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魔女と家族の新たな日常編

ep232 ああ……。そういうことだったのか……。

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「さーて。変な道草食っちゃったけど、とりあえずはフェリアさんの教会も見えてきたねぇ」
「シスターのお姉さん、いるのかな? いなかったら無駄骨」
「そういうことは思ってても言わないでよ、ショーちゃん。ガックシ来ちゃうからさ」

 誘拐犯とニューヒーロー御一行に巻き込まれた後のノリのまま、アタシとショーちゃんは空を飛んで変身したままの格好でようやく目的の教会までやって来た。
 これでフェリアさんが不在だったら泣けてくるけど、アタシはそこまで考えて行動するタイプじゃないんだ。
 女は度胸。ヒーローは根性。まずは突撃あるのみさ。

 ――まあ、無計画なのに変わりはないけどね。

「ねえ、隼さん。教会に誰か入っていくのが見える」
「おや? 本当だねぇ? フェリアさんじゃないっぽいけど、一体誰が――」

 そんな無計画な訪問のせいで、教会に来客が来る可能性を考慮していないのもマズかった。
 今回はかなり込み入った話になりそうだし、できることならフェリアさんが一人の機会を狙いたい。
 教会に懺悔に来たのか知らないけど、下に見える来客者がいなくなるのを見計らった方が――



「……って!? あれってもしかして、タケゾー!?」
「武蔵さんの用事、フェリアさんとの用事だったの?」



 ――そう思いつつ教会に入っていく人物の影を見ると、なんとそれはアタシやショーちゃんもよく知る人物だった。
 我らが一家の頼れるビッグダディ、タケゾー。何か用事があるとは聞いてたけど、まさかフェリアさんとの用事だったの?

「な、なんでタケゾーがここに? てかさ、フェリアさんと何の用事?」
「そういえば武蔵さん、詳しいことを話すのを渋ってた。それと関係ある?」
「確かにアタシもそこは気になってたけど……。ま、まさか……!?」

 アタシもショーちゃんも気になってしまう、タケゾーがフェリアさんの教会にやって来た理由。
 最初は分からなかったけど、ここで珍しくアタシの女の勘が冴えわたってしまう。

 タケゾーは今日こうしてフェリアさんに会うことについて、アタシ達にも詳細を話していなかった。こういうことって、これまでに一度もなかった。
 タケゾーはアタシ達家族に隠し事なんてしない。家計が火の車だった時でさえ、申し訳なさそうでも相談してくれるような人間だ。
 そんな人間がどこかコソコソとフェリアさんに一人で会いに行く理由となると、アタシの女の勘が一つの可能性しか挙げてこない。



 ――ずばり、不倫だ。
 タケゾーとフェリアさんが実はデキていて、密会の機会を作っていたんだ。



「も、もしも本当に不倫だったら、洗居さんの件も筋が通ってくる……! フェリアさんも洗居さんのことが疎ましくなって、タケゾーとの交際のために縁を切ったってことか……!」
「隼さん、目が血走ってる。大丈夫? 少し落ち着いた方が――」
「だ、だだ、ダイジョブだよ。と、とと、とにかく、もっと近くで様子を伺おう」

 思わず鼻息も荒くなるし、声も震えるほどの動揺。タケゾーに限ってそれはないと思ったけど、こうして思い返してみればそうとしか考えられない。
 何より、フェリアさんは女のアタシから見ても、実に女性らしい女性だ。アタシが女として勝っている部分なんて、せいぜい胸ぐらいのもの。
 タケゾーだって、本来はアタシなんかにはもったいないレベルの美男子だ。もっといい相手なんて、いくらでも選べるに決まってる。

 ――そして、そんな魅力的な異性同士ならば、片や百合派で片や妻子持ちであろうとも関係ない。
 もうそんな予感しかしない。それが怖くて仕方ないけど、確かめずにはいられない。

 アタシとショーちゃんは二人で教会の裏にそっと降り、コソコソと中の様子を伺ってみる。

「……物音が聞こえるけど、うまく聞き取れないや。だけど、窓から人影が二つ見える……」
「ねえ、隼さん。こういうの、盗聴って言う。よくないと思う」
「それは分かってるんだけど、アタシもこうせずにはいられなくて……」

 ショーちゃんの教育に悪いのは承知だし、そもそもが卑怯なことをしているとも思ってる。
 だけど今の教会の中はきっと、タケゾーとフェリアさんの不倫密会現場だ。そんな場所に乗り込んで正気を保てるほど、アタシは強い女じゃない。
 こうして物陰で腰をかがめ、スモークガラスの向こうにある光景を想像するだけで精一杯だ。

 怒りよりも怖さがこみ上げ、アタシの体を震わせてくる。
 目元を指で拭ってみると、いつの間にか溢れ出していた涙さえも確認できる。

 ――愛する人が不倫するのって、こんなに怖いことだったんだ。

「ッ!? 二人が動いた!? あ、あれって……まさか……!?」

 そうこう考えている間にも、教会の中で二人の密会は続いている。
 会話の声は聞こえないし、姿もスモークガラス越しに影でしか確認はできない。
 だけど、アタシはそれだけでもハッキリと確認してしまった――

 ――タケゾーとフェリアさんの二人が、近づいて固く手を組み合う姿を。
 ここまで来ると、声も姿もしっかり確認できなくても、中の状況など理解できてしまう。

〇===

「フェリア……。俺はやっぱり、隼なんかより君の方が……」

「私も~、武蔵さんの方が~、栗阿さんよりもいいですね~」

「フェリア!」

「武蔵さん~!」

===〇

 ――という展開が繰り広げられているに違いない。

「あ……ああぁ……!? や、やっぱりそうなんだ……! あんなにくっついて手まで組み合って、タケゾーとフェリアさんはデキてたんだ……!」
「……そうなのかな? ボク、違う気がする。確かに手を取り合ってるけど、あれは男同士の友情みたいな――」
「いいんだよ、ショーちゃん! 変な気遣いなんかしないで! 全てはタケゾーと釣り合わない、魅力も何もないアタシの責任だから……!」

 これはもう完全にクロだ。タケゾーとフェリアさんはみんなに内緒で交際している。
 そして、アタシや洗居さんの存在はまさに過去の女。もはや用済みで、離婚届も秒読み段階か。つい最近に婚約届を一緒に出したのが嘘のようだ。
 ショーちゃんは必死にアタシを慰めてくれるけど、これは大人の世界の話だ。子供では理解しきれない面だってある。

 ――だけど、アタシはこんなショーちゃんのことだけは手放したくない。

「ショーちゃん! アタシとタケゾーが離婚しても、お願いだからアタシの傍にいてね! ね!?」
「隼さんの傍にはいる。だけど、そもそもそうなるとは――」
「ありがとう、ショーちゃん! アタシはバツイチになっても、ショーちゃんの立派なお母さんになるからね! うわぁぁぁあん……!」
「隼さん……僕の話、聞いて。後、息苦しい」

 思わず泣きながらショーちゃんに抱き着き、傍に居続けることを願ってしまう。
 アタシはタケゾーに捨てられた憐れな女だけど、ショーちゃんを我が子と思う気持ちは本物だ。
 おそらくこの先、タケゾーとの離婚調停とやらが始まるのだろう。慰謝料とか色々あるのかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。



 ――ショーちゃんの親権だけは譲らない。
 たとえ相手がアタシの愛したタケゾーであってもだ。
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