空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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ウォリアール新婚旅行編

ep387 またこの男二人は何馬鹿なことやってんだか……。

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「あ、ああ……!? い、いや……これはその……!?」
「フェリアさん、なんでそんな淫らな姿で気を失ってるのさ!? ま、まさか……タケゾーがレイ――」
「それは違う! 断じて違う! こ、これはただのとろろだ! 俺のアレじゃない!」

 室内の物音を聞き、慌ててベランダから戻って来たアタシと洗居さん。そこで目にした光景は、思わず顔から血の気が引くもの。
 ジェットアーマーを身に纏ったタケゾーと、気を失って白いドロドロにまみれたフェリアさん。どう見てもタケゾーが強姦したようにしか見えない。
 ただ、タケゾーの弁明を聞いてよく見直してみると、確かにフェリアさんにかかってるいかがわしそうな白いアレはただのとろろのようだ。
 そういやこれ、我が家で採れた山芋から作ったんだよね。あの山芋はとろろにすると凄くきめ細かいから、パッと見では判断に困っちゃうぐらいだ。

 ――とりあえず、タケゾーが『他国の王子様を襲った同性愛強姦魔』ではないようで安心した。

「……いやいや。アタシの最悪の予感が外れてたとしても、なんでこんな事態になってるわけ? フェリアさんが気絶して部屋がひっくり返ってるのはタケゾーの仕業だよね?」
「そ、その……すまん。ちょっとフェリアといざこざがあって、うっかり喧嘩に発展してしまい、お互いに熱くなって……」
「まさか、また『おっぱいがどうのこうの』みたいな内容? 本っっ当に飽きない男達だねぇ……」
「弁解の余地がない……。本当にすまなかった……」

 こんな大惨事になった理由についても、タケゾーはそれはそれは申し訳なさそうに語ってくれる。
 うん、まあ、アタシも二度目となると予測できた。よく見ると倒れたフェリアさんの近くには、フェイクフォックスの時に使用していた高周波ブレードまで落ちている。
 本当にガチ目な喧嘩だったらしいが、その原因が実にくだらないことだけは理解できる。
 思わぬ形でアタシが用意したジェットアーマー変身カプセルも役に立ち、タケゾーも反撃して危ない目に遭うことは避けられたってところか。
 そこは結果オーライみたいな感じだね。

 ――『こんなことで使わないでよ』って思わなくもないけど、ここは唾と一緒に飲み込んでおく。

「それにしても……あーあー。せっかく洗居さんが用意してくれた夕食がメチャクチャじゃんか。もったいない」
「洗居さん……すみません。俺のせいでフェリアに危害を加え、用意してもらった料理まで台無しにしちゃって……」

 何より、まずは洗居さんへの謝罪が先だ。理由がどうあれ、これはあまりに申し訳が立たない。タケゾーもジェットアーマーの変身を解除し、頭を下げて洗居さんへと謝罪する。
 あまりにくだらない喧嘩らしいけど、ここはアタシも奥さんとして一緒に頭を下げよう。
 せっかくショーちゃんが用意してくれたお野菜もダメになっちゃったし、本当に色々と申し訳なさしかこみ上げないわけで――



「――せません。許せ……ません……!」
「……へ? え? あ、洗居さん……だよね?」



 ――そう思って洗居さんへ頭を下げていると、これまで感じたことのない感覚が全身を駆け巡る。
 まるで『地獄に巣食う悪鬼』と言うか『世界を闇で覆う魔王』と言うべきか。そんな気配を感じ取ってしまう。ドス黒い意志のようなものがビンビンだ。
 何より驚くべきは、それを『洗居さんから感じ取ってしまう』ということにある。
 あの超一流の清掃用務員であり、清掃魂セイソウルの誓いをいつも胸に抱き、人に怒りを向けたり乱暴に争うことを嫌う洗居さんなのに、今アタシが感じる気配はそんな印象とは完全に真逆。

 ――恐る恐る顔を上げ洗居さんの姿に目を凝らすと、背後に漆黒のオーラが見えるような気さえする。

「タケゾーさん……! 私は今、これまで感じたことのない感情が沸き立っています……! フェリアを犯したという事実が、どうしても許せないようです……!」
「ま、待ってください! 洗居さん! お、俺はフェリアを犯してなんか――」
「でしたら、フェリアの全身にかけられたこの白濁液はどう説明すると!? どう考えてもタケゾーさんのアレですよね!? フェリアが魅力的すぎて欲情したことなど、私でも容易に想像できます!」
「だ、だから誤解なんですって! ちょ、ちょっと!? ほ、本当に落ち着いて……こ、怖い……!?」

 どうにも、洗居さんはさっきのアタシとタケゾーのやりとりが耳に入ってなかったようだ。両目を見開いて怒りを露わにし、タケゾーに責めよっている。
 こんな洗居さんの姿は初めて見た。いつもはどこか抜けてても、クール&クリーンな姿しか見せてはいなかったのに。
 そんな洗居さんがここまで怒るということは、それだけフェリアさんを想う気持ちが大きいことの表れなのだろう。『恋は盲目』なんて言うけど、今の洗居さんはそれに近い状態と言える。

 ――まあ、ベクトルが最悪の方向に傾いてるけど。

「許せません……! フェリアへの暴虐だけは……!」
「あ、洗居さん? な、何するつもり?」

 洗居さんにアタシ達の声は届かず、憎悪のオーラを滾らせながら壁にかけてあったあるものを手に取り始める。
 それはフェリアさんの部屋に観賞用で置かれていた槍で、長さ的には洗居さんが普段使うモップと変わりない。
 手に持った槍をいつものモップと同じように体の右横に添える洗居さんだけど、構えに大きく違う点がある。

 ――まるでタケゾーを狙うように眼光を光らせ、アタシでさえも迂闊に入り込めないほど隙がない。



「超一流の清掃用務員としてではなく、フェリアの婚約者として……! あなたには死んで罪を償っていただきます……タケゾーさん!」
「ヤ、ヤバい!? ヤバすぎ!? へ、変身!!」



 まさかと思ったけど、洗居さんはタケゾーに襲い掛かるつもりだ。腰を落として右手に槍を持つ姿は、とても素人とは思えないほど様になっている。
 なんてこった。あの洗居さんがタケゾーに殺意を抱き、完全に殺しにかかるほどの気迫を見せている。
 これはアタシがこれまで戦ってきたヴィランと同等――いや、それ以上の気迫。こうなってしまった以上、話し合いなんてもう通用しない。
 こちらも慌てて空色の魔女へと変身し、洗居さんとタケゾーの間に割って入らずにはいられない。

 ――このままだと、洗居さんは本当にタケゾーを殺してしまう。理屈ではなく心でそう理解できてしまう。

「どいてください、空鳥さん! タケゾーさんを殺せません!」
「い、いや!? 一度落ち着こうよ、ね!? 洗居さんは凄い誤解をしてるわけで――」
「空鳥さんまで弊害となりますか……! でしたら、まずはあなたに私の怒りの矛先を向けさせていただきます……!」
「う、嘘!? そこまでするの!? こ、これってアタシもマズいの!?」

 今の洗居さんは完全に憎悪に囚われたヴィランだ。ただ、今回は事情が事情だけに理解はできてしまう。
 ここまで盲目なのは愛の深さ故だろう。とはいえ、このままタケゾーを見殺しにできるはずもない。

「じゅ、隼……! い、色々と何から何まですまない……!」
「この後にお説教したかったけど、今はそんなこと考えてる余裕もないや……! 本気の洗居さんの殺気が今までのヴィランよりも半端ない……!」

 まさかウォリアールに来てまで空色の魔女としてヴィランの相手をするとは思わなかったし、おまけにその相手が洗居さんだとは予想外過ぎる。
 憤怒に身を焦がす洗居さんはアタシのよく知る洗居さんではない。ぶっちゃけ、これまでの誰よりも相手をしづらい。
 槍を構え、フェリアさんのためにアタシ達でさえ敵に回すその姿。ヴィランネームをつけるならばこんなところだろうか?



 ――『完全憤怒超一流清掃用務員、アブソリュートクリーニングジェニター』……とか。
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