空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
424 / 465
武神女帝編

ep424 永遠なる黙示の怪鳥:デザイアガルダ・フォーエバーⅡ

しおりを挟む
「タケゾー! そっちは大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。そっちもうまくいったみたいだな。……さて、これで問題はあの怪鳥だけか」

 それぞれ周囲の安全確保に回っていたアタシとタケゾーも合流し、空中でデザイアガルダの前方へと構える。
 もう余計なことを考えるのはやめだ。悲惨な目に遭った肉親だろうと、ここで止めなきゃいけない事実は変わりない。
 今回はアタシもモデル・パンドラを装備してるし、ジェットアーマーを装着したタケゾーだっている。どれだけデザイアガルダ・フォーエバーと名乗ろうがGT細胞アポカリプスだかで強化されてようが、負ける気なんてない。

「グゲエェアァァア!!」
「なんとも言えない姿になったもんだ……。だけど、目の前に悪行を働くヴィランがいるのに見逃してたら、ヒーローの名が廃るってもんよ!」

 もう肉親どころか人間でもなくなったデザイアガルダも、ようやくアタシ達へと意識を向けてくれる。
 さっきまでの暴れようといい、完全に理性を失った怪物にしか見えない。

 ――これは下手に戸惑わず、全力勝負で叩きのめすのが最善か。

「タケゾー! デザイアガルダの気を引いておいて! 電撃魔術玉で速攻勝負に出るよ!」
「ああ! お前の準備ができるぐらいには持ちこたえてみるさ!」

 時間をかけるのさえももったいない。また矛先が街のみんなに向いたら大変だ。
 タケゾーもそれを理解し、アタシの言葉を素直に飲み込んでくれる。
 いつの間にかタケゾーもヒーロースタンスに慣れたもんだ。あくまでアタシのためってことけど、それがアタシにとって何よりも心強いのもまた事実。
 アタシヒーローにとっての旦那様ヒーローはその期待通り、デザイアガルダ目がけて突っ込んでいく。

「グゲエェェエ!」
「俺もだいぶ慣れたもんだ! 最初は怖気づくしかなかった怪鳥相手に、ここまで戦えるとはな!」
「いい調子だよ! こっちも慣れてきたのか、チャージタイムも短くなってるねぇ!」

 タケゾーにとってもアタシにとっても、デザイアガルダは親の仇だ。まさかここまで因縁が長引くとは思わなかったけど、もうそれもここまでとしよう。
 加減はしない。全力でやらないと、デザイアガルダは止まらない。

 ――この一撃で、因縁もろとも吹き飛ばす。



「食らえ! 電撃魔術玉ぁぁああ!!」


 ギュゴォォォオオン!!


「ゲガァァアア!?」



 タケゾーが引きつけ、アタシが放った電撃魔術玉の一撃。デザイアガルダにクリーンヒットし、空中で盛大に火花を散らせる。
 普通に使ったら死亡確定の一撃だけど、アポカリプスで強化された相手ならこれぐらいは必要だ。アタシも一度は被害に遭ってるから、おおよその見当はつけられる。
 デザイアガルダも体中から煙を吹きながら、力なく墜落して――



「……グゲアァァアア!!」


 ボコボコココッ!


「えっ!? 嘘!? もう立て直してる!?」



 ――行くと思ったのに、体から立ち込める煙を振り払いながら、デザイアガルダは再びこちらへと浮上してきた。
 まさか、あの電撃魔術玉が効いてなかったとでも? いや、確かに手ごたえはあった。
 耐久力が格段に上がってるとも考えられるけど、それならば一時的な墜落さえもおかしい。
 そうなってくると、考えられる要因は別になってくる。

「超回復……!? 牙島のトカゲの尻尾みたいな再生能力が、デザイアガルダにも備わったってことか……!」
「だとしても、尋常な回復力じゃないぞ!? あの一撃も即座に回復させるなんて、どうやって倒せばいいんだ!?」

 タケゾーとも言葉を交わすけど、これは『異常なまでの回復力』と見るのが適切か。RPGで毎ターン完全回復するボスキャラみたいだ。
 実際、デザイアガルダが立ち直る時、奇妙なボコボコという音が聞こえていた。
 信じがたい話だけど、あれは細胞が急速に再生する音だったと思われる。音が聞こえる程のスピードで再生する細胞って、言葉で理解できても頭で理解を拒みそうになるけどね。

 ――まさに怪物。完全に禁忌の存在。最早生物かも怪しい。

「グゲアァァアア!!」
「くっそ!? これは想像以上でしょ!? トドメが刺せないってことで――あぐうぅ!?」
「じゅ、隼!?」

 こっちの考察もそこから湧き上がる畏怖も、デザイアガルダには関係ない。再生したかと思うと、すぐさまアタシを両足で鷲掴みにしてくる。
 パワーもこれまでと桁が違い、強引にアタシの体を壁に叩きつけて摩り下ろすように宙を舞ってくる。

「いってて……!? 本当に暴れてるだけってかい!? でも、こっちもこのまま大根おろし体験なんてする気はないよ! タケゾー! ちょいと接続させて!」
「トラクタービーム!? ……よし! こっちは任せろ!」

 モデル・パンドラによる防御力がなければマズかった。こうなったら、無理矢理にでもデザイアガルダを引き剥がすのが先だ。
 なんとか摩り下ろしに耐えながら、左手のトラクタービームをタケゾーのジェットアーマーの右腕に接続。タケゾーもそれで何かを察してくれて、大きく宙を旋回しながら飛行してくれる。
 相手が完全に人間を辞めたバケモノだろうと、アタシ達夫婦の絆を舐めないでほしい。完全に沈黙は無理でも、この戦況をひっくり返すぐらいのことはできる。

「生体コイル……フル稼働! そんでもって……飛んでけぇぇええ!!」
「ギギャァァア!?」

 自らの身に電撃を纏わせ、デザイアガルダを怯ませながら、残った右手で掴みかかる。さらには壁を蹴った反動を利用し、トラクタービームで繋がったタケゾーを軸に旋回。
 タケゾーもこちらの動きに合わせてくれるので、そのまま振り回すようにデザイアガルダを投げ飛ばす。


 ズゴォォォオオン!!


 アタシから引き剥がすこともでき、デザイアガルダ自身も別の建物の壁へと叩きつけられた。
 結構な轟音を響かせているし、普通ならこれでノックアウト確定なんだけどね。

「グギャァァアア!!」
「やっぱ、決定打にはならないか……!?」
「こんなの、どうやって倒せばいいんだ……!? 持久戦になったら不利だぞ……!?」

 予想通り、デザイアガルダはすぐに砂煙の中から姿を見せてくる。タケゾーとも空中で並んで様子を伺うも、これは本当に困ったことになった。
 デザイアガルダ・フォーエバーとなったあいつには、これまでの攻撃なんて意味を成さない。電撃魔術玉が効かなかった時から予想してたとはいえ、中々ショックだ。

「……なあ。あの青い太陽なら、デザイアガルダを止められないか?」
「可能性があるとすればそれだけなんだけど、流石にあれをこんな街中で使うのはためらっちゃうね。……それに『やりすぎちゃう』恐れもある」

 一応、アタシにはまだ使ってない攻撃手段はある。核融合のエネルギーを直接ぶつける青陽せいようならば、デザイアガルダにも十分な一撃は与えられるはずだ。
 でもそれをやると、いくらデザイアガルダだって『肉体そのものが消滅する』恐れが出てくる。
 完全に人間を辞めたとはいえ、やっぱり殺すことはしたくない。そこはどうしてもブレーキをかけたい。

 ――曲がりなりにもアタシの肉親ならばなおさらだ。

「ゲギアァァアア!!」
「チィ!? とにかく、今はもちこたえること優先で!」
「わ、分かった!」

 どれだけ狂ったように暴れようと、どれだけ人間離れした姿を見せられようと、アタシの脳裏には鷹広のおっちゃんの姿が蘇る。
 もうそんな過去は戻ってこないことは分かってる。なのに、過去の思い出がアタシの心にブレーキをかけてくる。



 ――この戦い、肉体的にも精神的にも苦しい。アタシにはどうすればいいかの決断ができない。



 ドガァァァアアン!!


「グゲェエ!?」
「え!? 今度は何!? 砲撃!?」

 そんな苦悩の最中、突如向かってきたデザイアガルダの肉体が爆炎に包まれる。
 それで動きを止めてるし、デザイアガルダ自身の能力じゃなさそうだ。どちらかと言えば、大砲でも直撃した感じか。
 でも、そんなことを誰が――



「フオオオオォ!」
「フ、フレイム!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...