空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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新世代ヒーロー編

ep247 アタシ以外の人を馬鹿にするのは許せない!

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「……ボク、自分の意志でここにいる。お師匠様、悪くない」
「僕も君が悪いとは思ってないさ。悪いのは息子に『お師匠様』などと呼ばせて、自身の活動を手伝わせている空色の魔女さ」

 気疲れダウン寸前なアタシに勇者仮面がさらに投げかけてきたのは、アタシがショーちゃんを都合よく利用しているという都度の話だった。
 確かに傍から見れば、アタシは『我が子を戦線に駆り立てるロクでもない母親』となるかもしれない。アタシだって、本当はショーちゃんを危険に巻き込みたくはない。
 だけどこうしてショーちゃんを一緒に連れてヒーロー活動をするのは、ショーちゃん自身の強い要望があってこそだ。
 この子も今はアタシとタケゾーの養子ではあるけれど、そもそもはタケゾー同様にアタシのことを愛してくれた男性の生まれ変わりだ。
 かつては天才剣士とも呼ばれたその技量も含め、今のアタシにとっては頼れる仲間である。そのことをショーちゃん自身も誇りに思ってくれている。

 ――そんな事情も知らずに、勝手なことばかり言わないで欲しい。

「……あのさ? こっちにはこっちの事情があるわけよ? あんた達の意見なんて、アタシも求めてないんだけど?」
「だが、君が『ライセンスも持たずにヒーロー活動をしている』ことや『幼い息子を危険な場に赴かせている』ことは事実だろう? 君だって大人だったら、もう少し世間の常識に目を向けたらどうだい?」
「『事実がー、世間がー』って、随分と頭の固いヒーロー様なこった。そっちこそ、少しぐらいは口を閉じることを覚えたらどうだい? ……いい加減、アタシも鬱憤が溜まってきたんだけど?」

 まさにと言うか、またしてもと言うべきか。アタシと勇者仮面は睨み合って一触即発の状態になってしまう。
 アタシだけへの罵倒なら堪えて聞き流せるけど、ショーちゃんのことまで巻き込まれると流石に黙っていられない。
 思わず頬にビンタでもかましたくなるけど、ここは我慢だ。軽口交じりにどうにか気を紛らわせて――



「空色の魔女はヒーローを勝手に名乗っているが、やっていることはただのヴィランじゃないかい? 法にも道徳にも背き、我が子さえもそのヴィランの道へ堕とそうする所業。……これはもう、許されるものじゃないよね?」
「この様子だと、旦那の方もロクでなしっぽいな」
「あなたを育ててくれたご両親にも、申し訳ないと思わなくて?」
「あ、あんた達ねぇ……!!」



 ――乗り切ろうとしたけど、とてもではないが無理だった。
 アタシだけでなくショーちゃんの気持ちを勝手に曲解され、挙句の果てにはタケゾーや両親のことまで馬鹿にするような発言。三人が揃いも揃って嘲笑の笑みを浮かべ、アタシの大切な人達を侮辱してくる。
 これもう我慢ならない。後でアタシのことを逮捕でもなんでもすればいい。
 だけど、ここはもう一発ビンタでもぶちかまさないと――



 キンッ!!


「うっ……!? しょ、少年よ? な、何をするのかな……!?」
「……お師匠様、苦しめた。これ以上酷いこと言うなら、本当に斬る」



 ――手を出そうとしたアタシより先に、ショーちゃんが動いた。腰の刀を神速で抜刀し、勇者仮面の喉元へと突き立てる。
 アタシでも見切れないほどのスピードだ。他の三人にも見切ることはできなかった。
 勇者仮面もさっきの嘲笑はどこかへ行き、冷や汗を垂らしながら怯え始める。

 ショーちゃんの表情を見てもガチだ。本当に『これ以上の発言は許さない』といった形相で、勇者仮面を含む三人を睨みつけている。
 一歩間違えれば喉元に刀の切っ先が突き刺さるギリギリの位置で止め、新人三人組を脅している。

「わ、分かったよ……。君がそこまで言うなら、今日のところは退いてあげよう……」
「だ、だが、正規のヒーローは俺らだからな!」
「そこのところだけは忘れないでよね!」

 そんなショーちゃんの本気脅しに屈したのか、新人三人組は肩をすくめながら背を向けて立ち去って行った。なんだか三文悪役のような捨て台詞付きで。
 母親としてはこんな暴力的な真似、我が子にはさせたくなかったよね。なんだか、アタシの気持ちまで背負わせちゃったしさ。

「……ありがとね。今はそれだけ言わせて頂戴な」
「大丈夫。ボクも気持ち、理解してる」

 それでも、こうしてショーちゃんがアタシのために動いてくれたのはやはり嬉しい。
 どれだけ侮辱されようとも、アタシには慕ってくれる家族や仲間がいる。それだけで十分ってもんだ。
 少ない言葉しか交わさなかったけど、その気持ちも十分に汲み取れる。

「さーて、アタシ達も帰ろっか。嫌な気分になっちゃったけど、こういう時は家に帰ってくつろぐのが一番だねぇ」
「うん、それがいい。ボクもそうしたい」

 こういう時こそ、帰るべき我が家があるのはありがたいものだ。
 家ではタケゾーも待ってくれてるし、また家族みんなでまったりタイムを堪能しよう。





「――てな感じでさ。アタシもショーちゃんも、ヒーロー制定法のせいで参ったもんだよ」
「ボク、今までのままが良かった。新しい三人のヒーロー、ボクも苦手」
「そんなことがあったのか……。これは俺も少し腹が立ってきたな。……あのヒーローどもの苦情問い合わせ窓口ってどこだ?」
「凸るのやめなって、タケゾー」

 一任務終えて家に帰れば、それぞれの膝に乗り合うファミリートレインで穏やかタイムだ。
 ただその中で色々と文句が出ちゃうと、タケゾーも穏やかでなくなってしまう。まあ、相手が国だ何だで面倒極まりないわけだし、流石に電凸はやらないよね。

 ――本当に電凸はやらないでいてくれるよね? ちょっとタケゾーの表情がマジな感じに見えちゃう。

「流石に控えようとは思うが、隼やショーちゃんがこうも悪者扱いされてると思うと、俺も黙ってられないというか……」
「その気持ちだけで十分ってもんよ。どこまでもお優しい旦那様なこった。ほれ、ご褒美にチョコレートをあげよう」
「……それ、俺が買ってきた奴だよな? まあ、もらうけど」

 電凸も一応は冗談の範囲っぽいけど、タケゾー自身も新人三人組の件で怒りを覚えているのは確かなようだ。
 まあ、気持ちだけに留めてくださいな。アタシが懐に抱えてるチョコをちょこっとあげるからさ。
 実際、電凸しても効果があるかは微妙だしね。

「でもまあ、このままだと本当に隼やショーちゃんのヒーロー活動に支障が出そうだな。何かしらの対策はした方がいい気もするが」
「そんなこと言ってもさ、何をどうすればいいわけよ? アタシ達で法案でも作るっての?」
「それなら、ボクのヒーローネームは『♰漆黒の剣ペラー♰』で決定させる」
「いや、そもそも法案なんて個人で決められるものじゃないからな? 後、ショーちゃんのその異様なこだわりは何?」

 冗談交じりに話しを続けるけど、確かにこのままだとアタシ達の立場は危うくなってしまう。
 ショーちゃんのヒーローネームへのこだわりも気になるし、もう『剣ペラーでもいいかな?』とも思いたくなるけど、それはそれとして何かアタシ達の立場を守る方法はないものか。

「SNSとかのネット上では、今でもアタシを支持してくれるメッセージがたくさんあるんだけどねぇ……」
「まあ、それがある限り大丈夫だとは思うけどな。いくら国がバックにいたって、そう簡単に大勢の民意を跳ねのけることは――あっ」
「ん? どしたの、タケゾー?」

 あれこれ適当に考えはするも、依然打開策はなし。
 そんな中でタケゾーがアタシの話を聞いて、何かを思いついたようにアタシの後ろで顔を上げる。
 何? 何かいいことを思いついちゃったの?
 だけど、相手は国だよ? 政府だよ?

「もしかすると、この手ならいけるかもな。ちょっと今度の休み、俺は一人で出かけてくるけど構わないか?」
「え? もしかして、また浮気?」
「『また浮気』とは人聞きが悪いな……。この間のだって、盛大に隼の勘違いだったろ?」
「……さいでした」
「まあ、ここは俺を信じてくれ。丁度この間の同窓会で、頼れる奴らの連絡先も手に入ったからさ」

 冗談を交えたのはさておき、タケゾーがここまで言ってくれるのならば信用に値する。ここはアタシも信じてみよう。
 タケゾーがアタシ達のために動いてくれるのだから、悪いようになるはずがない。
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