空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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ヒーローの在り方編

ep346 タケゾー「嫁一人に任せたくない」

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「フ、フクロウさん! ガンシップまで墜落して、一体何があったんですか!?」
「隼さんは!? 隼さんはいないの!?」

 隼がフクロウさんと共にガンシップで空中戦艦へ向かった後、そのガンシップが煙を吹き出しながら俺達の乗る船の横へと不時着してきた。
 上空では何やら激しい光が放たれていたし、かなりの戦闘が行われていたのは事実だろう。
 俺とショーちゃんが慌てて海に浮かぶガンシップに顔を向けると、コクピットから姿を見せるのはフクロウさんだけ。

 ――もうこの時点で嫌な予感しかしない。

「アカッチャンにササッチャン……。オレッチは固厳首相にやれれちまってな……。後のことをソラッチャンに任せて、戦線離脱して来たってことさ……」
「じゃあ、隼はまだあの空中戦艦に……!? それに、元凶はやっぱり固厳首相でしたか……!?」
「ああ。オレッチも流石にコメットノアの奪取は諦めざるを得なかった。ソラッチャンにはコメットノアの破壊を頼んだが、うまく行ってくれてるかはどうにも……」

 フクロウさんはコクピットを出るとガンシップの翼に腰を下ろし、空中戦艦であった出来事を語ってくれる。
 首謀者の正体が想像通り固厳首相であり、空中戦艦コメットノアを一人で操っていたこと。
 ガンシップは被弾して戦線離脱し、フクロウさんの願いを聞いた隼が一人でコメットノアの中枢を破壊しようとしていること。

 ――フクロウさんにとっても苦渋の決断だったろうが、今は隼に任せるしかないのが現実だ。

「隼の奴は本当に大丈夫なのか……? あんなに巨大な空中戦艦の中枢だけを破壊するのだって、いくら隼でもできるかどうか……?」
「実際に破壊できたのかは僕にも不明だけど、少し前から戦艦の攻撃は収まり、進行を止めて停滞している。あの様子を見る限り、コメットノアの機能自体は無力化できたのかもね」
「宇神……。そういえば、確かにさっきよりおとなしいな……」

 俺の中で不安は募るばかりだったが、宇神もこちらに近づいて話してくれた内容を聞き、俺も少し安心してきた。
 フクロウさんが墜落してきた時はビームのような光が何発も見えていたのに、今はそれが全く見えない。
 前方へ進みながら飛行していたのも、同じ場所で漂うように動きを止めている。
 まさかとは思うが、隼がコメットノアを機能停止させたと考えるのが妥当だ。あいつの行動には本当に驚かされるが、むしろあいつならできるという想いが俺の心のどこかにもある。

 ――正義のヒーロー空色の魔女が俺の嫁であることを誇りに思う。



「……いや、ちょっと待て。だったら、どうして隼はこっちに戻ってこないんだ?」
「そこが僕も気になっていたところさ。もしかすると、コメットノアでの戦い自体はまだ終わっていないのか……?」



 ただそうなってくると、おかしな話も出てくる。コメットノアを戦艦ごと停止させられたのなら、隼が降りてくる姿が見えてもいいはずだ。
 もしかすると固厳首相に説教でもしてそうだが、それ以上に嫌な予感がまたしても襲い掛かってくる。
 役目が終わったのならば、隼はまず俺達に顔を見せてくれそうなものだ。

「……フクロウさん。あの戦艦に乗っていたのは、本当に固厳首相一人だけなのですか?」
「断言はできないが、そのはずだ。あの内閣総理大臣もコメットノアを停止させられたら、もうどうしようもないはずだが……?」
「……それなら、固厳首相自身に何か『これまでのヴィランのような力』が宿ってたりはしませんか?」
「ヴィランの力……!? そ、そうか! それだったら心当たりがあるぞ……!」

 考えられるとすれば、隼がコメットノア以外の誰かと戦っている可能性。もしそうだとすれば、相手は元凶である固厳首相だろう。
 元相撲取りの固厳首相とはいえ、超人ヒーローの隼に勝てるはずがない。だが、固厳首相はこれまで『ヒーローもヴィランも生み出せる将軍艦隊ジェネラルフリートという組織』と裏で結託していた。
 力を手にする方法自体は身近にある。

「まさか固厳首相はこうなる事態を予期して、自らにも改造を施したんじゃ……?」
「赤原君の考察は十分にあり得る話だね……。これまでも固厳首相は空色の魔女の力に固執していたし、その力を自らも手に入れようと……?」
「だったら、フロストの旦那が持つナノマシン技術で再現可能だ。データさえ揃っていれば、空色の魔女と同等の――いや、それ以上のスペックを持った超人だって作れちまうぞ……!?」

 みんなとも話を進める中で、その可能性はどんどん確信へと変わっていく。
 もし全てが本当ならば、固厳首相は隼と同じ強化細胞をナノマシンとして再現したサイボーグだ。素っ頓狂な話だが、事実それを可能にする力は揃っている。
 そしてそのことは、こうして今も隼が戻ってこない現状とも一致する。

 ――隼が今、固厳首相というヴィランと戦ってる可能性は濃厚だ。

「フクロウさん! どうにかして、もう一度ガンシップを飛ばせませんか!? 俺、どうしても隼のもとに向かいたいんです!」
「ボクも行きたい! フクロウのおじさん! お願い!」
「アカッチャンにササッチャン……。気持ちは分かるが、そいつは無理な話だ。ガンシップのエンジン部がやられた以上、すぐに飛び立つことはできないってもんよ……」

 隼がまだ一人で戦っているとすれば、俺もこんなところでうかうかしてられない。
 固厳首相がどんなヴィランになっていようとも、家族として駆けつけたい気持ちが勝ってしまう。
 ショーちゃんも一緒になってフクロウさんに進言するが、ガンシップは完全に飛行性能を失っている。俺達では空中戦艦に向かう手段がない。

「くそっ!? どうしていつも、隼ばかりが戦わなきゃいけないんだ!? 俺にだって力があれば、隼の代わりに戦って……!」
「武蔵さん……」

 分かってはいることでも、己の非力さを嘆かずにはいられない。息子であるショーちゃんにまで心配そうに目を向けられても、拳に力を込めて歯がゆい思いを抑えられない。
 空色の魔女というヒーローは隼にしかできない。だがあいつは本来、誰よりも戦うことを望まない人間だ。
 力を手にしてしまったがために、誰よりも優しいがために、人々の平和な日常のため自ら戦いの場に身を置いている。

 ――愛する女がそうやって一人で苦しんでいる時に、何もできない自分が嫌になる。



「……赤原君。僕から一つだけ方法がある」
「う、宇神……!? ほ、本当なのか……!?」



 ぶつけようのない悔しさを抱いていると、宇神が真剣な表情で俺に声をかけてきた。
 こんな状況で何か方法があるらしいが、今はどんな藁にでもすがりたい。

「こういう言い方をすると邪神か何かみたいだけど、僕から赤原君に力を与えることができる」
「お、俺に力を……だって? い、一体何の話をしてるんだ……?」
「詳細は見てもらった方が早いだろう。僕についてきてくれ」

 宇神が言うからには、何かしらの手立て自体はあるということだ。ただ、それが何かが見えてこない。
 黙々と船内に歩みを進める宇神の跡を追い、俺も船内の奥深くへと入っていく。
 何やら厳重そうな扉も見えるが、宇神はカードキーを取り出して中へと案内してくれる。

「こういった事態を想定して、これを船内に積み込んでおいて正解だった。赤原君なら誰よりもこれを使いこなせるはずさ」

 その室内は薄暗いが、さらに奥に何かが厳重に保管されているのが見える。
 人の形をしたアーマーのようなものだが、まさかこれは――



「こ、これって……ジェットアーマー……?」
「その通り。これが僕から赤原君に託せる力さ」
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