空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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星皇カンパニー編・結

ep214 ヴィラン狂騒曲:デザイアガルダ

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 アタシ達が外を出て空を眺めると、酷く曇った雲の下にそいつの姿があった。
 星皇社長によって脱獄させてもらい、最後の戦力として加入させられたヴィラン。アタシにとっては両親とお義父さんを殺した元凶で、誰よりも忌まわしきかつての肉親――デザイアガルダ。
 もうアタシはこの人のことを叔父ともなんとも思ってないし、何よりもタイミングとしては最悪だ。
 できる限りの交戦を避けて保育園を目指そうとしていた矢先にこいつに見つかった以上、時間も労力もかかってしまう。

「まさか、星皇社長の命令でアタシを襲いに来たのかい? 大凍亜連合に従ってた時といい、本当に下っ端がお似合いなこった」
「星皇社長など関係なイ! 貴様が生きていたのならば、ワシの手で葬らねば気が済まン! 今度こそ両親と同じように、ワシに楯突いたことを後悔しながら死なせてやるゾォオ!!」

 アタシの挑発を聞いても、デザイアガルダの頭の中にはアタシへの復讐心しかないように見える。
 どうにも、こいつは星皇社長の意向とは違う形で動いている感じか。星皇社長もとんでもなく厄介なバケモノを仲間に引き入れたもんだ。

 ――いずれにせよ、ここでの交戦は避けられないか。

「みんな! 工場の中に避難してて!」
「させるカァ! ワシにとっても忌々しいその工場もろとも、吹き飛ばしてくれるワァアア!!」

 こうなったら、こっちも即行勝負でケリをつけるしかない。
 デザイアガルダも両の翼を大きく広げ、お得意のソニックブームで工場ごと破壊しようとしてくる。
 消耗は避けたいのに、これはこっちも相応の出力で相殺を狙うのがベストか。
 アタシも左胸に手を当て、生体コイルを稼働させて――



 ズバァアンッ!!


「ゲギャァ!? だ、誰ダ!? 誰がワシに攻撃ヲ!?」



 ――戦いの準備に入ろうとすると、突如デザイアガルダが空中で体勢を崩し、高度を大きく下げてきた。
 見たところ、何かに背中を斬られたらしいが、一体こんな状況で誰がそんなことを?
 高周波ブレードの居合術が使えるショーちゃんはアタシの後ろにいるし――って、似たようなことが前にもなかったっけ?
 確かあの時も、思わぬ助っ人が現れたような――



「よう。デザイアガルダ……だったか? 悪いんだが、テメェの相手は俺がやらせてもらうぜ?」
「フェ、フェイクフォックス!?」



 ――その正体はあの時と同じく、狐面に黒レインコートを身にまとい、高周波ブレードを手に持ったダークヒーロー(自称)、フェイクフォックスだった。
 家の屋根の上に立ち、高所からデザイアガルダに一閃をお見舞いしたようだ。

 ――こう言ったら悪いけど、なんだか凄くキザったらしい登場じゃない?
 でもまあ、ここに現れた理由も助太刀してくれた理由も、アタシにはお見通しだけど。

「フェイクフォックス様! まさか、あなた様が助けに来てくださるとは……!」
「ま、まあ、俺もダークヒーローなわけだ。こんなバケモノ怪鳥ぐらい、どうってことねえさ」

 十中八九、洗居さんを守るためなのは一目瞭然だ。
 その洗居さんに羨望の眼差しを向けられて、顔を背けながらも助太刀してくれたことを肯定している。

 ――仮面で隠してるけど、絶対にその下の顔は真っ赤でしょ?
 もういい加減、その仮面も外したらどうよ? 誰だか知らないけど、そんなに顔に自信がないわけ?

「……まさか、お前が俺達に味方してくれるとはな。ウォリアールの意志じゃなく、個人の意志で動いてるのか?」
「う、うるせえぞ! 赤原! いいからお前達は星皇社長のもとに向かえ! ここは俺が食い止めてやるからよぉ!」
「……そうか。だったら、俺もお前の協力に甘えさせてもらうよ!」

 そんなフェイフォックスにタケゾーも何やら声をかけるが、その様子はどこか馴れ馴れしい。
 この二人、アタシが知らないところで何かあったのかね? 何と言うか、同世代の男同士の友情みたいなのを感じる。

 まあ、フェイクフォックスもウォリアール人だけど、今はフェリアさん同様にアタシ達の味方をしてくれることは分かった。てか、洗居さんがいる限り敵に回るとは思えない。
 細かい話も聞きたいけど、今はそんな余裕もないからね。何よりデザイアガルダにこの場所を嗅ぎつけられた以上、コソコソと徒歩で保育園に向かう方法もとれなくなってしまった。
 そうなってくると、別の方法が必要になってくる。いっそのこと、超特急で向かえる手段がいいんだけど――



「隼! 俺のバイクに乗れ! こうなったらスピード重視で突っ走って、星皇社長のいる保育園を目指すぞ!」
「決断の早い旦那様なこった! アタシも頼らせてもらうよ! ショーちゃんも乗って!」
「分かった! ボク、隼さんと武蔵さんの力になる!」



 ――その手段についても、タケゾーがすぐに用意してくれた。
 フェイクフォックスがデザイアガルダと交戦している間に裏庭からバイクを乗り出し、アタシの前へとつけてくれる。
 敵に動きがバレてしまった以上、ここからは敵陣のど真ん中を突っ切る形になる。
 ショーちゃんにも戦力としてサイドカーに乗ってもらい、アタシはタケゾーの後ろでバイクにまたがる。

「ボクも変身した。これで準備バッチリ。ヘルメットもつけた」
「ショーちゃんの力は、俺も頼りにさせてもらうよ。隼も準備はいいな?」
「ああ、大丈夫さ。タケゾーも頼んだよ。……でも、アタシはノーヘルなんだよね」
「それはもう今更って話だろ!? とにかく、俺も全速力で飛ばす! しっかり掴まってろよ!」

 予定とは大幅に狂ってしまったけど、こうやって家族で最後の戦いに挑める方がアタシとしても心強い。
 軽く家族の会話を交えると、タケゾーも強くハンドルを握ってアクセルを全開に入れて走りだす。

「武蔵! 隼ちゃん達のことを頼んだぞ!」
「絶対に……絶対に皆さんで帰ってきてください!」
「お母さん達も、応援してるからね~!」

 玉杉さんも洗居さんもお義母さんもそんなアタシ達の背中へ、応援の言葉を投げかけてくれるのが聞こえる。
 どんな計算外が起こっても、今のアタシには新たな道を用意して、それを後押ししてくれる仲間がいる。

「クカァ!? こ、こいつ、意外と強いナ!?」
「そりゃどうも! ……赤原ぁああ!! 絶対に嫁さんも息子も連れて、無事に帰って来いよぉぉお!!」

 どんな強敵が現れても、アタシの代わりに戦ってくれる味方だっている。
 様々な思惑が複雑に絡み合い、アタシでも全部を理解しきれる状況ではない。
 だけど、目指すべき道は確かに見えているし、やるべきことはハッキリしている。



 ――保育園へと向かい、星皇社長を止める。
 それが今のアタシが成すべき最大にして唯一の目的だ。
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