいい結果は見えてこない。
 天鐘一派の権力者たるクジャクさんから情報を得ることこそ、巡り巡って天鐘の野望阻止と洗居さん救出にも繋がってくる。

 ――最優先事項のためにも、今は二人を信じるしかない。



「分かった! そいじゃ、後のことは任せたよ!」
「おや? ミス空鳥が一人で上に向かいましたか」
「悪いが、あんた達の相手は俺とフェリアだけでやらせてもらう。……よそ見しないでもらおうか!」



 決まった以上はアタシもすぐに動くのが一番だ。デバイスロッドに腰かけ、吹き抜けを上の方へと上がっていく。
 タケゾー達もラルカさん達へと再度挑み、アタシへの追走を食い止めてくれてるのが声で分かる。もうこうなったら、後のことは祈るしかない。

 ――アタシはどうしても、クジャクさんと話をしないと気が済まない。

「あれって天窓!? 空が見えるから、屋上にも通じてるよね! ……よし! 行くぞぉぉお!」

 屋上への道も見えてきた。タケゾーとフェリアさんが繋いでくれたこの道を、無駄にするわけにもいかない。
 急速浮上を続け、そのまま体当たりで天窓へと突っ込んでいく。


 ガシャァァアン!


「あたたた……! ガンシップでの突撃じゃなくて、生身で高層フロア用ガラスに突っ込むと流石に痛いか。……でも、ようやく屋上へ辿り着けたね」

 ちょっと強引だったけど、ようやく目指すべき場所だった屋上へと到達。外は完全に日が暮れており、夜空には月が輝いている。
 風情を感じたいところだけど、そんな目的でここへ来たんじゃない。気持ちを切り替えて辺りを見回し、クジャクさんがいないか確認してみる。

「ちょいと暗くて分かりづらいね。コンタクトレンズの暗視機能をオンにして――わわっ!?」

 ただその時、アタシの体が何かによって強引に引っ張られる。夜闇に紛れて気付かなかったし、その何かはかなりのスピードでこちらへ迫ってきたせいで反応が遅れた。
 まるで全身を鷲掴みにされたようなこの感覚。なんだか覚えがあるけれど――



「グゲアァァァア!!」
「デ、デザイアガルダ!? まだいたの!?」



 ――なんてこった。これは失念していた。
 アタシ達はデザイアガルダの足取りを追って、この場所へとやって来たんだ。こいつがいることも考慮しておくべきだった。
 己の浅はかさを悔いるのも虚しく、アタシの体はその巨大な足で屋上へと叩きつけられる。

「く、くそっ!? や、やめて! あ、あぐあぁぁあ……!?」
「グゲェェェエ!」

 今回は以前のように摩り下ろすのではなく、そのままアタシを自重と屋上でプレスしてくる。
 こっちにタケゾーのサポートがなければ、向こうが大きく動くこともない。身動き自体取れないので、反撃して脱出も厳しい。

 ――せっかくここまで辿り着いたのに、こんなところで終わっちゃうってこと?

「ゲホッ……カハァ……! い、息が……!?」

 肺も圧し潰され、息をするのも苦しくなってくる。反撃するとか以前の話だ。アタシの強化細胞による守りさえも超えてくる。
 目的はクジャクさんだったのに、アタシはここで人間辞めた肉親に殺されるしかないの? せっかくタケゾーとフェリアさんが繋いでくれた気持ちも、無駄になっちゃうの?
 こんな結末を認めたくはないけど、もうどうすることも――



 カチンッ バシュンッ!!


「ゲガッ……!?」
「……え? な、何が起こって……?」



 ――全てを諦めかけたその時、突如デザイアガルダの体が大きく崩れ落ちる。
 狂気を含んだその瞳も、まるで『何が起こったのか分からない』といった様子。ただ、その瞬間からデザイアガルダは動きを止めた。
 アタシを圧し潰していた足からも力が抜け、この危機的状況からも脱することができた。恐る恐るデザイアガルダの様子を伺ってみるも、こちらに反応を示すことすらない。

「こ、これってまさか……死んでる? 頭の後ろからの出血……? ほ、本当にどうなって……?」

 分かることは一つだけ。デザイアガルダは完全に息絶えているということ。
 電撃魔術玉にも耐える回復能力を持ちながら、あっさりとデザイアガルダはその生涯を終えていた。

 ――正直、うまく言葉にできない。この人には恨み辛みがたくさんあるけど、やっぱりにアタシにとっては肉親だ。
 そんな人が殺されたとなると、心のどこかで悲しくもなる。アタシも本当に甘いもんだ。



「その者とて、永遠の命を手にしたわけではない。アポカリプスによって頭蓋に形成された核を破壊されれば、息絶えることとなる」



 ただ、この状況下において一番気にするべきは『誰がデザイアガルダを殺したのか?』――もとい『誰がアタシを助けてくれたのか?』ということ。その人物の姿は、顔を上げればすぐ目に映る。

 デザイアガルダの弱点を語りつつ、先端に血の付いたステッキをつく貴婦人の姿。アタシがここまでやって来た最大の理由。
 何よりこの人ならば、常人には理解しがたい動きだってできる。

 ――夜の月に照らされながら、アタシにもハッキリその姿をようやく確認できた。



「待っていたぞ。我が妹、ツバメ・スクリードの子……空鳥 隼よ」
「クジャクさん……」
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