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もう一つの故郷編

ep396 タケゾー「俺には何ができるのだろうか?」

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「隼の奴、寝ちまったか……」
「心労が祟ったのは想像に難しくありません。私もどう言葉をかければよいものか……」

 フェリアさんの部屋に戻ってきた隼は、そのままソファで横になって寝息を立て始めた。
 隼にとってはあまりに衝撃的な話の内容だっただけに、気疲れも大きかったのだろう。今はただ、隼が穏やかな顔で眠っているだけでもありがたい。

「なあ、フェリア。悪いんだが、今日はお前の部屋で一晩過ごさせてもらってもいいか?」
「ああ、構わねえよ。俺にしたって、空鳥のことは放っておけねえ。……どうにかこいつが納得できる結末になればいいんだがな」

 俺達夫婦のための寝室は用意してもらえているが、今の隼を起こして連れて行くのも気が引ける。
 ここウォリアールにおいて、今一番安心できる場所は今いるフェリアの部屋だ。当人にも許可を取り、今夜はここで過ごさせてもらおう。
 フェリアもタオルケットを差し出してくれたので、隼の体にそっとかけてやる。

「ハァ……それにしても、俺もどうすればいいもんか……」
「タケゾーさんも少しは休んでください。あまり思い悩みすぎても、今度は空鳥さんが心配されてしまいます」
「それは分かってるんですが……」

 洗居さんが俺用のタオルケットも用意してくれるも、中々体を休める気にはなれない。
 俺も隼が休んでいる間に少しでも頭を働かせ、どうすればいいかを考えておきたい。だが、今回は本当にいい案が浮かばない。
 隼の出生にまつわる問題で、何よりも隼が選ぶべき問題だ。国を背負うという大規模もあって、俺が余計な口出しをできた立場でもない。

 ――無力な夫だと嘆きたくもなってくる。



「夜分に失礼するっしょ、フェリッチャン。ソラッチャンとアカッチャンはまだいるかい?」
「フクロウさん!? どうしてここに!?」
「オレッチもついさっきラルカ右舷将から話を聞いたもんでね。……ソラッチャンの出生と今後についてのさ」



 俺が椅子に腰かけて悩んでいると、突如部屋にフクロウさんが押し入って来た。
 この人は将軍艦隊ジェネラルフリートに所属しているとはいえ下っ端だ。仮にも王族であるフェリアの私室にこんな堂々と押し入って大丈夫なのだろうか?
 まあ、フェリア自身もフクロウさんの『フェリッチャン』という呼称へ特にツッコんでないし、気にするほどでもないのだろう。一応フクロウさんには『星皇社長の元夫』という肩書だってある。
 カジノで別れた後のことは知らないが、そんなことよりも隼のことが心配な様子と見える。
 その立場もあって特別に事情を説明され、駆けつけてくれたのか。

「隼も話を聞かされて、今は頭がショートしたのか寝込んでます。フクロウさんもこのことは知らなかったんですよね?」
「ああ、オレッチも初耳だ。時音からも聞かされてなかったさ」
「空鳥の血縁については、俺のような王族や将軍艦隊ジェネラルフリートの五艦将ぐらいしか知らねえ話だ。今だって国民には伏せられてはいるが、一部の人間は気付き始めてる。……酷な話だが、早々に今後を決める必要はありそうだな」

 フクロウさんも交えて、俺達は隼のことで少し話を進める。その中で耳にしたフェリアの言葉から、俺達夫婦がウォリアールに来た時に感じた周囲の視線の意味も読み解けてきた。
 『新たにウォリアールの次期トップとなる可能性を持った人間』となれば、小さくても噂の火種としては十分か。
 フェリアも言う通り、あまり判断に時間をかけるのも得策とは言えない。下手に飛び火する前に今後を決めるのが一番だろう。

 ――それでもこんな途方もない話、今俺達でどう考えても先が見えてこない。



「……なあ、アカッチャン。仮にソラッチャンが『ウォリアールの王族に戻る』と言えば、素直に一緒するつもりかい?」
「……え? そ、それはまあ……俺は隼の傍にいたいですからね。苦労はあるでしょうが、ショーちゃんもこっちに招いて生活するかなと……」



 そうやって悩み続ける中で、フクロウさんは俺に言葉を差し伸べてきた。
 この話自体は隼の問題だが、選択次第では俺達家族にも降りかかってくる話だ。ただ、俺自身の気持ちは変わらない。
 隼がどの道を選ぼうと、俺はその隣を共に歩んでいきたい。ショーちゃんやおふくろ、玉杉さんといった街のみんなにも説明は必要だが、そこも一緒に乗り越えていきたい。
 相変わらず惚れた弱みだとは思うが、それが俺の素直な気持ちだ。ここまで大きな話が舞い込んでくることは予想できなかったとはいえ、一緒に話し合いながら未来へと進んでいきたい。

「……アカッチャンのことだから、言葉相応の覚悟は背負ってるってことっしょ。だったら、今のアカッチャン達にできることは簡単さ。ソラッチャンが話の重さに押しつぶされたり悩みすぎたりしないよう、傍に居続けることだね」
「そうは言いますが、こんな話を傍にいるだけってのも――」
「オレッチは昔、苦しむ時音の傍にいてやれなかった。『傍にいるだけ』ってのは簡単に聞こえても、悩む人間にとっては一番の薬っしょ。今のアカッチャンにそれ以上を望むのだって酷な話さ」
「フクロウさん……」

 以前にも似たようなことがあったが、フクロウさんはなんだかんだで大人な先人だ。ウォリアールに来てからカジノ散財事件などで不安に思う場面があっても、その助言には温もりを感じる。
 思えば俺の親父が亡くなった時、隼が傍で慰めてくれたのは嬉しかった。何か特別な声をかけるわけでもなく、ただ傍にいてくれるだけありがたかった。
 あの時の隼だって、俺にどう言葉をかければいいか分からなかったはずだ。ならば俺もあの時と同じように、まずは隼を傍で支えることだけに注力しよう。

「隼……。俺はお前の傍にいてやる。どんな選択をしたって構わない。俺はお前を信じてる。だから、安心して考え抜いてくれ」
「眠ってる嫁さんに優しく声をかける旦那がいるなんて、空鳥はとんだ果報者じゃねえか」
「そうですね。タケゾーさんが傍にいれば、この難題も乗り越えられるでしょう。夫婦とはかくありたいものです」
「お? なんだかこっちのカップルもいい感じになってない? 大変だってオレッチは聞いてたんだけど?」

 少しフェリアや洗居さんにもからかわれたり、フクロウさんが口を挟んだりもすれど、俺の中で気持ちは固まってきた。
 隼の悩みは膨大で、俺が介入できるものでもない。それでも傍にいて、少しでも相談を聞けるなら聞く。
 唐突な話が舞い込む新婚旅行となってしまったが、乗り越える難題があるならば微力でも力になれるように努めるだけだ。



 ――俺と隼は夫婦。二人で一組として生きていくともう決めている。
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