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最後への架け橋編

ep208 タケゾー「自称ダークヒーローの正体を暴いた」

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「え、え~? な、何の話ですか~? フェイクフォックスって~、どなたですか~?」

 俺がした『あんたこそがフェイクフォックスだろう?』という問いかけに対し、フェリアさんはどこか戸惑いながら否定してくる。
 まあ、この質問を単体で見れば、女であるはずのフェリアさんが男のフェイクフォックスだというのはおかしな話だろう。
 だが『フェイクフォックスなんて知らない』と言ってるのは流石に無理がある。フェリアさんなら、親友の洗居さんから聞いていないとおかしい。

 ――少しは手応えを感じれたか。ならば、こちらも追い打ちをかけよう。
 バックの中にしまっていたこれを見せれば、さらに怪しい反応を見せるはずだ。



「そういえば、さっき教会の隅でこんな黒いレインコートを見つけまして――」
「ッ!!?? ば、馬鹿な!? そいつは俺の部屋にしまって――」
「……おい。やっぱりあんたがフェイクフォックスだろ?」



 俺がバックから取り出したのは、道中でたまたま拾った黒いレインコート。自称ダークヒーローのフェイクフォックスとお揃いだ。
 もちろん、お揃いというだけで本人が使っているものではない。これ自体が単なるハッタリだ。

 ――だが、今のでマヌケは見つかった。

「なんで女の真似をしてるのかも気になるが、ここまで来て『いいえ~、違います~』なんてのは、なしにして欲しいな」
「…………」

 フェリアさんは俺の問答に反応した時、明らかにこれまでと態度が違った。
 猫を被ったような女性の穏やかボイスも、若々しい男性の焦る声に変わっていた。
 もうここまでバレて言い訳なんて通用しない。
 少しの間、頭を抱えて下を向いていたが、次に口を開く時に顔を上げて――



「な……なんで俺がフェイクフォックスだと……男だと気づきやがった……!?」



 ――ようやく俺の疑問を認めてくれた。その表情は完全に『フェリアさんというおっとりした女性』のものではなく『フェリアという俺と同世代の美少年』といったものだ。
 フェリアが本当は女性ではなく男性であったこと。そして、洗居さんに片思いする謎のダークヒーロー、フェイクフォックスの正体だった。
 本人も演技力に自信はあったのか、俺に見抜かれたことには心底驚いている。

 ――まあ、俺が気付けたのも、ある意味『俺だから』という曖昧な理由ではあるが。

「……正直言うと、俺はあんたと最初に会った時から妙な感じがしてたんだ」
「はぁ!? 最初からなんで俺を怪しいと思ったんだよ!?」
「何と言うか……『女装が似合ってしまう男』の同族の匂いが……」
「要するに勘じゃねえか!? よくそこから俺の正体を見破れたな!?」

 フェリアはこれまでの女性らしい態度をやめ、完全に男としての態度と声で接してくる。
 そして俺も質問に言葉を返すのだが、それを聞いてフェリアはこれでもかと口調を荒くしてツッコんでくる。

 ――俺からしてみれば、ここまで落差のある女性の演技を続けていた方が驚きなのだが?

「もちろん、そんなのは切っ掛けに過ぎない。ただ、その後も色々と辻褄の合う部分は出てくる。『フェリアというシスターが洗居さんラブだった』『フェイクフォックスというダークヒーローが洗居さんラブだった』『フェリアとフェイクフォックスは同時に姿を見せてない』……これらの理由の元、仮説だった『フェリアが男だったならば?』を照らし合わせれば、自ずと答えは見えてくる」
「……テメェ、大した推理力じゃねえか? 保育士なんかやめて、探偵か推理小説家にでもなったらどうだ?」
「本職でやるほどのレベルではないさ。それに、俺はこれでも保育士って仕事が気に入ってる」

 フェリアも正体が完全にバレたためか、俺とはかなりラフな態度で接してくる。
 椅子の上で修道服のまま足組し、少々きわどいものが見えそうになってしまう。

 ――別に俺にそういう趣味はないし、フェリアも俺のことを同族と思っているのだろう。
 もう隠すも何もないってことか。

「つうか、なんで女のフリなんか続けてたんだ? さしずめ『洗居さんに近づきたかった』ってところだろうけど」
「ああ、そうだよ! ウォリアールからこの国にちょいとお忍びでやって来たら、女性のメイドコスプレのショーに参加する栗阿の姿を見つけちまって、そこからは一目惚れだ! 思わず接触したくなって、俺もメイドコスプレショーに飛び入り参加したんだ! 女装には自信があったからな!」
「そうして女性のコスプレショーに参加して洗居さんと接点を持ったはいいが、今度は『男であることバラすタイミングを見失った』ってことか?」
「それも想像通りだよぉ! よくよく考えたら、好きな女のために女装までする男なんて、ただの変態じゃねえか! こんなの……正体を明かすも何もねえだろがぁああ!?」
「……あんた、実は結構馬鹿だろ?」

 その後は話が妙な方向にシフトしてしまい、フェリアがどうして洗居さんと接触したのかという話になってしまう。
 まあ、俺もずっと気になってはいた。お互いに手の内を晒したことで、余計な壁もなくなったせいなのだろう。
 フェリアも完全に俺のことを同世代の男友達感覚でいるのか、ヤケクソ気味にその心根を暴露してくる。

 ――それにしても、俺の周りには佐々吹ショーちゃんやフェリアといった美少年が多いものだ。
 別に自分で誇るわけではないが、これが『類は友を呼ぶ』とでも言うものだろうか?

「栗阿のピンチに颯爽と参上して正体を明かそうとも思ったけど、そういう時に限って場に知り合いが多いし、俺も思わず『ダークヒーロー、フェイクフォックス』なんて設定を作って、その場凌ぎをしちまうし……!」
「……色々と大変だったんだな」
「ああ、大変だよ! ウォリアールとしての立場も含めて、俺自身ももう自分の立場が意味不明なんだよぉお!! テメェから見たらただ馬鹿なマヌケだろうが、俺の苦しみが分かるかぁああ!?」

 そんなフェリアだが、正体がバレたせいで変なスイッチが入ってしまったのだろう。俺に対して、聞いてもいない内心をどんどんとさらけ出してくる。
 もしかすると、こいつも今まで素直に話せる人間がいなかったせいで、色々と溜め込んでいたのかもしれない。

 ――それにこいつの苦しみに対しては、俺も一定の理解はできる。

「あんたが好きな人に素直に振り向いてもらえない苦しみについては、俺もある程度理解できる。……同じような経験をしてるからな」
「……へ? 魔女の空鳥との関係でか? お前とはずっと仲良しの幼馴染だったって、栗阿からも聞いてるが?」
「ずっと一緒だったからこそ、余計に踏み出した関係になれなかったんだ。まあ、隼が鈍感すぎたのもあるが……」
「……お前も大変だったんだな。その、まあ……元気出せよ」
「……ありがとよ」

 俺も隼とここまでに至る過程を考えれば、不思議とフェリアの境遇にも同情できてしまう。
 男して見られず、その想いがなかなか届かない苦しみ。そんな俺の話を聞いて、フェリアもまた俺に同情してくれる。

 ――本当はこんな話をしに来たわけじゃないのに、どうしてこうなった?
 いい加減、俺も話を本題に戻したい。

「お互いの恋愛談議についてはいったん終わりだ。俺がこうしてあんたの正体を突き止めたのには、もっと別の理由がある」
「……だろうな。それで? お前は俺の正体を知ってなお、何を話したいわけだ?」
「率直に言う。星皇社長に協力しているウォリアールの傭兵部隊――将軍艦隊ジェネラルフリートを今回の一件から手を引かせてくれ。あんたならそれができるんじゃないか?」
「断れば『栗阿に俺の正体をバラす』……ってところか?」
「その通りだ。俺にも守るべきものがある。そのためなら、この話も脅し文句として使わせてもらうさ」

 俺の本当の目的は『将軍艦隊ジェネラルフリートを撤退させること』にある。フェリアはラルカや牙島の態度を見ても、ウォリアールではかなり高貴な身分にある。少なくとも、あの二人よりは上だ。
 だからこそ今はこいつをパイプ役として使い、こちらの要望を押し通す。かなりせこい手を使ってるのは承知の上だ。

 ――それでも、俺はそこまでしてでも守りたいものがある。
 隼が目を覚ました時の不安要素を、少しでも減らしておきたい。

「いや、まあ……確かに俺はウォリアールでもかなり高貴な身分ではあるんだが、相手が将軍艦隊ジェネラルフリートとなると厳しいものがあってな……。たとえラルカや牙島が従っても、将軍艦隊ジェネラルフリートのボスがそれを許すかどうか……」
「国家直属の組織を動かすとなると、そう簡単な話でもないってことか……」
「まあ……俺も個人的には空鳥に協力はしてやりてえ。最初は『栗阿の知り合い』程度の感覚だったが、あいつのことは放っておけないって言うか……」

 だが、事はそう簡単に及んではくれなさそうだ。
 フェリアもわざわざ板挟みの立場で隼の治療までしてくれて、俺達に味方したい気持ちまで持ってくれている。
 とはいえ、敵は国家直属の組織。個人よりも優先すべき意志がある。
 それならばせめて、将軍艦隊ジェネラルフリートと俺が再度接触して――



「少々陰から話を聞いていましたが、まさかミスター赤原がここまで動きますとは。自分の正体を暴いた時といい、随分とアグレッシブなお方ですね」
「キハハハ! なんや? ルナアサシンのラルカ様も、一般人の坊主に追い詰められとったんか?」



 ――そう考えていると、ある二人組が話をしながら教会の中へと入って来た。
 噂をすればなんとやらか。俺としても、まさかこの二人がこの場に直接顔を見せるとは思わなかった。



「ラ、ラルカに牙島……!?」
「先日はどうも。その話、自分達も混ぜてもらえないでしょうか?」
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