空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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将軍艦隊編・破

ep311 あの時の姿がそのまま現実に顕在していた。

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【ど、どこからどう見ても、あの時に見た戦艦と同じだよな……?】
「ま、間違いないね……。まさか、VRワールドでの姿が真実の姿だったってこと……?」

 空間高所にある穴の中からウィッチキャットが顔を出し、しっかりとその全容が映し出される。
 そこにあったのは、アタシ達もVRワールドで見た空中戦艦コメットノアの姿。あの時にフロスト博士も言っていた『この戦艦こそがコメットノアの姿』という言葉が、そっくりそのまま現実世界でも映し出されてしまう。
 本当にスケールが違いすぎる。星皇社長って、こんなものまで作れたの?

【だが、ここは渓谷にある洞窟だぞ? この規模の戦艦だと、川を渡って出航とは行かないだろ? どうしてこんな場所に保管されて……?】
「……まさかと思うけど、現実におけるコメットノアもVRワールドと同じように空を飛んだり……?」
【じょ、冗談だろ……!? 隼やフレイムが空を飛ぶのとはレベルが違うことぐらい、俺でも分かるぞ……!?】

 形状も気になるが、これが本当に戦艦として機能するならば、こんな場所に保管されていた理由も気になる。
 洞窟内に水路みたいなものはなく、普通に考えれば置物にしかならない。
 ただ、洞窟の天井は金属板で作られており、シャッターのような境目も見える。
 本当にまさかのまさかだけど、この戦艦もVRワールドの時と同じように空を飛んで、天井が開くことで飛び立てるとか? 何の冗談ですか?

 ――流石のアタシもスケールが違いすぎて、驚き桃の木山椒の木。

「実際にこれだけの質量を飛ばそうとすると、それだけの推進機構は必要になるよね……。仮にそんな機構を搭載できても、現実問題だと電力が足りないか……」
【な、なあ、隼? 真面目に考察してるところ悪いんだが、これってどうすればいいんだ?】
「……ごめん。考察することで軽く現実逃避してた。と、とりあえず……戦艦内部に潜入してみる?」

 真面目に考えることでこの大真面目にどうすれば分かんない状況から逃げてたけど、この戦艦がコメットノアなのは間違いなさそうだ。
 将軍艦隊ジェネラルフリートの構成員が戦艦内部に入り、何かの装置を設置しようと動いてるのが分かる。
 こっちもまだ詳細は分からないわけだし、同じように中へ入るのが一番か。
 外へ運び出す方法も分かんないから、もう少しウィッチキャットで偵察して――



【ミスター牙島にミスターベレゴマ! 二人揃って洞窟内部で黒猫を見かけたというのは本当ですか!? それはおそらく、空色の魔女の手先ですよ!?】
【なんやと!? あの黒猫、敵やったんか!?】
【騙されたけん! ただの黒猫さ思うとったね!】
【くっ……!? こんなところに黒猫がいること自体に、まずは疑問を抱いていただきたかったですねぇえ!!】



 ――と考えていると、戦艦近辺に大声が三つ響き渡る。
 そうだった。五艦将でも牙島とベレゴマはウィッチキャットの誤魔化しが効いたけど、あと一人には通用しない。
 あの人だけは一度、ウィッチキャットの正体を見破っているんだった。

【あそこですか!? またしてもあの猫型スパイロボットを……!?】
【え? あれってロボットなん? えらいリアルに作ったもんやなぁ……】
【感心しとる場合じゃなかね!? とにかく、オイがあの黒猫さ仕留めるばい!】

 五艦将の中でも一番の常識人と思われる右舷将。元星皇カンパニー社長秘書のラルカさんだけはウィッチキャットの正体に気付いている。
 どうやらあの後、牙島とベレゴマが二人して『おかしなことはなかったけど、黒猫が住み着いてた』などとラルカさんに報告したのだろう。
 それを聞いたラルカさんは『それが敵なんですってぇえ!!』みたいな感じで大慌てし、幹部を引き連れて追って来たって感じか。

 ――ラルカさんがあそこまで大声で慌てる様子なんて初めて見た。

【ロボットなら容赦せんね! オイのベーゴマドローンで切り刻んじゃる!】
【じゅ、隼! これは流石に誤魔化しようも何もないぞ!? どうする!?】
「こうなったら仕方ない! タケゾー! 今はベレゴマの相手をしておいて! アタシもすぐに行くから!」

 さっきまでは密偵だったのに、もはや意味もなさない。ウィッチキャットによるスパイ作戦もここまでだ。
 とはいえ、多少の時間は稼いでもらう必要がある。アタシがコメットノアに辿り着くまでの間、もう少しタケゾーには踏ん張ってもらおう。

「ッ!? 空色の魔女!? やはり現れたか!?」
「ラルカ右舷将! ターゲットを補足――あ、あれ? 何やら、ラルカ右舷将の怒鳴り声が聞こえるような?」
「馬鹿な!? あのラルカ右舷将が声を張り上げているだと!? 中でも何が起こっているのだ!?」
「あっちもあっちでお取込み中だよ! アタシもちょいとお邪魔するからね!」

 もう入口の見張りなんて関係ない。デバイスロッドで飛行しながら、アタシも中へ猛スピードで突入する。
 将軍艦隊ジェネラルフリートの下っ端が塞いではいたけど、通信越しに聞こえるラルカさんの怒鳴り声のせいで怯んでくれた。

 ――下っ端でさえ思わず怯むなんて、ラルカさんはよっぽど普段から感情を表に出さないんだろうね。

「ほらほら! どいたどいた! 空色の魔女様のお通りだよぉお!」
「五艦将三名とは連絡不可! こちらの判断で応戦する!」
「だが、あの白い魔女装束は何だ!? 情報より速いぞ!? ニュータイプか!?」
「モデル・パンドラのことまでは、まだまだ情報が行き渡ってなかったみたいだね! だったら、そのまんま唖然としといて頂戴な!」

 モデル・パンドラに星皇社長による改良デバイスロッドの機能が合わさることで、アタシの飛行能力はこれまで以上だ。
 点在する将軍艦隊ジェネラルフリートの構成員を高速で躱し、洞窟の奥目がけて飛んでいく。
 ルート自体はさっきウィッチキャットで確認しておいた。今の能力ならばすぐに辿り着ける。

「ミスターベレゴマ! 早くその黒猫をなんとかしてください!」
「そげん言うても、こいつすばしっこいけん! オイのベーゴマドローンを躱しまくっちょる!」
「……つうか、ラルカも声を荒げすぎや。普段の冷静さはどこ行ったんや?」
「あなた方が見逃したせいですよ!? 自分だって、イライラしてるんですよぉお!?」

 そうしてコメットノアの置かれた洞窟の奥までやって来ると、五艦将の皆さんが口論しながらウィッチキャットの相手をしていた。
 と言っても、実際に相手をしてるのは高所で空中戦が可能なベレゴマのみ。ラルカさんと牙島は地上でその様子を見守っている。
 タケゾーがうまく操縦してくれたおかげで、時間も注意も逸らすことができた。

 ――てか、ラルカさんが荒れまくってるのが新鮮過ぎる。なんだか、色々と将軍艦隊ジェネラルフリート内部で溜め込んでたのかもね。
 とはいえ、普段は怖いぐらいに冷静なあの人がこの調子なら、奇襲にもってこいか。

「ちょいと破れかぶれだけど、タケゾーも頑張ってくれてんだ! ここはアタシも派手に一発、開戦の狼煙といきましょうか!」

 ここまで来たら、後は勢い任せに突入するのみ。予定とはかなり想定外だけど、コメットノアを将軍艦隊ジェネラルフリートの手に渡らせないことが第一だ。
 まずは飛行するデバイスロッドに腰かけたまま、アタシは両手首からトラクタービームを発射し、前方の鉄柱へと接続。これもモデル・パンドラで両手からトラクタービームを射出可能だからできる芸当だ。
 その状態からアタシ自身をパチンコ(ゴムで発射する方)玉のように、コメットノアがある最深部へと射出する。

 ――これがフルパワー版空色の魔女流、開戦の狼煙だ。


 ビュビュゥゥゥウウン!!


「空色の魔女! モデル・パンドラ! ここに参上だぁぁあい!!」
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