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日常と非日常編
ep181 タケゾー「家族で保育園にやって来た」
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「あー! ジュンせんせーだー!」
「ほんとだー! タケゾーせんせーといっしょだー!」
隼のおかげで赤字家計簿危機から脱出した翌日。俺は隼とショーちゃんを連れて、勤め先の保育園へとやって来た。
今日は保育園主催による、職員や保護者も交えた交流会。園長にも話を通すと、俺の家族である二人も快く受け入れてくれた。
「よっす! ちびっ子ども! 久しぶりだねぇ! 元気にいい子にしてたのかい?」
「うん! ゲンキでいいこにしてたー!」
「それより、それより! タケゾーせんせーとケッコンしたのー!?」
「いっしょにいるひと、ジュンせんせーとタケゾーせんせーのこどもなのー!?」
「そこのおはなし、いっぱいきかせてー!」
「うおぉ……。想像以上に園児達の圧が強いもんだ……」
そうして久しぶりに顔を見せた隼を見て、園児達は予想通り一斉に駆け寄って質問攻めを始める。
ショーちゃんのことも俺と隼の息子だと思っているらしく、結婚の件も含めて押せよ押せよとどんどん質問。
隼も今日は大人びた人妻風コーデだし、余計に母親感が増しているのも原因の一つか。
隼にとっては園児達のこの圧は想定外のようだが、俺からしてみれば当然の反応だ。
園児達も長いこと隼に会えなかった分、とにかく聞きたいことが山盛りのようだ。
「隼さん、凄い人気。悩んでるけど、楽しそう」
「思えば、隼は空色の魔女になる前から、ここの園児のことを気にかけてたからな。この保育園もまた、隼にとっての日常の一つか」
俺はショーちゃんと並びながら、そんな隼の様子を眺める。
隼は空色の魔女として、何よりも『人々の日常を守りたい』という意志で動いている。だからこそ、人々の運命を弄ぶような大凍亜連合の存在が許せなかった。
そうした守るべき日常の中には、隼自身の日常も含まれている。
時間に余裕もできて、大凍亜連合ともひとまずの決着が着いた今、隼も空色の魔女という非日常ではない本来の日常を噛みしめる時間がある。
――そして実際にそうしている姿を見ると、俺も隼と共に歩めてよかったと思えてくる。
「あら? 空鳥さんも家族でいらしてたのね?」
「お久しぶりです。ミス空鳥にミスター赤原」
「せ、星皇社長にゼノアークさん!?」
隼が園児達に群がられて揉みくちゃにされていると、星皇社長と秘書のゼノアークさんがこちらへとやって来た。
星皇社長も昔この保育園でお子さんを亡くしたことで、色々と思うものがあるのは知っている。その縁で今回の交流会にも姿を見せたのだろう。
――ただ、その表情はどこか険しく、声をかけられた隼も戸惑いの色を見せている。
「……ゼノアーク。少し人払いをお願いできるかしら?」
「子供の相手は苦手なのですが……かしこまりました。社長達も少し離れたところでお話し願います」
「ええ、分かったわ。……あなた達一家と、私も個人的に話がしたいのよ」
そんな星皇社長だが、ゼノアークさんに園児達の相手を任せると、グラウンドの隅の方へ俺達を招いてくる。
今回は保育園関係での交流会であり、このように個人的な話をするのはあまりルールとしてよろしくない。
だが、星皇社長から漂う雰囲気は、どこか俺達に有無をも言わせないもの。まさに大企業の社長が持つオーラとでも言うべきか。
俺達三人は言われた通り、人のいないところで密かに話を聞かされてしまう。
「先日の大凍亜連合総帥が逮捕された一件……。あの時も空色の魔女が現れたそうね?」
「え、ええ。その……アタシです」
「以前にも警告したけれど、空鳥さんはヒーローとしてではなく、もっと一人の人間として自分を見つめるべきよ。他者のために危険へ飛び込むのではなく、母親としてエンジニアとして、もっと未来へ投資するべきじゃないかしら?」
「そ、それは……アタシも家族と相談した上で……」
星皇社長は以前に隼が倒れた時、空色の魔女としての正体も知っている。知った上で、星皇社長の視点から隼のことを気にかけている。
一家を支える母親としての未来。才能あふれるエンジニアとしての未来。
かつては母親だった身であり、隼も尊敬するほどのエンジニアとして、空色の魔女が活動を続けることは面白くないように見える。
「確かに大凍亜連合は壊滅したけど、まだ全てが終わったわけじゃないわ。あなたが空色の魔女として持っている力と責任も含めて、私に託してくれないかしら?」
「い、いや……。アタシは自分で選んだわけで……」
さらに星皇社長は右手の平を隼へと差出し、催促するように手招きしてくる。
隼が空色の魔女として背負う力と責任。それはもしかすると、隼が両親から託されたパンドラの箱のことだろうか?
仮にそうだとした場合、どうして星皇社長がそのことを知っていて、どうしてそれを狙っているのか?
頭の中で仮説を進めると、星皇社長の本当の目的がパンドラの箱にあるようにも思えてくる。
――それも気になるが、俺は俺で我慢ができなくなってきた。
隼がここまで言い詰められて、俺もいい気はしない。
「……星皇社長。隼が空色の魔女を続けることは、家族で話し合って決めたことです。あなたに口出しされることではありません」
「タ、タケゾー……?」
俺は隼を片手で制しながら、自らが星皇社長の前へと出る。
隼も怖気づいてしまっているし、今の星皇社長からは普段と違う威圧感のようなものがある。
そんな時に俺が動かずして、一家の父親なんて名乗れない。
「……あなたも空鳥さんの旦那として、もう少し考えてみたらどうかしら? 奥さんを危険に晒すよりも、もっと未来のある道に進ませるべきじゃない?」
「俺もそう思うことはあります。ですが、隼自身は空色の魔女で在り続けることを望んでいます。俺は隼の夫として、妻が進みたい道を選ばせてやりたい。空色の魔女という、隼にしか選べない道……。どんな困難な道であっても、隼がその道を進みたいと望むのならば、俺はそれを支えてやりたいのです」
星皇社長は俺にも物申してくるが、こちらも負けじと言い返す。
最初の頃は隼の方が一人のエンジニアとして強く物申し、俺は怖気て見ているだけだった。
だが、今は違う。隼の選んだ道を守るためならば、相手が大企業の社長でも関係ない。
「赤原さんは理解しきれてないかもしれないけど、空鳥さんが握っている研究データは一個人では手に余るものよ。そんなものを抱えて、空色の魔女を続けるなんて――」
「その口ぶりだと、隼が握っているあるものが欲しいように聞こえますね。それに技術が云々とおっしゃるなら、ご自身の技術の流出を危惧するべきではないでしょうか? ……大凍亜連合が行っていたワームホール実験。あれは本来、星皇社長の技術ではないのでしょうか?」
「……私相手に随分と物申すのね。あの赤原警部の息子さんなだけのことはあるわ。……空鳥さんへの想いも変わらないみたいだし、これ以上の討論は不要ね」
俺も必死に頭を回し、星皇社長の言葉に対抗する。
そんな俺の姿を見て折れてくれたのか、星皇社長は俺達に背中を向け、その場を立ち去り始めた。
「もしかすると、あなた達とこうして話をするのも最後かもしれないわね。……ここまで言っておいてなんだけど、せめてどうかお幸せにね」
去り際に星皇社長はどこか寂しそうな声で俺達に別れを告げてきた。
その声は今生の別れを告げるようにも聞こえ、同時に俺の中に奇妙な不信感を残していく。
――星皇社長はパンドラの箱を知っている。そして、パンドラの箱を狙っている。
その予感が不信感となって、俺の心に残ってしまった。
「ほんとだー! タケゾーせんせーといっしょだー!」
隼のおかげで赤字家計簿危機から脱出した翌日。俺は隼とショーちゃんを連れて、勤め先の保育園へとやって来た。
今日は保育園主催による、職員や保護者も交えた交流会。園長にも話を通すと、俺の家族である二人も快く受け入れてくれた。
「よっす! ちびっ子ども! 久しぶりだねぇ! 元気にいい子にしてたのかい?」
「うん! ゲンキでいいこにしてたー!」
「それより、それより! タケゾーせんせーとケッコンしたのー!?」
「いっしょにいるひと、ジュンせんせーとタケゾーせんせーのこどもなのー!?」
「そこのおはなし、いっぱいきかせてー!」
「うおぉ……。想像以上に園児達の圧が強いもんだ……」
そうして久しぶりに顔を見せた隼を見て、園児達は予想通り一斉に駆け寄って質問攻めを始める。
ショーちゃんのことも俺と隼の息子だと思っているらしく、結婚の件も含めて押せよ押せよとどんどん質問。
隼も今日は大人びた人妻風コーデだし、余計に母親感が増しているのも原因の一つか。
隼にとっては園児達のこの圧は想定外のようだが、俺からしてみれば当然の反応だ。
園児達も長いこと隼に会えなかった分、とにかく聞きたいことが山盛りのようだ。
「隼さん、凄い人気。悩んでるけど、楽しそう」
「思えば、隼は空色の魔女になる前から、ここの園児のことを気にかけてたからな。この保育園もまた、隼にとっての日常の一つか」
俺はショーちゃんと並びながら、そんな隼の様子を眺める。
隼は空色の魔女として、何よりも『人々の日常を守りたい』という意志で動いている。だからこそ、人々の運命を弄ぶような大凍亜連合の存在が許せなかった。
そうした守るべき日常の中には、隼自身の日常も含まれている。
時間に余裕もできて、大凍亜連合ともひとまずの決着が着いた今、隼も空色の魔女という非日常ではない本来の日常を噛みしめる時間がある。
――そして実際にそうしている姿を見ると、俺も隼と共に歩めてよかったと思えてくる。
「あら? 空鳥さんも家族でいらしてたのね?」
「お久しぶりです。ミス空鳥にミスター赤原」
「せ、星皇社長にゼノアークさん!?」
隼が園児達に群がられて揉みくちゃにされていると、星皇社長と秘書のゼノアークさんがこちらへとやって来た。
星皇社長も昔この保育園でお子さんを亡くしたことで、色々と思うものがあるのは知っている。その縁で今回の交流会にも姿を見せたのだろう。
――ただ、その表情はどこか険しく、声をかけられた隼も戸惑いの色を見せている。
「……ゼノアーク。少し人払いをお願いできるかしら?」
「子供の相手は苦手なのですが……かしこまりました。社長達も少し離れたところでお話し願います」
「ええ、分かったわ。……あなた達一家と、私も個人的に話がしたいのよ」
そんな星皇社長だが、ゼノアークさんに園児達の相手を任せると、グラウンドの隅の方へ俺達を招いてくる。
今回は保育園関係での交流会であり、このように個人的な話をするのはあまりルールとしてよろしくない。
だが、星皇社長から漂う雰囲気は、どこか俺達に有無をも言わせないもの。まさに大企業の社長が持つオーラとでも言うべきか。
俺達三人は言われた通り、人のいないところで密かに話を聞かされてしまう。
「先日の大凍亜連合総帥が逮捕された一件……。あの時も空色の魔女が現れたそうね?」
「え、ええ。その……アタシです」
「以前にも警告したけれど、空鳥さんはヒーローとしてではなく、もっと一人の人間として自分を見つめるべきよ。他者のために危険へ飛び込むのではなく、母親としてエンジニアとして、もっと未来へ投資するべきじゃないかしら?」
「そ、それは……アタシも家族と相談した上で……」
星皇社長は以前に隼が倒れた時、空色の魔女としての正体も知っている。知った上で、星皇社長の視点から隼のことを気にかけている。
一家を支える母親としての未来。才能あふれるエンジニアとしての未来。
かつては母親だった身であり、隼も尊敬するほどのエンジニアとして、空色の魔女が活動を続けることは面白くないように見える。
「確かに大凍亜連合は壊滅したけど、まだ全てが終わったわけじゃないわ。あなたが空色の魔女として持っている力と責任も含めて、私に託してくれないかしら?」
「い、いや……。アタシは自分で選んだわけで……」
さらに星皇社長は右手の平を隼へと差出し、催促するように手招きしてくる。
隼が空色の魔女として背負う力と責任。それはもしかすると、隼が両親から託されたパンドラの箱のことだろうか?
仮にそうだとした場合、どうして星皇社長がそのことを知っていて、どうしてそれを狙っているのか?
頭の中で仮説を進めると、星皇社長の本当の目的がパンドラの箱にあるようにも思えてくる。
――それも気になるが、俺は俺で我慢ができなくなってきた。
隼がここまで言い詰められて、俺もいい気はしない。
「……星皇社長。隼が空色の魔女を続けることは、家族で話し合って決めたことです。あなたに口出しされることではありません」
「タ、タケゾー……?」
俺は隼を片手で制しながら、自らが星皇社長の前へと出る。
隼も怖気づいてしまっているし、今の星皇社長からは普段と違う威圧感のようなものがある。
そんな時に俺が動かずして、一家の父親なんて名乗れない。
「……あなたも空鳥さんの旦那として、もう少し考えてみたらどうかしら? 奥さんを危険に晒すよりも、もっと未来のある道に進ませるべきじゃない?」
「俺もそう思うことはあります。ですが、隼自身は空色の魔女で在り続けることを望んでいます。俺は隼の夫として、妻が進みたい道を選ばせてやりたい。空色の魔女という、隼にしか選べない道……。どんな困難な道であっても、隼がその道を進みたいと望むのならば、俺はそれを支えてやりたいのです」
星皇社長は俺にも物申してくるが、こちらも負けじと言い返す。
最初の頃は隼の方が一人のエンジニアとして強く物申し、俺は怖気て見ているだけだった。
だが、今は違う。隼の選んだ道を守るためならば、相手が大企業の社長でも関係ない。
「赤原さんは理解しきれてないかもしれないけど、空鳥さんが握っている研究データは一個人では手に余るものよ。そんなものを抱えて、空色の魔女を続けるなんて――」
「その口ぶりだと、隼が握っているあるものが欲しいように聞こえますね。それに技術が云々とおっしゃるなら、ご自身の技術の流出を危惧するべきではないでしょうか? ……大凍亜連合が行っていたワームホール実験。あれは本来、星皇社長の技術ではないのでしょうか?」
「……私相手に随分と物申すのね。あの赤原警部の息子さんなだけのことはあるわ。……空鳥さんへの想いも変わらないみたいだし、これ以上の討論は不要ね」
俺も必死に頭を回し、星皇社長の言葉に対抗する。
そんな俺の姿を見て折れてくれたのか、星皇社長は俺達に背中を向け、その場を立ち去り始めた。
「もしかすると、あなた達とこうして話をするのも最後かもしれないわね。……ここまで言っておいてなんだけど、せめてどうかお幸せにね」
去り際に星皇社長はどこか寂しそうな声で俺達に別れを告げてきた。
その声は今生の別れを告げるようにも聞こえ、同時に俺の中に奇妙な不信感を残していく。
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