空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
266 / 465
VRワールド編

ep266 VRゲームがどこにも売ってない!

しおりを挟む
「申し訳ございませんが、あのフルダイブVRゲームは大変ご好評でして、もうすでに予約分も完売で……」
「だ、だよね……。すみません。失礼しました……」

 ヒーロー制定法の裏側に潜む、将軍艦隊ジェネラルフリートという他国から来た傭兵軍団の存在。
 そのことが気になって調査するための手段として思いついたのが、それらに大きく関わっているフルダイブVRゲームへ潜入するということ。
 発案自体は悪くないんだけど、肝心のVRゲームを購入する手段がない。ネットがダメならとアタシも一人で直接店を回って商品を探し求めるも、どの店も当然のごとく完売。

「おのれ、転売ヤー! ああいうのがいるから、アタシみたいな正統派ユーザーが品薄に悩むんじゃないか!」

 思わず街中で叫んでしまうが、このままではアタシの華麗なる潜入計画がオジャンになってしまう。
 世間じゃもうVRゲーム自体は稼働してる頃なのに、こっちはログインもできやしない。
 こんなことなら、アタシももっとヒーロー制定法について真面目に考えておくべきだった。そうすれば、予約をとることだってできたかもしれない。後悔しても遅いけど。

「しっかし、どうしたもんかねぇ? もうVRゲームへの潜入は諦めて、素直に迫って来る脅威にだけ対応するしかないのかねぇ?」

 VRゲームをゲットすることができれば、そこから固厳首相やフロスト博士の計画を覗き見ることだってできる。
 星皇社長のデッドコピーであるマザーAI、コメットノアで作り出された世界ってのも気になるし、複雑な事情やら何やらを全部含めても、VRゲームから色々と手掛かりは得られるはずだ。
 とはいえ、そのVRゲームが超絶品薄状態で入手不能となってる以上、捕らぬ狸の皮算用。事前調査にもってこいと思ったのに、これでは埒が明かない。
 転売ヤーの法外な販売価格に手を出すのも無茶な話だし、ここはおとなしくいつも通りにヒーロー活動を続けて――



「そこ行く令嬢殿。よければ、私に道案内をしてくれぬかな?」
「……へ? ア、アタシのこと?」



 ――などと考えながら街を一人でブラブラしていると、誰かが声をかけてきた。
 『令嬢殿』なんて呼ばれたから思わず本当にアタシのことかと疑ったけど、周囲にはアタシ以外の女性などいない。
 アタシは令嬢なんてガラじゃないけど、確かに今はお買い物用に着飾ってるからね。そう見えなくもない……のかな?
 とりあえずは声のした方向に振り向いてみると、そこにはドレスを着て杖をついたザ・貴婦人とも言うべき女性が立っていた。
 青みがかったセミロングヘアをした美人さんだけど、道に迷ったのかな?

「え、えーっと……? アタシに声をかけたので合ってるんだよね?」
「君以外に令嬢殿と呼べる人などいないだろう? 見たところ、君はこの街を歩き慣れていると見た。私には初めての場所ゆえに、少々案内を頼みたい」
「道に迷たってことかい? だったら、近くに交番があるからそこで――」
「いや、私が申し願いたいのは観光案内だ。どうせならこの街に詳しい人間に案内願いたく、君に声をかけたのだ」
「さ、さいですか……」

 ドレスに杖という中世的なコーディネートもこの街並みに合ってないけど、偶然出くわしたアタシへの依頼もどこか世間とズレた人だ。
 普通、初対面の相手に観光案内とか頼むかね? そういうのはツアー会社とかの専売特許じゃない?
 顔立ち的にもどこか海外っぽいような、そうでもないような微妙な感じだし、浮世離れした容姿や態度も含めて、一体何者なんだろうか?

 ――ただ、この人の顔立ちは誰かに似てるんだよね。それが誰だか思い出せないんだけど。

「まあ、アタシも丁度暇してた感じだし、ここは地元民として案内してあげるよ」
「おお! 助かるぞ、令嬢殿よ!」
「アタシの名前は『空鳥 隼』ね。令嬢殿なんて呼ばれるような大層なご身分でもないさ。お姉さんこそ名前は?」
「私の名か? そうだな……『クジャク』とでも呼んでくれたまえ」
「……それ、絶対偽名だよね? なんだか、アタシもまた面倒事に首を突っ込んじゃったみたいだ……」

 軽い気持ちで引き受けた観光案内だけど、どうにもキナ臭さを感じてしまう。
 このお姉さん自身は特段怪しい――いや、実際のところは場違いな風貌と態度で怪しいんだけど、なんとなく悪い人には見えない。
 それなのに『クジャク』などという偽名を使ってアタシに接してくるあたり、絶対に裏で面倒事が控えている気配がビンビンだ。
 少し前に会ったフクロウさんのことを思い出す。

 どうにもヒーロー稼業なんてやってるせいか、こういう気配には敏感なってしまったらしい。
 むしろ、面倒事が向こうから来てるんじゃない? アタシの磁気能力で面倒事まで引き寄せてない?

「おや? 隼殿は私の案内が面倒か? そうであるならば、こちらも無理強いをするつもりはないぞ?」
「ああ、いや。アタシにも色々と事情があるもんでさ。気を悪くしないでね。アタシも一度引き受けた以上、キッチリと観光案内してあげるさ」
「ハハハッ! 麗しい見た目に似合わず、中々寛容で豪気な令嬢であったか! では、私もお言葉に甘えるとしよう」
「ご、豪気って……。クジャクさんには言われたくないかな……」

 初対面のアタシに対しても馴れ馴れしいクジャクさんに気圧されちゃうけど、アタシも一度口にしたことはしっかり全うしたい。
 もうすでに気疲れしてるけど、本当に何者なんだろうね? まあ、偽名を使ってる時点で教えてくれる気配はゼロだけどね。

「それで? どんなところを観光したいわけさ?」
「この地の庶民の生活を垣間見たい。そのような場所に心当たりはないかね?」
「庶民の生活って……まるで貴族みたいな物言いをするもんだ。まあ、それならショッピングモールにでも行くとしますかねぇ」

 そんなこんなで突如として始まってしまった、謎の貴族風なお姉さんの観光案内。
 アタシはVRゲームを探しに来ただけなんだけどね。まあ、面倒事に巻き込まれるのはヒーロー活動で慣れている。
 本日は今のところ平和だし、VRゲームゲット計画も鎮座してしまったのだから、たまには案内ついでに街を歩いて見て歩くのも悪くはないか。

 とりあえずショッピングモールはすぐ近くだし、まずはそこまで歩いて――



「おお、隼殿! あそこに見えるのは、もしや『コンビニエンスストア』というものではないか? 少々、私も立ち入りたく思う」
「コ、コンビニにここまで興味津々な人、アタシも初めて見たや……」



 ――いく途中でも、クジャクさんはどこか浮世離れした態度をとってくる。
 ただの観光案内と思って引き受けたけど、これは想像以上に骨が折れそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...