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将軍艦隊編・急
ep330 アタシと一緒に最後の舞台に上がって欲しい。
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アタシが交渉の場への同席を願い出たのは、夫でもあるタケゾーだ。
現状が現状だけに危険が伴うし、本当はタケゾーを危険に巻き込みたくはない。
でも、アタシ一人ではどうしようもない。
「アタシもさ、交渉事が下手なのは自覚してるのよ。一緒に危険な目に遭うことになるかもしんないけど、それでもタケゾーが傍にいれば心強いというか……」
「隼……」
ちょっと自分でも情けない気はしてる。自分から交渉を提案しておきながら、結局どこかで人を頼ってしまう。
それでも、アタシ一人じゃダメなんだ。何も交渉事を全部押し付けたいわけじゃない。
――アタシには『タケゾーが傍にいてくれる』だけで心強い。
「……そうやって頭を下げるな。俺がいるだけで力になれるなら、どこにだってついて行くさ。たとえ地獄の果てだろうがな」
「い、いいの……? 将軍艦隊が相手となると、何が起こるか分かんないよ……? アタシ、実はタケゾーにかなり危険なことを言ってるよ?」
「そんな危険なことでも俺に話してくれたのが嬉しいさ。これは隼だけの問題じゃない。俺も傍にいてやるから、気負わずに交渉を申し出よう」
「……うん。本当にありがとね」
そんなアタシのワガママにも、タケゾーは笑顔で応じてくれる。手を優しく握られながら、どこか甘い声で囁かれる。
何、このイケメン? ここまで付き合ってくれる旦那様がいるなんて、奥さんはどんな幸せ者だ? アタシだけど。
うまく言えないけど、今はこの優しさに甘えられるのが嬉しい。
「……てかさ、タケゾーもかなり恥ずかしいこと言っちゃってない? 『地獄の果てまで』なんてセリフ、リアルで聞くことになるとは思わなかったよ」
「う、うるさいな。お、俺だって場の空気に流されはしても、この気持ちに偽りはないからな」
「分かってるって、タケゾーが本心でアタシに付き合ってくれることぐらいさ。……一緒に頑張って、これ以上の被害を増やさないようにしようね」
思わず臭いセリフに軽口も叩いちゃうけど、これで方針は決まった。
アタシとタケゾーで将軍艦隊の懐に入り込み、これ以上の戦いが起きないように交渉する。
かなり困難な話ではあるが、タケゾーとならやれそうな気がする。
――そもそも『やれるやれない』の話じゃなく『やるしかない』って話なんだけどね。
「今日の夜明け、この船は予定通り将軍艦隊の潜伏海域へと向かう。僕の方でも最大限バックアップはするけど、できることはそれぐらいだね……。後のことは空鳥さんと赤原君に託すよ」
「それで十分だよ。宇神君もここまで付き合ってくれてありがとね。……フクロウさん、将軍艦隊の艦艇群について、何か話せることってある?」
「それについては、下っ端のオレッチでは情報が少なくてな……。五艦将それぞれが搭乗してる艦艇五隻の艦隊ってことぐらいしか分からない。艦艇そのものについても、オレッチは見る機会なんてほとんどなかったからな……」
「そっか。それはそれで仕方ないね。まあ、こっちの目的は戦わずして終わらせることさ。そのためにも、アタシが踏ん張らないとね」
その後、この場にいるメンバーで今後のことについて話し合う。
といっても、話し合える物事は少ない。いつどうやって将軍艦隊がいる場所に向かうのかって話ぐらい。
それだけ済ませたら、後は明日に備えて休むのが第一だ。アタシも意識が戻ったとはいえ、まだ体調万全とは言えない。
船内の一室も自由に使わせてもらえるようになったし、残りの時間は休息に使おう。
■
「ンク! ンク! ――プハァ! いや~、息子に注いでもらったお酒を飲むってのも、中々どうして粋なもんだ」
「隼さん、休むんじゃなかったの? なんで晩酌になるの?」
「そりゃあ、お酒はアタシの燃料だからね。傷も癒えるし、気合も入るってもんさ。あっ、もう一杯頂戴」
「……でも、こっちの方が隼さんらしい。ボクも安心する。もう一杯どうぞ」
まあ、休息という名の晩酌なんだけどね。就寝するにもまだ早いし、これから何が起こるかも分からない。
そのためにも、チャージできる燃料はチャージしておくに越したことはない。
ちょいと宇神君にも許可をとって、船室で日本酒酒盛りタイムだ。ショーちゃんの注いでくれる冷酒が喉も心も潤してくれる。
「隼が作戦立案なんてらしくない真似をした時はどうなるかと思ったが、こうしてるとやっぱりいつもの隼だな。俺もショーちゃんと同じく安心できる」
「旦那と息子が揃って言ってくれるもんだ。タケゾーも眺めてないで、アタシと一緒に飲まないかい?」
「その酒、宇神がわざわざ買い出しに行ってくれたものだよな? なんだか気が引けるが……まあ、少し一緒させてもらうか」
この船室はアタシ達一家だけとなり、必要なものがあれば宇神君の方で調達してくれる。
まあ、特別必要なものなんてないんだけどね。デバイスロッドも回収してくれたみたいだし、特に故障もしていない。
そこでお酒とおつまみをなんとなく所望してみたら、本当に宇神君は近くの店で買ってきてくれた。
――ヒーローを買い出しに使うヒーローって何だろうね?
「……この騒動が終わったら、またこうしてみんなで揃って、色々と盛り上がりたいよな」
「何さ、タケゾー? そのセリフって、死亡フラグになっちゃわない?」
「そういうことを言うなよ……。俺はただ純粋にこうやってみんなで何気ないことで騒いで、平和を感じられる日々を迎えたいだけさ」
「……その気持ちには同感だね。アタシも乗り掛かった舟でここまで来たけど、やっぱりこうやって日常を過ごすのがアタシも一番さ」
家族で晩酌を楽しんでいると、タケゾーがちょっと気落ちした声で想いを零すけど、その考え自体はアタシも同感だ。
まさか誤ってマグネットリキッドを誤飲したことから始まり、本物の軍隊と戦うことになるんて思わなかった。
しかも今はその軍隊と交渉して、戦争を止めようとしている始末。普通の人生を送っていたら、こんな体験はなかっただろうね。
――でも後悔はしていないし、何よりしたくもない。アタシはただ、目の前の事象に目を背けたくないだけだ。
「ショーちゃんもここまで付き合ってくれてありがとね。全部終わったら、またおばあちゃんとも遊ぼっか」
「うん。ボクもできる限りのことをする。隼さん一人に背負わせない」
こうして息子までいるわけだし、アタシが背負ってしまったものはいつの間にか大きくなってしまった。
重荷ではあるけど、投げ出したくなんかない。だって、この道自体はアタシ自身が選んだ道だ。
どれだけ甘くて未熟なヒーローでも、アタシはアタシが信じた道を貫き通す。
――ここまで支えてくれた大勢の人のためにも、どんな相手にも屈するわけにはいかない。
現状が現状だけに危険が伴うし、本当はタケゾーを危険に巻き込みたくはない。
でも、アタシ一人ではどうしようもない。
「アタシもさ、交渉事が下手なのは自覚してるのよ。一緒に危険な目に遭うことになるかもしんないけど、それでもタケゾーが傍にいれば心強いというか……」
「隼……」
ちょっと自分でも情けない気はしてる。自分から交渉を提案しておきながら、結局どこかで人を頼ってしまう。
それでも、アタシ一人じゃダメなんだ。何も交渉事を全部押し付けたいわけじゃない。
――アタシには『タケゾーが傍にいてくれる』だけで心強い。
「……そうやって頭を下げるな。俺がいるだけで力になれるなら、どこにだってついて行くさ。たとえ地獄の果てだろうがな」
「い、いいの……? 将軍艦隊が相手となると、何が起こるか分かんないよ……? アタシ、実はタケゾーにかなり危険なことを言ってるよ?」
「そんな危険なことでも俺に話してくれたのが嬉しいさ。これは隼だけの問題じゃない。俺も傍にいてやるから、気負わずに交渉を申し出よう」
「……うん。本当にありがとね」
そんなアタシのワガママにも、タケゾーは笑顔で応じてくれる。手を優しく握られながら、どこか甘い声で囁かれる。
何、このイケメン? ここまで付き合ってくれる旦那様がいるなんて、奥さんはどんな幸せ者だ? アタシだけど。
うまく言えないけど、今はこの優しさに甘えられるのが嬉しい。
「……てかさ、タケゾーもかなり恥ずかしいこと言っちゃってない? 『地獄の果てまで』なんてセリフ、リアルで聞くことになるとは思わなかったよ」
「う、うるさいな。お、俺だって場の空気に流されはしても、この気持ちに偽りはないからな」
「分かってるって、タケゾーが本心でアタシに付き合ってくれることぐらいさ。……一緒に頑張って、これ以上の被害を増やさないようにしようね」
思わず臭いセリフに軽口も叩いちゃうけど、これで方針は決まった。
アタシとタケゾーで将軍艦隊の懐に入り込み、これ以上の戦いが起きないように交渉する。
かなり困難な話ではあるが、タケゾーとならやれそうな気がする。
――そもそも『やれるやれない』の話じゃなく『やるしかない』って話なんだけどね。
「今日の夜明け、この船は予定通り将軍艦隊の潜伏海域へと向かう。僕の方でも最大限バックアップはするけど、できることはそれぐらいだね……。後のことは空鳥さんと赤原君に託すよ」
「それで十分だよ。宇神君もここまで付き合ってくれてありがとね。……フクロウさん、将軍艦隊の艦艇群について、何か話せることってある?」
「それについては、下っ端のオレッチでは情報が少なくてな……。五艦将それぞれが搭乗してる艦艇五隻の艦隊ってことぐらいしか分からない。艦艇そのものについても、オレッチは見る機会なんてほとんどなかったからな……」
「そっか。それはそれで仕方ないね。まあ、こっちの目的は戦わずして終わらせることさ。そのためにも、アタシが踏ん張らないとね」
その後、この場にいるメンバーで今後のことについて話し合う。
といっても、話し合える物事は少ない。いつどうやって将軍艦隊がいる場所に向かうのかって話ぐらい。
それだけ済ませたら、後は明日に備えて休むのが第一だ。アタシも意識が戻ったとはいえ、まだ体調万全とは言えない。
船内の一室も自由に使わせてもらえるようになったし、残りの時間は休息に使おう。
■
「ンク! ンク! ――プハァ! いや~、息子に注いでもらったお酒を飲むってのも、中々どうして粋なもんだ」
「隼さん、休むんじゃなかったの? なんで晩酌になるの?」
「そりゃあ、お酒はアタシの燃料だからね。傷も癒えるし、気合も入るってもんさ。あっ、もう一杯頂戴」
「……でも、こっちの方が隼さんらしい。ボクも安心する。もう一杯どうぞ」
まあ、休息という名の晩酌なんだけどね。就寝するにもまだ早いし、これから何が起こるかも分からない。
そのためにも、チャージできる燃料はチャージしておくに越したことはない。
ちょいと宇神君にも許可をとって、船室で日本酒酒盛りタイムだ。ショーちゃんの注いでくれる冷酒が喉も心も潤してくれる。
「隼が作戦立案なんてらしくない真似をした時はどうなるかと思ったが、こうしてるとやっぱりいつもの隼だな。俺もショーちゃんと同じく安心できる」
「旦那と息子が揃って言ってくれるもんだ。タケゾーも眺めてないで、アタシと一緒に飲まないかい?」
「その酒、宇神がわざわざ買い出しに行ってくれたものだよな? なんだか気が引けるが……まあ、少し一緒させてもらうか」
この船室はアタシ達一家だけとなり、必要なものがあれば宇神君の方で調達してくれる。
まあ、特別必要なものなんてないんだけどね。デバイスロッドも回収してくれたみたいだし、特に故障もしていない。
そこでお酒とおつまみをなんとなく所望してみたら、本当に宇神君は近くの店で買ってきてくれた。
――ヒーローを買い出しに使うヒーローって何だろうね?
「……この騒動が終わったら、またこうしてみんなで揃って、色々と盛り上がりたいよな」
「何さ、タケゾー? そのセリフって、死亡フラグになっちゃわない?」
「そういうことを言うなよ……。俺はただ純粋にこうやってみんなで何気ないことで騒いで、平和を感じられる日々を迎えたいだけさ」
「……その気持ちには同感だね。アタシも乗り掛かった舟でここまで来たけど、やっぱりこうやって日常を過ごすのがアタシも一番さ」
家族で晩酌を楽しんでいると、タケゾーがちょっと気落ちした声で想いを零すけど、その考え自体はアタシも同感だ。
まさか誤ってマグネットリキッドを誤飲したことから始まり、本物の軍隊と戦うことになるんて思わなかった。
しかも今はその軍隊と交渉して、戦争を止めようとしている始末。普通の人生を送っていたら、こんな体験はなかっただろうね。
――でも後悔はしていないし、何よりしたくもない。アタシはただ、目の前の事象に目を背けたくないだけだ。
「ショーちゃんもここまで付き合ってくれてありがとね。全部終わったら、またおばあちゃんとも遊ぼっか」
「うん。ボクもできる限りのことをする。隼さん一人に背負わせない」
こうして息子までいるわけだし、アタシが背負ってしまったものはいつの間にか大きくなってしまった。
重荷ではあるけど、投げ出したくなんかない。だって、この道自体はアタシ自身が選んだ道だ。
どれだけ甘くて未熟なヒーローでも、アタシはアタシが信じた道を貫き通す。
――ここまで支えてくれた大勢の人のためにも、どんな相手にも屈するわけにはいかない。
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