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ウォリアール新婚旅行編

ep392 アタシってもしかして、凄い星の元に生まれてた?

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「やっぱ、父さんとの結婚やアタシの存在が母さんを変えたのか……」
「変えたと言っても悪い意味ではない。むしろ別の未来が見えて、ツバメはそちらを選んだに過ぎぬ」

 母さんがウォリアール王家を抜け、日本でアタシ達家族と生活していた理由。それは言うまでもなく、結婚してアタシという娘ができたからだ。
 その結果、母さんはウォリアールで『王族として戦いの中で生きること』よりも『家族として戦いから離れて生きること』を選んだ。それぐらいのことは娘のアタシにならすぐさま理解できる。

 ――なんだか、アタシのせいで母さんの恵まれた地位を奪ってしまった責任さえ感じてしまう。

「隼殿が気を病む必要はない。ツバメは確固たる意志を持ち、自らウォリアールを抜ける道を選んだのだ。私を含む王族もその気持ちを止めることはできず、納得した上で送り出した」
「……そう言ってもらえると、アタシもちょっとは救われるね。ところで気になってたんだけど、母さんと父さんはどうやって出会ったのかな? もうこの際、アタシが知らなかったことは全部聞きたいんだ」

 ある意味、アタシと母さんの親子としての共通点である『自ら進んで戦いたがらない』って性分から、母さんがウォリアールよりも家族を選んだことは理解できた。クジャクさんもそんな母さんの性分を知っていたからこそ、無理に引き留めることなく母さんを見送ってくれた。
 だけど、その結果として母さんは巡り巡って帰らぬ人になってしまった。後悔しても遅いし、もう全ての真相を両親の口から聞くことは叶わない。
 ならば今ここで、アタシでさえも知らなかった全てをクジャクさんの口から聞きたい。

 ――ずっと存在さえ知らなかったアタシの叔母さんだけど、こっちにだって知る権利ぐらいはあるはずだ。

「ツバメとその夫――『空鳥 将鷹まさたか』とは、今から二十二年ほど前に出会ってな。当時、ウォリアールは今のような土地ではなく、いくつもの諸島が連なっていた。だが、このように太平洋の中央に位置する故か地盤沈下による水位低下に悩み、国全体が沈没する未来が予想できていた」
「もしかして、今のウォリアールが巨大なメガフロートの上にできてるのもその影響ってこと?」
「その通りだ。国土全体を浮島とすることで、ウォリアールは沈没の危機を免れた。そしてメガフロート計画の先導者こそ、隼殿の父でもある将鷹殿だ」
「こ、ここって、父さんが作ったの……!?」

 クジャクさんもアタシの気持ちを汲み取り、こちらに向き直って順を追うように話を進めてくれる。
 その際に語られるのは、今のウォリアールの国土を父さんが先導して作り上げたという事実。アタシも空から見て実際に歩いて分かったけど、こんなものは並大抵の技術で作れるものではない。
 本当に父さんは技術者として優秀過ぎるぐらい優秀だった。今のアタシでも及びそうにない。

「そこでツバメと将鷹殿は出会い、恋に落ちた。将鷹殿もツバメと同じく、当時より若くして優秀な技術者だった。故にウォリアール上層部も二人が結ばれることには納得を示していた。そのために将鷹殿へ相応の地位を与える算段だってあった」
「父さんに用意された……王族である母さんと相応の地位……?」
「現在はフロスト艦橋将が兼任する形となっているが、そもそも将軍艦隊ジェネラルフリートのボスには将鷹殿が着任するはずだったのだ」
「と、父さんが……本来の将軍艦隊ジェネラルフリートボスに……!?」

 さらに父さんにはウォリアールとしての地位まで用意されていた。しかもそれはアタシとも因縁深い将軍艦隊ジェネラルフリートのトップと言う地位だ。
 そういや、フロスト博士もボスなのに五艦将って最高幹部の一人に加わってたっけ。あれもきっと『本当は別にボスがいるはずだった名残』ってことか。
 こうして話を聞いていくと、これまで謎だった部分が紐解かれていく。

「ただそのように地位を用意しても、ツバメと将鷹殿はウォリアールを離れる道を選んだ。もうその頃にはツバメのお腹の中に新しい命が芽生えており――」
「その赤ん坊を――アタシを戦いや情勢の裏側といった世界から遠ざけるため、二人はウォリアールを離れて日本に移り住んだ……」
「いかにも。以来今に至るまで、隼殿はその出生の裏にあるウォリアールの存在を知ることなく過ごすこととなった。私の口から話す結果になってしまったが、これもある種の運命だったのかもしれぬ」

 全てを事細かに理解して受け止めることはできない。アタシ一人の身には大きすぎる。
 それでも確かに理解できるのは、両親はアタシのために日本へと移り住み、ウォリアールの存在を秘匿し続けたということ。そうやって娘のアタシのことを想ってくれた気持ちは心から嬉しい。

 だけど、アタシは今こうしてウォリアールに来てしまった。元を辿れば、アタシが空色の魔女となったのが発端か。
 星皇カンパニーから将軍艦隊ジェネラルフリートへ。そこからさらにヒーロー制定法を介し、いつの間にかクジャクさんの存在へ。
 気がつけばアタシはウォリアールと関わり、導かれてしまっていた。
 論理的な説明などつかない。言うなれば運命としか言えないような巡り合わせ。



 ――アタシにとってウォリアールは、自分で思っていたよりもはるかに密接な存在だった。



「……正直、アタシの頭は今でも思考が追い付いてないや。いきなり父さんや母さんの真実を聞かされて、ちょっとパンクしてる」
「そうであろうな。私も隼殿が将軍艦隊ジェネラルフリートと関わるようになったあたりから、いずれは話すべきだと考えてはいた。とはいえ、いきなり急なことを並べ過ぎたであろうか?」
「いや、そんなことはないよ。むしろこの話を聞かせてくれて本当にありがとね。……アタシだって二人の娘として、この事実は耳に入れておきたかった」

 話もひとまず落ち着き、クジャクさんは再びソファへと腰かける。この人だってアタシに真実を語るうえで、落ち着けない部分があるのだろう。
 色々と衝撃的だったけど、アタシも結果としてこの話を聞けてよかった。どれだけ驚きの連続でも、やっぱり真実は知っておきたいよね。

「てかさ、アタシもウォリアール王家の血を引いてるってわけじゃん? なんだかいきなり『実はあなたはこの国のお姫様だったのです!』みたいな話で、なんともファンタジーなもんだねぇ。リアルでこんな体験するとは思わなかったや」

 さっきまでの話のインパクトを緩和する意味も含めて、アタシは一度いつもの調子に戻って言葉を交える。
 確かにこれらの真実はアタシにとって大事なことだけど、特別アタシの何かが変わるわけでもない。
 ちょいと頭も疲れてきたし、グラスのワインを飲み干しながら一息入れて――



「……そして、ここからが私の本題だ」
「ほ、本題……?」
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