空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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VRワールド編

ep280 電脳世界の創造主:コメットノア

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「フ、フロスト博士!? もうリスポーンしたの!? 早くない!?」
「生憎だが、そもそもリスポーンしたわけじゃーねーんだな、これが。さっきの電撃魔術玉ってー技は面白かったが、あの程度でこの世界における俺様が倒れるわけねーだろ?」

 脱出方法に悩むアタシ達の背後から聞こえてきた、相変わらずどこか狂った不気味な笑い声。
 すぐさま振り向いて確認してみれば、そこにいたのはアタシがさっき倒したばかりのフロスト博士の姿があった。
 まさか、あの電撃魔術玉が実は効いてなかったとか? 嘘でしょ?
 ここはVRによる仮想空間だから、威力調整なんて考えずに死亡確定レベルの一撃を叩き込んで――

「……ああ!? そ、そうか!? ここはVRワールドで、フロスト博士はこの世界の開発者本人だから……!?」
「クーカカカ! そーゆーこった! 言ーなれば『デバッグコマンド』……! この場所自体もメイン演算装置たるコメットノアだし、これが何を意味するかは……もー分かるよなー!?」

 ――そう考えてたアタシが馬鹿だった。そもそも、この世界は現実ではない仮想空間だ。
 だからこそ、フロスト博士はこの世界では『好きに設定や事象を操作できる』と言っても過言ではない。この人はこの世界において、本当に神とも言える存在だ。
 アタシが使っていたログの閲覧や乱数調整の比ではない。そんなものはいくらでも塗り替えられる。
 デバッグコマンドという正真正銘のチートを使い、さらにはコメットノアのおかげで完全に使いこなすことができる。



 ――今この場において、フロスト博士はどんなプレイヤーでも手が届かない最強のゲームマスターだ。



「リアルだと俺様もただの科学者に過ぎねーが、この世界でなら話は別ってーことだ! 誰も俺様を止めることなんてできねーんだよ! ましてやこーして……コメットノアの力を最大限に行使できるこの場でならなぁぁああ!!」

 そんな最強の存在と化したフロスト博士は突如現れた浮遊する玉座に腰かけながら、アタシ達の頭上へと浮かび上がる。
 なんともゲームの悪役が乗りそうなお約束的玉座で、フロスト博士の力をもってすれば簡単にこんなこともできるということか。
 おそらく、この人にだけは『現実へのフィードバック』という設定も適用されていない。現実との相互関係機能を完全に断ち切り、思うがままにこの世界で限界を超えた能力を行使できる。
 それだけでも反則なのに、フロスト博士はこと科学工学に関しては本物の天才だ。

 ――アタシでもおよびのつかないその頭脳が、そのまま暴力となって襲い掛かることになる。

「ほーれ! まずは小手調べってーとこだ! テメーもこれには見覚えがあんだろーが!?」
「そ、その技!? 羽根の弾丸!?」

 神とも言えるフロスト博士がまず仕掛けてきたのは、アタシもいつぞや見たことのある羽根の弾丸。軽く指を鳴らすと同時に、アタシ達目がけて何発も乱れ撃ってくる。
 アタシの叔父である鷹広のおっちゃんこと、デザイアガルダが使っていた技だ。
 まさかとは思うけど、アタシが過去に戦ったヴィランの技も使えるってこと?

「うおおぉ!? こ、この技って電磁フィールドでも防げないし、逃げ回るしかないんだけど!?」
「くっそ! いいようにやってくれる! だが、今回は俺だって戦えるんだ!」

 アタシは逃げ惑うばかりだけど、タケゾーは気力を振り絞ってフロスト博士へと挑んでいく。
 ジェットアーマーの持つ装甲と推進機構による機動力。その能力があるからこそ、今のタケゾーはアタシやショーちゃん以上に突進力がある。
 羽根の弾丸にも怖気づくことなく、空中の玉座に座るフロスト博士へ突進していくが――

「クーカカカ! ジェットアーマーか! そいつは確かに厄介な武装ってーもんだ! ……『リアルでならば』の話だがなぁあ!」


 カチィィイイン!


「ぐおぉ!? な、なんだこれは!? か、体が急に冷たく!?」

 ――やはり、相手の方が一枚上手だ。フロスト博士は向かってきたタケゾーに軽く手を向け、新たな能力を行使してその突進を食い止める。
 これはターニングベヒモスも使っていた熱ベクトル反転能力か。ナノマシンによる能力さえも、フロスト博士はこの仮想空間でいともたやすく行使してくる。
 その能力によってタケゾーの突進力も封殺されてしまい、あっけなく甲板上へと墜落してしまう。

「タケゾー!? 大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。だが、あそこまでデタラメな能力をいくつも使えるなんて、反則なんて話じゃないぞ……!?」

 幸い、タケゾー自身へのダメージは小さい。突進を封殺されただけみたいだし、ジェットアーマーの高い防御性能のおかげもあるのだろう。
 だが、今のやりとりだけ見ても分かった。
 やっぱりフロスト博士はアタシがこれまで戦ってきたヴィランの能力を、全て自分のものとして扱うことができる。

「コメットノアは星皇社長のデッドコピーなんだぜー? あの当時に関わってた連中の能力だって、コメットノアには記録されてるってーことだ! それらを俺様は意のままに行使できるってーわけだ! クーカカカ!」
「ほ、本当にとんでもない能力だね……! 開発者ならば当然の話だけどさ……!」

 正直、勝ち筋が全く見えない。こっちだってレベル50はあるのに、それでもフロスト博士の前ではまるで意味を成さない。
 フロスト博士のステータスは見えないけど、仮定するならレベル9999でもおかしくない。いや、数値以上の恐ろしさがある。
 きっとその気になれば、アタシ達のことなんて一瞬で撃退できるはずだ。だけど、戦闘データが欲しいためにあえてそうはしない。

 ――完全にフロスト博士の手の平で踊らされてる気分だ。
 曲がりなりにも、将軍艦隊ジェネラルフリートの総大将は伊達じゃない。

「もーちょっとばかし、俺様を楽しませてもらわねーと意味がねーな。お次はこいつの相手をしてもらって、その力を見せてもらおーか」


 ボゴンッ! ボゴンッ! ボゴンッ!


「こ、今度は甲板から金属アーム!? ま、まさかこれも!?」
「これ、ボクの肉体が使ってたアーム! だけど、あれよりずっと大きい!?」

 まさに余裕綽々といった表情をしながら、フロスト博士は逆座の上からさらなる能力を行使してくる。
 その能力とは、ショーちゃんの肉体でもあったケースコーピオンが使っていた尻尾部分の金属アーム。だが、そのサイズはアタシが知るものとは比較にならない。
 アタシ達三人が見上げるほどに巨大で、おまけに三本も甲板から生えている。
 こうなってくると、尻尾でもアームでもなく巨大触手モンスターとでも言った方がいいレベルだ。
 サイズも数も、設定そのものに干渉できるフロスト博士からすれば自由自在ということか。

 フロスト博士自身は宙に浮かぶ玉座に座ったまま、一度金属アーム軍団からも距離をとっている。
 それこそ、自分は高みの見物でも決め込んでいる様子だ。

「な、なあ、隼。逃げ腰なセリフを言うようだが、これって俺達に勝ち目なんてあるのか?」
「ボクも武蔵さんと同じ。正直、不安でいっぱい……」
「そ、そんな弱気なこと言わないでよね!? ……まあ、アタシもぶっちゃけ同じ気持ちだけどさ」

 VRの中とは言っても、脳裏にはしっかり恐怖が刻み込まれてくる。その心境は『一匹の恐竜の相手をする三匹の蟻』といったところか。
 アタシ達三人が揃っても、フロスト博士一人に勝てるビジョンが浮かんでこない。
 相手はこの世界における神そのものだ。あらゆる能力と事象を全て思い通りに動かすことができる。



 ――こんなとんでもないを超えたレベルの相手に、どうやって勝てと?
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