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将軍艦隊編・急
ep333 戦争なんか起こさせない。
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「アタシの願いは一つだけさ。これ以上の戦いをやめてほしい。……本当にそれだけだね」
「……クーカカカ。ヒーローと称される空色の魔女が戦いもせず、随分と初っ端から及び腰じゃねーか? この場には五艦将が全員揃ってるから、テメーで全員ぶちのめせば決着が着くぞ?」
「それが無理だってことぐらい、フロスト博士も分かってるんでしょ? むしろ五艦将を全員揃えたことだって、アタシに『抵抗は無駄だ』って言いたい感じじゃんか」
内心で怯えながらも、アタシは一番の願いをフロスト博士へと述べる。
ただ、向こうがすんなり話を聞いてくれるはずもなし。むしろこの場で少しでも不満を感じれば、五艦将を一斉に差し向けてアタシを殺してもおかしくない。
命のやりとりはこれまで何度もやって来たけど、こういった緊張感は初めてだ。ついてきてくれたタケゾーの手を握り、どうにか不安に耐えるしかない。
「……空色の魔女。交渉ってーのは、お互いに材料があってこそ成り立つってーもんだ。こっちはテメーにコメットノアの件で煮え湯を飲まされ、固厳首相には罪を擦り付けられて切り離されてる。それだってーのに引く理由がねーだろ?」
「そ、それはその通りなんだけど……」
「まー、テメーに関しては百歩譲って見逃しても構わねーな。だが、固厳首相に――この国に報復もなしに引き下がったとなりゃー、将軍艦隊の看板に泥を塗ったままってーもんだ。……こっちは戦争代行屋だ。そんな俺様達を敵に回した後のことぐらい、固厳首相は理解してるはずだろーが?」
「う、ううぅ……」
肝心の交渉に関しても、アタシの言葉ではどうにもならない。
こうするしか戦いを避ける方法がなかったとはいえ、やはり討論では厳しいものがある。
「そもそもの話、魔女の姉ちゃんかて大概の被害者やろ? こっちが姉ちゃんには手ぇ出へん言うとるんやから、それでええんとちゃうか?」
「残りは将軍艦隊と固厳首相及び政府と問題ばい。街のヒーローが出る幕じゃなかね」
「あなたが体を張ってまで、この戦いを止める意味もないでしょう。自分達の狙いはもはやミス空鳥ではありません」
「フオン、フオン」
他の五艦将もフロスト博士の意向に賛同し、これ以上の交渉は無意味と割り切ってくる。
確かに今の条件ならば、アタシに被害が及ぶことはない。将軍艦隊は標的を完全にアタシから外している。
「テメーが守りたい街の連中についても、俺様は見逃してやっても構わねーぞ? それで手打ちにしてやるから、おとなしく引き下がれってーんだ」
「……その条件は確かにありがたくはあるね。だけど、この国への宣戦布告は別ってことだよね?」
「そりゃー当然の話だ。軍事国家ウォリアール直属の部隊を敵に回した恐ろしさ、ここで見せつけねーと固厳首相が調子に乗るだろーが?」
これは将軍艦隊にとって、最大限の譲歩なのだろう。アタシや一緒に戦ってくれた街のみんなについても、フロスト博士は標的から外してくれている。
こちらに何の交渉材料もない状況で、これ以上の譲歩もないだろう。だけど、将軍艦隊が戦争を仕掛けること自体は止まりそうにない。
――それじゃダメなんだ。アタシはただ、これ以上の被害が出ることそのものが嫌なんだ。
アタシが暮らしている街だけじゃない。宇神君を始めとした新人三人組だって、負け戦に巻き込みたくはない。
何度もアタシの前を遮ってきた連中だけど、だからって見捨てていい理由にはならない。
ダンッ!
「お願い! 言い分は分かるけど、戦争なんて仕掛けないで! 本当に! この通りだからさ!」
「じゅ、隼!?」
だからアタシはやれる限りのことをやる。どんなに無様な姿を晒そうとも、戦いそのものを止める。
五艦将の前で両手を床につき、頭も下げて土下座で頼み込む。横でタケゾーも思わず止めに入るけど、アタシは土下座をやめるつもりなどない。
普段やってるヒーローとヴィランの戦いを超えた戦争なんて、アタシは本当にまっぴら御免だ。
「お、俺からも頼む! あんた達からすれば契約を反故にされて罪まで被せられた側だが、それでも戦争を仕掛けることだけは……!」
「この国の連中は土下座で頼み込めば、何でも許されるとでも思ってんのかってーんだ。そんなことで、将軍艦隊とゆー組織の方針を変えられるかってーの」
「こっちが無茶な頼みをしてるのも分かってるさ! だけど、アタシはこれ以上戦いを続けたくない! 誰の犠牲も出したくないんだ!」
ついにはタケゾーもアタシと同じように土下座の姿勢をとり、フロスト博士へ直訴してくれる。
夫婦揃って無様な姿だとは思う。それでも、この戦いを止めたいと願う気持ちだけは本物だ。
もう交渉というよりはただ一方的な要望。無茶も無謀も承知の上で、アタシとタケゾーは頭を下げ続ける。
「……ボス。戯れはこの辺りでよろしいかと」
「……クーカカカ。そーだな。俺様も少し遊び過ぎたか」
そうやってひたすらに土下座を続けていると、ラルカさんがフロスト博士に何やら進言を始めた。
『戯れ』とか『遊び』とか言ってるけど、まさか将軍艦隊としての方針はもう確定してるってこと? 本当にこのまま戦争に突入しちゃうってこと?
――アタシとタケゾーの苦労は水の泡ってこと?
「まーまー二人とも。まずは頭を上げやがれ。実はこっちもテメーらが交渉に来る前に、上の人間から一つ頼まれごとをしてるってーもんでな」
「た、頼まれごと……? しかも、フロスト博士より上の人間から……?」
「まー、まずはそのお方に会ってからってー話だ。モニター越しにはなるが、今話せるよーにしてやるからな」
言葉の通りに頭を上げると、フロスト博士の態度は先程までと違って軟化している。
玉座にあるスイッチを操作しながら、上部にモニターを用意している。
本当にどういうことだろうか? 話を聞く限り、将軍艦隊のボスであるフロスト博士よりも上の人間まで絡んでるってこと?
だけど、そんな人間なんて一体――
【久しいな、隼殿。その方との観光は実に愉快なものであった。モニター越しで申し訳ないが、今一度礼を述べさせてもらおう】
「ク、クジャクさん……?」
「……クーカカカ。ヒーローと称される空色の魔女が戦いもせず、随分と初っ端から及び腰じゃねーか? この場には五艦将が全員揃ってるから、テメーで全員ぶちのめせば決着が着くぞ?」
「それが無理だってことぐらい、フロスト博士も分かってるんでしょ? むしろ五艦将を全員揃えたことだって、アタシに『抵抗は無駄だ』って言いたい感じじゃんか」
内心で怯えながらも、アタシは一番の願いをフロスト博士へと述べる。
ただ、向こうがすんなり話を聞いてくれるはずもなし。むしろこの場で少しでも不満を感じれば、五艦将を一斉に差し向けてアタシを殺してもおかしくない。
命のやりとりはこれまで何度もやって来たけど、こういった緊張感は初めてだ。ついてきてくれたタケゾーの手を握り、どうにか不安に耐えるしかない。
「……空色の魔女。交渉ってーのは、お互いに材料があってこそ成り立つってーもんだ。こっちはテメーにコメットノアの件で煮え湯を飲まされ、固厳首相には罪を擦り付けられて切り離されてる。それだってーのに引く理由がねーだろ?」
「そ、それはその通りなんだけど……」
「まー、テメーに関しては百歩譲って見逃しても構わねーな。だが、固厳首相に――この国に報復もなしに引き下がったとなりゃー、将軍艦隊の看板に泥を塗ったままってーもんだ。……こっちは戦争代行屋だ。そんな俺様達を敵に回した後のことぐらい、固厳首相は理解してるはずだろーが?」
「う、ううぅ……」
肝心の交渉に関しても、アタシの言葉ではどうにもならない。
こうするしか戦いを避ける方法がなかったとはいえ、やはり討論では厳しいものがある。
「そもそもの話、魔女の姉ちゃんかて大概の被害者やろ? こっちが姉ちゃんには手ぇ出へん言うとるんやから、それでええんとちゃうか?」
「残りは将軍艦隊と固厳首相及び政府と問題ばい。街のヒーローが出る幕じゃなかね」
「あなたが体を張ってまで、この戦いを止める意味もないでしょう。自分達の狙いはもはやミス空鳥ではありません」
「フオン、フオン」
他の五艦将もフロスト博士の意向に賛同し、これ以上の交渉は無意味と割り切ってくる。
確かに今の条件ならば、アタシに被害が及ぶことはない。将軍艦隊は標的を完全にアタシから外している。
「テメーが守りたい街の連中についても、俺様は見逃してやっても構わねーぞ? それで手打ちにしてやるから、おとなしく引き下がれってーんだ」
「……その条件は確かにありがたくはあるね。だけど、この国への宣戦布告は別ってことだよね?」
「そりゃー当然の話だ。軍事国家ウォリアール直属の部隊を敵に回した恐ろしさ、ここで見せつけねーと固厳首相が調子に乗るだろーが?」
これは将軍艦隊にとって、最大限の譲歩なのだろう。アタシや一緒に戦ってくれた街のみんなについても、フロスト博士は標的から外してくれている。
こちらに何の交渉材料もない状況で、これ以上の譲歩もないだろう。だけど、将軍艦隊が戦争を仕掛けること自体は止まりそうにない。
――それじゃダメなんだ。アタシはただ、これ以上の被害が出ることそのものが嫌なんだ。
アタシが暮らしている街だけじゃない。宇神君を始めとした新人三人組だって、負け戦に巻き込みたくはない。
何度もアタシの前を遮ってきた連中だけど、だからって見捨てていい理由にはならない。
ダンッ!
「お願い! 言い分は分かるけど、戦争なんて仕掛けないで! 本当に! この通りだからさ!」
「じゅ、隼!?」
だからアタシはやれる限りのことをやる。どんなに無様な姿を晒そうとも、戦いそのものを止める。
五艦将の前で両手を床につき、頭も下げて土下座で頼み込む。横でタケゾーも思わず止めに入るけど、アタシは土下座をやめるつもりなどない。
普段やってるヒーローとヴィランの戦いを超えた戦争なんて、アタシは本当にまっぴら御免だ。
「お、俺からも頼む! あんた達からすれば契約を反故にされて罪まで被せられた側だが、それでも戦争を仕掛けることだけは……!」
「この国の連中は土下座で頼み込めば、何でも許されるとでも思ってんのかってーんだ。そんなことで、将軍艦隊とゆー組織の方針を変えられるかってーの」
「こっちが無茶な頼みをしてるのも分かってるさ! だけど、アタシはこれ以上戦いを続けたくない! 誰の犠牲も出したくないんだ!」
ついにはタケゾーもアタシと同じように土下座の姿勢をとり、フロスト博士へ直訴してくれる。
夫婦揃って無様な姿だとは思う。それでも、この戦いを止めたいと願う気持ちだけは本物だ。
もう交渉というよりはただ一方的な要望。無茶も無謀も承知の上で、アタシとタケゾーは頭を下げ続ける。
「……ボス。戯れはこの辺りでよろしいかと」
「……クーカカカ。そーだな。俺様も少し遊び過ぎたか」
そうやってひたすらに土下座を続けていると、ラルカさんがフロスト博士に何やら進言を始めた。
『戯れ』とか『遊び』とか言ってるけど、まさか将軍艦隊としての方針はもう確定してるってこと? 本当にこのまま戦争に突入しちゃうってこと?
――アタシとタケゾーの苦労は水の泡ってこと?
「まーまー二人とも。まずは頭を上げやがれ。実はこっちもテメーらが交渉に来る前に、上の人間から一つ頼まれごとをしてるってーもんでな」
「た、頼まれごと……? しかも、フロスト博士より上の人間から……?」
「まー、まずはそのお方に会ってからってー話だ。モニター越しにはなるが、今話せるよーにしてやるからな」
言葉の通りに頭を上げると、フロスト博士の態度は先程までと違って軟化している。
玉座にあるスイッチを操作しながら、上部にモニターを用意している。
本当にどういうことだろうか? 話を聞く限り、将軍艦隊のボスであるフロスト博士よりも上の人間まで絡んでるってこと?
だけど、そんな人間なんて一体――
【久しいな、隼殿。その方との観光は実に愉快なものであった。モニター越しで申し訳ないが、今一度礼を述べさせてもらおう】
「ク、クジャクさん……?」
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