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日常と非日常編

ep183 タケゾー「その正体をようやく突き止められた」

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「ウォ、ウォリアール……? ええ、まあ。知り合いにウォリアール出身だって人がいますから……」
「ウォリアールに知り合いがいるのか? あの国は情報をほとんど外に出してねえのにな~……」

 玉杉さんがラルカについて調べてくれた話だが、何故か最初にウォリアールの話をされてしまった。
 俺もゼノアークさんやフェリアさんの出身国というぐらいの認識しかないが、それがラルカの件とどう繋がるのだろうか?

「順を追うから、遠回しな説明になるのは承知してくれ。お前達が大凍亜連合に関わってた件から、俺もまずは牙島の身元を洗い直したんだ」
「牙島の身元を洗って、どうしてウォリアールの話が?」
「……牙島はウォリアールの出身だ。日本人じゃねえみてえだ」
「えっ……!? あいつ、ウォリアールの人間だったんですか!?」

 最初は話の筋道が読めなかったが、玉杉さんも少ない手掛かりから情報を手繰り寄せてくれたようだ。
 その中で新たに分かったのは、大凍亜連合の用心棒だった牙島もウォリアール人だったという事実。
 そういえば、ゼノアークさんも少し口にしていたことがあったな。『ウォリアールは多国籍国家で、日系の国民もいる』みたいな話だったか。

「そんな牙島と一緒になって動いている女がいてな。こいつもまた、ウォリアールの出身らしい」
「おそらく、そいつがラルカだと思います。それにしても、ウォリアールって一体どんな国で……?」
「これは噂話になるが、なんでも『軍事傭兵国家』だって話だ」
「な、なんですかそれは?」
「国家プロジェクトとして軍事力を高め、他国の軍事関係に関与して報酬を得ることを生業とする……。言うなれば『戦争代行屋』ってところか」
「戦争代行屋……」

 そんなウォリアールという国なのだが、これもまたきな臭い噂がある。
 これまでは海外の一国程度に思っていたが、国ぐるみで戦争を商売として成り立たせているということか?
 そんな恐ろしい国が、本当に実在するということか?

「表向きには公にできない内紛、極秘裏で早急に終わらせたい軍事作戦。海外で起こる戦争を生業としてるから、こんな情報社会のご時世であっても、まともに情報を掴めねえんだろうよ。一説によれば、大規模な艦隊まで保有しているとか。まあ、全部あくまで噂話だがな」
「本当だとしたら、恐ろしい話ですね……。それで、肝心のラルカについて他に情報は?」

 ウォリアールの噂も気になるが、今俺が知りたいのはラルカという人物の正体だ。
 牙島と行動を共にするウォリアール人の女。この時点でも、俺の中で絞り込める人物はいる。

 ただ、あと一歩確定できそうな情報が欲しい。
 そう思って、玉杉さんに尋ねてみると――



「後分かるのは、その女が『ルナアサシン』って呼ばれる凄腕の殺し屋なこと。それともう一つ、星皇カンパニーに出入りしていること。……って、どっちも本当に噂話だけどな」
「……いえ、助かりました。ありがとうございます」



 ――俺の中で絞り込んでいた人物が、お目当てのラルカだという結論に至った。
 玉杉さんの話は噂を繋いだだけらしいが、それでも俺が知る情報と被る部分がある。
 全く違うルートで仕入れた情報が、こうも偶然として重なるものだろうか?

 ――正直、俺の中では『あの人』こそがラルカとしか思えない。
 そしてラルカは大凍亜連合とは別に、まだ俺の知る人物の命令で動いている。

「……なあ、武蔵。俺も教えておいてなんだが、こいつはかなりやべえ橋を渡ってる匂いがするぞ? 大丈夫か?」
「俺も想像以上の話を聞いてしまった感はあります。ただ、知ってしまったものは仕方ありません。……玉杉さんもお気をつけて」
「おうよ。隼ちゃん達にもよろしくな」

 玉杉さんから話を聞き終えると、別れを告げ合いながら二人で応接室を出て、それぞれ廊下を別方向に歩いていく。
 どうにも、俺は恐ろしい片鱗に触れてしまったようだ。ただ、それは調べてくれた玉杉さんにも同じことか。
 こんなことなら玉杉さんを頼らず、自分で時間をかけてでも調べた方が――



「どなたかと話をしていたようですが、目的の情報は得られたのですか?」
「あ、あんたは……ゼノアークさん……!?」



 ――そうこう考えながら廊下を歩いていたのだが、その先にいる人物に思わず声をかけられた。
 しかも声をかけてきたのは、星皇社長と共に帰ったはずのゼノアークさん。何やら、俺と玉杉さんの話に勘付いたかのように語り掛けてくる。

 ――俺にとっては、今一番会いたくない人だ。

「少々思い詰めているようですが、自分がこう言えば安心するでしょうか? 『先程、ミスター赤原と一緒にいた人物には、危害を加えるつもりはありません』……と」
「……その様子だと、俺達が何を話していたのかはお見通しってことか。その言葉は信じていいのか?」
「それについてはお約束しましょう。自分も任務以上の危害は加えません」

 もうほぼ確定というレベルで、ゼノアークさんは俺達の話に気が付いている。本当に最悪の状況だ。
 いつもの淡々とした語り口も、まるで暗殺者のように嫌に不気味に聞こえる。
 その言葉がどこまで本当かは信用できないが、それでも俺がこうして相対してしまった以上、ここは勝負に出るべきか。



 ――空色の魔女をつけ狙い、牙島とも繋がる謎の女、ラルカ。
 俺はこの場でその正体を暴いてみせる。



「……ところで、ゼノアークさん。星皇社長の傍にいなくてもよろしいのですか?」
「星皇社長からは、傍で秘書としての役目以上の任務を与えられています。自分に聞きたいことがあるのならば、遠慮なく申してください。この場で自分があなたに危害を加えないこともお約束しましょう」

 もうゼノアークさん自身も、俺が何を考えているのかは理解している。
 ここまで来ると、下手な駆け引きも意味をなさない。

 俺と隼の初デートの時、空色の魔女として戦う隼を探っていたこと。
 牙島と同じウォリアール人であること。
 星皇カンパニーに出入りしていること。

 ――これらのことから、まず尋ねるべきことが一つある。



「ゼノアークさん……。あなたは『ルナアサシン』という二つ名を持つ、ラルカという女性に覚えがありますね」
「……予想はしていましたが、自分もいささか動きを見せ過ぎましたか。いずれにせよ、自分も動く出番だったので、頃合いかもしれませんね」



 俺がそのことを尋ねると、ゼノアークさんはどこか観念した様子で姿勢を崩し始める。
 もうこれは確定だろう。俺が追っていたラルカという女。

 ――その正体は、今俺の目の前にいる。



「ミスター赤原の疑問に答えられるよう、改めて自己紹介をさせていただきます。自分のフルネームは……ラルカ・ゼノアークです。本国ウォリアールでは『ルナアサシン』などとも呼ばれてますね」
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