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ウォリアール新婚旅行編

ep385 超一流の上司に助言しよう!

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「洗居さーん。こんなとこで一人座り込んでないで、一緒にご飯食べようよー」

 正直『嘘でしょ? なんで?』って思いたくもなる、洗居さんのシャイ過ぎる行動。まさか婚約者であるフェリアさんと一緒に食事をとることができてないとは予想外だ。
 もうここまで来ると、洗居さんに関することは『予想外の方が想定内』ぐらいに考えておこう。それぐらいで丁度いい。

「む、無理です……! フェリアと一緒に食卓を囲むと、顔が熱くなりすぎて正気を失いそうに……!」
「……ダメだ、こりゃ」

 で、アタシは現在、洗居さんを呼び戻すため、一人でベランダへとやって来た。
 フェリアさんが出てくるとこじれそうだし、タケゾーには美男子同士で慰め役に回ってもらった。同性の相手をする方が都合も良さそうだしね。

 そんなわけで洗居さんに声をかけるも、ここからどう事態を進展させればいいのか悩みどころだ。
 洗居さんはメイド服姿のまま、ベランダの隅でうずくまり、顔を両手で隠している。アタシへの返答の声も震えっぱなしだ。

 ――マジでこんな洗居さんは見たことがない。多分、アタシより付き合いの長い玉杉さんも知らない。
 そこそこ年上の大人な女性だけど、不覚にも『かわいいなこの人』なんて思っちゃう。ギャップ萌えが急上昇だ。

「もう頭の中では何回も思ってることだけど、恥ずかしがり過ぎじゃないかな? おめでたい席なのに、なんで『心肺停止』や『記憶喪失』なんて単語が出てくるわけ?」
「そ、空鳥さんには分からないんです! 私は生まれて二十八年間、恋愛なんてしたことがありません! それなのにフェリアのように優しくて、一国の王子で、女装が似合いすぎる美少年から告白されて、私の清掃魂セイソウルはもうとっくに臨海突破してます!」
「……アタシも今思ったんだけど、フェリアさんってモテ要素のデパートだよね。タケゾーを超えてないかな?」

 まあ、アタシも洗居さんがここまで動揺する根拠について、まったく理解できないわけじゃない。
 確かに洗居さんからしてみれば、フェリアさんって優良物件とかそんなレベルで収まらない。それこそ本当におとぎ話やラノベレベルのお話だ。
 特になんてことのない(と言い切るには無理がある)女性が、ある日突然王子様に告白される。そんなことを現実に体験すれば、パニックになる(度合は別とする)のは当然か。

「……洗居さんさ。メチャクチャ超絶ありえないレベルをさらに大気圏突破するレベルで恥ずかしがってるけど、フェリアさんのことは好きなんだよね? 好きだから恥ずかしがってるみたいなもんだよね?」
「ず、随分と酷い言われような気はしますが……そ、その通りです……。実際のところ、フェリアからの告白は嬉しかったです……」

 ただ、身分といった差はこの場で意味などなさない。大切なのは当人同士が『本当に好き合ってるか』ってこと。
 そこに関してはアタシも思ってた通り、洗居さんもフェリアさんに想いを寄せているのは分かる。だって、色々といい変化も見られるからね。
 フェリアさんへの呼称の変化。掃除だけでなく、料理に関する花嫁修業。どれも洗居さんが『フェリアさんが好き』だからこそ現れた変化だ。
 フェリアさんの方は言わずもがなだし、結局この二人が相思相愛である事実は変わらない。

「アタシの場合、タケゾーとはずっと幼馴染の腐れ縁だったからね。一緒にいるのがむしろ当然で、洗居さん達とは事情も異なるよ。だけど、関係がスムーズだったわけじゃない。お互いがすれ違うことだってあったわけよ」
「そ、そうなのですね……。私は恋愛経験がないもので、こういった関係構築はなおのこと分からなくて……」
「でも、そういう時に大切なことはいつだって同じさ。洗居さんだって普段から口酸っぱく言ってるでしょ?」
「私が普段から言ってること……ですか?」

 だったら、アタシのやりたいことは決まってくる。若輩者とはいえ、恋愛に関してはアタシの方が一応洗居さんの先輩だ。
 タケゾーと喧嘩した時のことも思い出せば、答えは自ずと見えてくる。てか、洗居さんが一番よく理解してる言葉のはずだ。
 これこそ、双方の仲を取り持つ最大の秘訣ってね。



「『報連相』……いつものようにお互いの関係を構築するためには、それで向き合うことが重要なんじゃない?」
「そ、そうでした……!? それこそ、清掃用務員の流儀……清掃魂セイソウル!」



 アタシがその言葉を口にすれば、洗居さんもハッと気づいたように顔を上げてくれる。
 確かに洗居さんにとっては急激な変化が起きてはいても、やるべきことは変わらない。今の二人に足りないのは『お互いを知る交友の機会』――報連相だ。
 闇雲に真正面から交友するのが難しくても、こうやって洗居さんの流儀である清掃魂セイソウルに則った話をすれば、理解してくれるはず。
 そんなアタシの思惑通り、洗居さんはアタシの話に耳を傾け始めてくれる。

「料理を覚えたり家事を頑張ってフェリアさんのためになろうとするのも尊敬できるよ。だけど、このまま洗居さんが恥ずかしがってたら、関係なんて進みやしないさ。何より、フェリアさんは普段の洗居さんに惚れて告白したんでしょ? だったら、洗居さんが普段通りの姿勢を崩してたらダメじゃないかな?」
「……空鳥さんのおっしゃる通りです。どうやら婚約というあまりに予想外の事態が起こったことで、私も盲目になっていたようです。……どんな時でも『心はクールでクリーンでクラシカル』に……これぞいつ何時でも揺るがない、超一流の清掃用務員の嗜みです」

 『フェリアさんが実は女装の上手い美少年王子様だったことは予想外じゃなかったの?』だとか『クールとクリーンは分かるけど、クラシカルってどういう意味だろ?』なんて裏で思ったりするけど、洗居さんなりに心が前向きになったのは感じ取れる。
 アタシの言葉を耳にすると、洗居さんの顔も少し明るくなってきた。
 やっぱ、アタシも二人には幸せになってほしいわけよ。その背中を少し押せるなら押してあげたい。

「どうやら、私も発狂や心肺停止を恐れている場合ではないようですね。先に進まずして、何が『超一流の清掃用務員』でしょうか。……ありがとうございます。私も少し前へ進める決心がつきました」
「……うん、まあ、よかったね」

 正直、心肺停止については恐れてほしいとも思う。だけど、そこも洗居さんの心の持ちよう次第か。
 洗居さんの心が恋愛と向き合えないことには、進展も何もない。荒療治であったととしても、まずは向き合うことが大切だ。

 ――後はとりあえず、ガチで恋愛が原因で死なないことを願うしかない。

「さて、お騒がせして申し訳ありませんでした。私も室内に戻ります故、一緒に夕食といたしましょう。せっかく空鳥さんとタケゾーさんご夫婦の新婚旅行も兼ねているのに、私がゴネているのも無礼です」
「だね。洗居さんが作ってくれた豪勢な料理、アタシも一緒に食べたいもん。こっちが持ってきた野菜との相性も気になるしさ」
「ウォリアールは海産物は豊富ですが、農作物には乏しかったので大変ありがたかったです。私もお料理のし甲斐がありました」
「あー、ウォリアールってメガフロートの上にあるもんね。農作には向かない土地か」

 洗居さんも気持ちの整理ができたみたいだし、二人で一緒に軽く話しつつベランダから屋内に戻り始める。
 結構長いこと話し込んでたし、タケゾーとフェリアさんも待たせてしまった。
 早く食卓に戻って、みんなで楽しい夕食タイムを――


 ガシャァァアアン!!


「えっ!? な、何事!?」
「へ、部屋の中からですか!?」

 ――しようとした矢先、室内から凄まじい物音が響いてきた。
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