空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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星皇カンパニー編・転

ep197 魔王城と化した要塞を突破するぞ!

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「辿り着くことができるか……って、また何か準備して――」


 ビュゥン! ビュゥン!


「――って、うわわっ!?」


 アタシが地下室を出たタイミングを合図とするかのように、館内放送でラルカさんが不吉なことを口走ってくる。
 そしてその言葉の通り、突如廊下の陰から何かがアタシ目がけて飛んできた。

 どうにも、アタシも単純に社長室に向かえるわけではなさそうだ。
 潜入前に抱いた魔王城のような星皇カンパニーの印象も合わせて、本当にこのダンジョンと化した本社ビルを踏破しないと、社長室まで辿り着けそうにない。

「こ、これって、ドローン!? にしてはベーゴマみたいなデザインで、刃までついてるなんて、殺傷力剥き出しにし過ぎでしょ!? これもラルカさんの用意したトラップ!?」
【いえ、今回は自分や部下は関与しておりません。こういう室内戦においては、その道の専門家にお任せします。将軍艦隊ジェネラルフリートの五艦将が一人、艦首将がミス空鳥のお相手をさせていただきます】
「まーた、将軍艦隊ジェネラルフリートのお仲間さん!? アタシ一人相手に、最高幹部をさらに追加投入するかねぇ!?」
【それぐらいの実力だとは評価しています。艦首将の包囲を掻い潜り、見事自分のいる社長室まで辿り着いてください】

 やはりと言うべきか、流石と言うべきか。ラルカさんはアタシが星皇カンパニーに忍び込むことを予測した段階で、対策はすでに打っていた。
 アタシに襲い掛かるのは、刃を回転させながら飛んでくるベーゴマ。いや、ドローンと言うべきなのだろうか?
 ドローンの飛行性能とベーゴマの突進性能をハイブリッドさせたような、宙を舞う旋回斬撃兵器。空は飛ばないけど、同じような玩具を見たことがある。
 それも一つではない。躱しても躱しても、次から次へとアタシ目がけて襲い掛かってくる。

 ――そして、これらを操っているのはラルカさんではなく、以前の巨大サイボーグ艦尾将とは別の将軍艦隊ジェネラルフリート幹部。
 戦力を増強していたとは聞いていたけど、まさか最高幹部がもう一人、対空色の魔女アタシ用に投入されていたなんて。

「もしかしてとは思うけど、その五艦将ってのが全員この場に集ってるとか!?」
【それについてはご安心ください。今この国に集結させられた五艦将は、自分を含めて四人です】
「ああ、そうかい! 五人のところを、四人に留めてくれて感謝するよ! まあ、アタシ一人に四人も用意してる時点で、大概な話だけどねぇ!」

 なんとかベーゴマドローンを避けながら前へ進み、館内放送で声をかけるラルカさんにも文句を述べる。
 もっとも、こんな状況でアタシが文句を述べたところで、ラルカさんが何かをどうこうするはずがない。てか、この人も今は見物者か。
 アタシの迎撃は完全に艦首将と呼ばれる仲間に任せ、淡々とこちらの言葉に返事だけしてくる。

 ――それにアタシの方も、今はラルカさんに構っている暇はなさそうだ。


 ビュゥン! ビュゥン! ビュゥン!


「ちょ、ちょっと!? まだ数が増えるってのかい!? これを全部艦首将とか言う奴が、一人で操作してるってこと!?」

 デバイスロッドに飛び乗り、宙を舞いながら廊下の中を飛んで先を目指すも、ベーゴマドローンの脅威は一向に収まらない。
 距離を放して逃れようとしても、新たなベーゴマドローンが追加で投入され、アタシの前方を塞ぐように立ちはだかってくる。
 これらを操る艦首将本人の姿は見えないが、これだけの飛来物を同時に並行して操作するなんて、並大抵の技術ではない。

 ――物陰からアタシの命を刈り取ろうとする、これまた暗殺に特化したような技。
 将軍艦隊ジェネラルフリートという軍隊の脅威を、改めてこの身に感じてしまう。

「ともかく、こっちも早く最上階を目指した方が良さそうだ! どれだけ数が多くても、屋内で振り切ればこっちのもんよ!」

 それでもアタシだって、敵襲は覚悟の上でここへ乗り込んだのだ。泣き言なんて言ってられない。
 ベーゴマドローンは数を増やして襲い来るが、一度振り切ってしまえばこっちのもんだ。
 わずかな隙間を縫い、非常階段のある突き抜けを上がって最上階を目指せば――



 カァアン! ズバンッ!!


「ぐうぅ!? ベーゴマドローンが……反射してきた!?」



 ――なんとかやり過ごせたと思った矢先、周囲を旋回していたベーゴマドローンが突如加速して、アタシの腕を切り裂いてきた。
 アタシも予想できなかった変則的な加速だが、どうやらベーゴマドローン同士が衝突することで、一つのベーゴマドローンに推進力を集中させてきたということか。
 これもどこかでアタシを狙う艦首将様の技らしいけど、本当にとんでもないことを仕掛けてくる。
 旋回するコマ同士の推進力を合わせ、アタシを狙ってくるだって? 単純に見えるけど、回転や場所とかを相当見極めないとできない芸当だよ?

 ――ラルカさんが屋内戦を一任した意味が分かる。

「全体が回転してるからか、トラクタービームもまともに反応しないじゃん! せめて、本体がどこにいるのかが――」


 カァアン! ズバンッ!!


「ぐぬうぅ!?」

 アタシは非常階段の突き抜けをロッドで上昇して逃げ続けるも、ベーゴマドローンの猛攻は止まらない。
 下から虫が湧き上がってくるかのように、いくつものベーゴマドローンが反射し合いながら、アタシの体を切り刻んでくる。
 非常階段に逃げ込んだのがマズかった。この狭いスペースでは、アタシの方が飛んで火にいる夏の虫という奴だ。
 回転のせいでトラクタービームで投げ飛ばすこともできず、操縦する本体の姿も確認できず、アタシはどんどんと服の上からボロボロに刻まれてしまう。

「ハァ、ハァ……! 乙女の柔肌を狙ってくるなんて、なんともいやらしいドローンなこった! こうなったら、まずはこれをどうにかしないと!」

 一発一発は耐えられても、この数の暴力はアタシでも凌ぎきれそうにない。
 下手に逃げの一手を打つよりかは、まずはこいつらを全部叩き落した方が戦略的か。
 そう思ったアタシは一度踊り場に飛び降り、デバイスロッドを両手で構えて――

「吹っ飛べぇえ!!」


 カッキィィンッ!!


 ――ベーゴマドローンを野球のボールよろしく、フルスイングでバッティングし始めた。
 数も多いし、一度打ち返しても反射して再度襲い掛かっては来る。だけど、このままアタシも切り刻まれ続けるのは嫌だ。
 こちらも負けじと、襲い来るベーゴマドローンをバッティングしまくり、とにかくその連撃を振り払う。


 カキィン! カキィン! ――ズバンッ!


「いってて……! 全部は無理だけど、これで十分な時間はできたかねぇ! そいじゃ……これでトドメだぁああ!!」

 全てのベーゴマドローンを打ち落とすことは流石に無理だ。アタシは別にプロ野球選手でも何でもない。
 それでも、非常階段の下から這い上がってくるベーゴマドローンは、そのほとんどがアタシのバッティングで下方へと集中していく。

 ――このタイミングなら、あの厄介な旋回する刃も一掃できる。
 たとえトラクタービームは効かずとも、瞬間的な衝撃には耐えられまい。

 アタシはデバイスロッドから手を放し、両手の平を合わせて力を込め、その間に出来上がったものを眼下へ叩きつけるように放つ――



「電撃魔術玉ぁぁああ!!」
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