空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
196 / 465
星皇カンパニー編・転

ep196 本当の目的を目の当たりにしてしまった。

しおりを挟む
 タケゾーとショーちゃんという家族に何も告げず、アタシは一人で深夜の空を舞う。
 向かう先は星皇カンパニー。アタシの仮説が正しければ、そこに星皇社長がここまで強引に野望を押し進めた理由が眠っている。

 ――この仮説については異様な自信がある。
 ただ、もしも本当だったならば、それはあまりに辛い話だ。

「……星皇カンパニーが見えてきたね。相変わらず明かりも灯ってないし、星皇社長も計画の最終段階を始めてるのかも……!」

 眼前に星皇カンパニー本社ビルも見えてくるが、その光景はやはり異様なものだ。
 深夜の営業時間外とはいえ、その裏を知ってしまったアタシからすれば、その様相はさながら魔王城と言ったところか。
 星皇社長という魔王が控えているとするならば、その目論見を止めるアタシはさしずめ勇者とも言える。

 ――いや、その目的を確認しない限り、安易な考えも口走れない。

「前にウィッチキャットが潜入した排気口。ここからなら、アタシも潜入できそうだ。……それに、丁度あの秘密の地下室にも侵入できる」

 星皇カンパニーの近くまで来ると、アタシはウィッチキャットも使った排気口から建物の地下へと忍び込む。
 その先にあるのはあの時と同じ、セキュリティで強固に閉ざされた扉。あの時は無理だったが、今回はアタシが直接その場に乗りこめている。

「セキュリティパネルを開いて……ガジェットでハッキングを仕掛けて……」

 アタシならば、この扉のセキュリティを突破できる。かなり強固なプロテクトがかかっているが、それでもアタシならば問題ない。
 それにしても、こんな隠れるような地下室にこれほどまでのセキュリティまで備えているということは、余程のものを隠していると見える。

 ――その余程のものがアタシの思う通りだとすれば、仮説への信憑性も増してくる。

「……よし、開いた。さてさて、本当にこの部屋に眠っているものは――」

 セキュリティを突破して部屋の中に足を踏み入れると、なんとも近代的な設備が並んでいるのが目に入る。
 かつてジェットアーマーを開発していた警察関係の施設にお邪魔した時にも見た、最新式のスパコンや3Dプリンタも置いてあり、ここでの研究がどれほど高レベルで重要なものかを物語ってくる。

 そして、部屋の中央には巨大なカプセルが置かれているのだが――



「ああ……やっぱり、そういうことだったんだね……」



 ――その中身を見て、アタシの仮説は確信に変わった。
 カプセルの中で眠っているのは、幼稚園児ぐらいの男の子。手元の操作パネルでも確認できるが、この子はショーちゃんと同じタイプの人造人間だ。
 パンドラの箱にあった人工骨格や神経伝達回路の技術、さらにはヒトゲノムの解析データを元にして、限りなく人間の少年に似せた姿。
 ただ、この人造人間にはショーちゃんのように『ベースとなる人間の魂』が宿ってはいない。今はまだ器だけの状態だ。

 ――それでもこれが星皇社長の作ったものならば、誰の魂を宿そうとしているのかは分かる。

「写真立てがある……。星皇社長と仲良く並んだ男の子……。この人造人間と同じ姿だし、やっぱりこの子が……」

 アタシは近くに置いてあった写真立てを手に取り、眼前で眠る人造人間の正体と星皇社長の目的を理解する。

 ヒトゲノム、神経伝達回路、人工骨格といった技術で作りたかったのは、人工的な肉体という器。
 精神移植、ワームホールによる時間逆光で手に入れたかったのは、過ぎ去りし日に記憶された魂。
 これらの器と魂を組み合わせ、星皇社長は『ある人物』を蘇らせようとしていた。



 ――それがこの写真に写る、幼くして亡くなった星皇社長の息子だ。



「……分からなくはないよ。自分の子供が――家族が戻って来るならば、悪魔にだって魂を売りたくなるよね……」

 今のアタシにもショーちゃんという息子がいる。アタシ自身は実の子のように扱っているつもりだが、所詮は養子だ。
 自分がお腹を痛めて産んだのに、幼くして無残にその命を散らされた我が子ならば、どんな手を使ってでも蘇らせたいと思いたくなる気持ちも分からなくはない。
 アタシだって、ショーちゃんやタケゾーが同じ目に遭ったら、星皇社長のように動いていたかもしれない。両親のことだって、蘇らせる手段があるなら蘇らせたい。

 ――家族の絆が故に、星皇社長は持てる限りの技術を駆使して我が子を蘇らせようとした。
 それこそがこれまでアタシの周囲で起こっていた、非日常的な騒動の背景にあるものだ。



【どうやら、星皇社長の目的を理解されたようですね。ミス空鳥】

「……その声、ラルカさんだね? やっぱ、アタシが忍び込むことは想定内ってことか」



 アタシが一人地下室で真相を知ってたたずんでいると、館内放送でラルカさんの声が聞こえてきた。
 アタシもこんな急に押しかけたことで、バレないなどとは思っていない。
 それでもすぐに真相を確かめたくて、バレるのは覚悟の上でここまでやって来たのだ。

【わざわざ自分から逃げ切って助かったばかりなのに、またこうしてこちらのテリトリーに足を踏み入れるなど、相当知りたいことがあったようですね】
「ああ、その通りさ。色々とアタシの中でも結論が導き出せたもんでね。……星皇社長の目的は理解したよ」
【そうですか。では、社長の想いを汲んで、ここはおとなしく引き下がってもらえませんか? 目的さえ成し遂げられれば、パンドラの箱もお返ししましょう】

 ラルカさんは館内放送を使い、アタシと交渉を申し出てくる。
 星皇社長にとっては我が子を蘇らせることこそが本懐であり、それ以上のことでパンドラの箱を使うつもりはないのだろう。
 アタシだってこうして星皇社長の想いを知ってしまった今、無下にその話を断ることはできない。

 ――だけど、目的のために再度ワームホールの展開を行えば、またどんな脅威が訪れるかは分からない。
 あの技術は地球上に宇宙を発現させることと同義だ。下手をすれば、今度こそこの世界そのものが崩壊する危険性だってある。

「……残念だけど、アタシはやっぱり星皇社長を止めさせてもらうよ。たとえそれが、失った我が子を取り戻すためであってもだ」
【……そうですか。それは残念です】
「それより、星皇社長に会わせてもらえないかな? アタシも直接会って、もう一度話がしたい」

 星皇社長の息子さんと世界を秤にかければ、アタシは世界を選ばざるを得ない。
 アタシだって素直に納得はできない。だけど星皇社長一人の思惑のために、世界を犠牲にすることなんてできない。

 ――でもせめて、アタシは星皇社長と話し合いだけはしたい。
 たとえそれが無駄であったとしても、アタシは言葉で星皇社長を止めたい。

【……仕方ありませんね。では、当ビルの最上階にある社長室までお越しください】
「そこに行けば、星皇社長と話し合えるってことかい?」
【実際に話し合えるかは別としましても、自分も社長もそこでお待ちしております】
「……分かった。ちょっとの間、そこで待っててもらうよ」

 ラルカさんと館内放送を介してやりとりすると、アタシは地下室を出る。
 とにかく今は話がしたい。星皇社長にアタシの言葉が届くかは分からないが、それでも直接会って言葉を交わさないことには、アタシ自身が納得できない。

 決心を固め、アタシは社長室のある最上階を目指そうとするのだが――



【こちらも待ちはしますが、今なお排除命令は継続中です。……辿り着いた後のことを考える前に、辿り着けるかどうかを考えてください】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒナの国造り

市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。 飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。

【改訂版】異世界転移で宇宙戦争~僕の専用艦は艦隊旗艦とは名ばかりの単艦行動(ぼっち)だった~

北京犬(英)
SF
本作はなろう旧版https://ncode.syosetu.com/n0733eq/を改稿したリニューアル改訂版になります。  八重樫晶羅(高1)は、高校の理不尽な対応で退学になってしまう。 生活に困窮し、行方不明の姉を探そうと、プロゲーマーである姉が参加しているeスポーツ”Star Fleet Official edition”通称SFOという宇宙戦艦を育てるゲームに参加しようと決意する。 だが待ち受けていたのは異世界転移。そこは宇宙艦を育てレベルアップさせることで生活をする世界で3年縛りで地球に帰ることが出来なかった。 晶羅は手に入れた宇宙艦を駆り、行方不明の姉を探しつつデブリ採取や仮想空間で模擬戦をして生活の糧とします。 その後、武装少女のアバターでアイドルになって活動したり、宇宙戦争に巻き込まれ獣耳ハーレムを作ったりします。 宇宙帝国で地位を得て領地経営で惑星開発をしたり、人類の天敵の機械生命との戦闘に駆り出されたり波瀾万丈の生活をおくることになります。 ぼっちのチート宇宙戦艦を育てて生き残り、地球への帰還を目指す物語です。 なろうでも公開していますが、最新話はこちらを先行公開する予定です。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

蒼海のシグルーン

田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。 毎週金曜日に更新予定です。

【デス】同じ一日を繰り返すことn回目、早く明日を迎えたい(´;ω;`)【ループ】

一樹
SF
ある日目覚める度に殺されるという、デスループを繰り返してきた主人公。 150回目くらいで、掲示板の住人たちに助言を求めようとスレ立てを思いついた。 結果、このループの原因らしきものをつきとめたのだった。 ※同名タイトルの連載版です。短編の方は削除しました。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

ラビットハント

にのみや朱乃
SF
 葛城詠子は自分を可愛く見せることに執着していた。本性は口調も荒く、態度も悪いのに、その本性を家族にさえ隠してきた。  ある日、詠子は彼氏と一緒に没入型アトラクションであるラビットハントに参加する。そこで、詠子は人生に刻み込まれるような体験をすることになる。

処理中です...