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日常と非日常編
ep178 タケゾー「我が家の家計が火の車だ」
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隼が空色の魔女として、幾度となく交戦してきた反社組織――大凍亜連合。
先日起こったワームホール騒動により、ついに隼はその総帥を撃破。これにより総帥は逮捕され、大凍亜連合はその勢力を大幅に縮小させることとなった。
まだ完全に壊滅したわけではなく、残党による事件は度々起こっている。ただ、それも隼が空色の魔女という街のヒーローの姿で駆けつければ、すぐに片付く話だ。
これまで多くのしがらみに囚われていた隼も、これで少しは肩の荷が下りただろう。
事実、最近の隼はカラ元気ではない、心からの笑顔で日々を過ごしている。
まだまだ空色の魔女として戦う機会はあるが、それでもあいつが明るく自分らしく振る舞う姿を見ると、俺もそれを支えてやりたいと強く心に願うことができる。
ただ、願いはしても現実的には厳しい面もあるわけで――
「ヤ、ヤバい……。今月の家計、赤字じゃないか……」
――金銭的な問題はどうにもならない。
隼が仕事を休んだことで、我が家の収入は減った。それに対し、ショーちゃんを養子に迎え入れたことで支出は増えた。
工場内の防衛システムもなんだかんだで電気代を食うし、俺の保育士としての収入だけではとても補いきれない。
まさに我が家の家計は火の車。少し前の借金まみれだった隼を思い出してしまう。
「タケゾー、どしたのさ? そんな難しい顔をして?」
「武蔵さん、悩み事? ボク、相談に乗る」
「ああ、いや。大丈夫さ、二人とも。心配してくれてありがとう」
俺がスマホの家計簿アプリと睨み合って厳しい顔をしていたせいか、隼とショーちゃんにも心配されてしまう。
大凍亜連合の勢力が弱まったとはいえ、隼にはまだ空色の魔女としての役目が続いている。ここで『仕事に復帰してくれ』などと言い、負担をかけたくはない。
ショーちゃんに話をしてしまえば『ボクのせいだ』となって、これまた余計に心配をさせてしまう。
――家族を支えるというのは大変だ。
亡くなった親父の偉大さが、今になってよく分かる。
「……本当に何かあったらさ、迷わずアタシ達に相談しておくんなよ? アタシだって、タケゾーが悩む姿は見たくないしさ」
「ありがとな、隼。その気持ちだけでも十分だよ」
「そうだ! ちょいとタケゾー一人で出かけてきたらどうだい? 最近はずっと家族一緒が多かったけど、たまには一人の時間だって必要でしょ?」
「……そうだな。少しだけ、お言葉に甘えさせてもらおうか」
今日は俺も休日ということで家族そろって家にいたが、思えば俺も一人の時間なんて最近はなかった。
隼がそう言ってくれるならば、俺にも一人で息抜きの機会も必要か。
「俺は少し出かけてくる。夕飯までには帰るから安心してくれ」
「そんな気にしなくても大丈夫だって。夕飯はアタシがなんとかするから、タケゾーは外で食べてくるといいさ」
「いや……。隼が作るってのが、一番安心できない……」
嫁と息子に見送られながら、俺はスニーカーを履いて一人で我が家を出る。
どこか奇妙な感覚を覚えるが、決して悪い感覚ではない。
これが隼の守りたい日常なのだから、俺も俺で家計のことでどうにか打開策を見つけたいものだ。
■
「――そんなわけで、相談に伺いました。あっ、注文はお冷でお願いします」
「……お前、今日は金払う気ねえだろ?」
とはいえ、俺一人ではいい案など思いつかない。
そういう時は俺よりも大人であり、俺と同じ一家の父親としての先輩に話を聞くべきかと思い、とりあえずは玉杉さんの店へとやって来た。
事情を説明して俺がお冷を注文すると、目の前のカウンターにはコーラが置かれた。なお、伝票は置かれていない。
――この人、本当に『見た目に似合わず』を地で行く人だよな。
俺も悩み事がある時はよく訪ねているし、なんだかんだでいい相談役だ。
「玉杉さんって、こういう家計が苦しい時はどうしますか?」
「そんなもん、すぐカミさんに相談して終わりだ」
「いや……。そんな簡単に済む話じゃないですよね?」
ただ、今回の相談事はあまり玉杉さんにはよろしくなかったのか、グラスを磨く片手間に軽く返されてしまう。
この間の同居の話と違い、家計の話となると事情が違うということか。
玉杉さんも副業で金貸しをしてるし、あまり俺がこういう話を振っても心証がよくないのかも――
「馬鹿野郎が。赤字の家計簿を解決することは難しくても、その状況を打開するための一歩目は簡単なんだよ。家族のことは、家族に相談する以外に何があるってんだ?」
「玉杉さん……?」
――そう考えていると、玉杉さんは眉間にシワを寄せながらも、俺にも分かる言葉で理解を促してきた。
「武蔵はそもそも、隼ちゃんに無理させたくないから、家計を一人で担うようにしたんだろ? それなのに、今は武蔵の方が無理をしちまってる。これは隼ちゃんからしてみれば、本末転倒な話じゃねえか?」
「で、ですが、今俺が隼に相談しても、余計に心配にさせることしか――」
「そんなダセぇプライドは捨てろ。言いづれえことも家族に話せて、一緒に解決に向かえる人間がカッコいいんだ。……武蔵に自分の気持ちを正直に話した、隼ちゃんみたいによ」
「あっ……」
その言葉を聞かされて、俺も思わず我に返る。
確かに今俺がこうして家計で悩むのは、空色の魔女で在り続けることに悩む隼の姿と重なって見える。
ただ、あの時は隼が俺に本心を話してくれたおかげで、俺もその気持ちを尊重して仕事を休ませることができた。
今回の悩みは内容こそあの時の延長ではあるが、俺の方が隼に相談できていないという点で異なっている。
「まあ、俺も武蔵が悩む気持ちだって分からなくはねえ。一家の父親ってのは、時として一人で悩むことだってある。だがよ、家族の問題は家族で乗り越えてこそだ。俺に聞く話じゃねえよ」
「……そうですね。俺も隼達を心配させまいと、どこか意気地になってたみたいです。ありがとうございました」
「気にすんな。家庭以外での相談だったら、俺もまた相談に乗ってやる。人にはそいつにしかできねえ役目みたいなのがあるからな」
玉杉さんの話を聞くことで、俺も気持ちに踏ん切りがついた。
結果として財政難の打開策は見つからなかったが、それでも本当にそのことを相談するべき相手は理解できた。
俺もまだまだ若いってことか。本当に家族を支え続けてきた人間の言葉は、本当に身に染みる。
――帰ったら、まずは隼とも相談しよう。
俺は隼のことが心配だが、隼だって俺のことを心配して、一人で出かけることを提案してくれるぐらいだ。
そんな隼のことを信頼しているのならば、包み隠さずに打ち明けるべきだとようやく思えるようになった。
「……あっ、そうだ。相談ついでの別件として、少し調べて欲しいことがあるんですが……」
「別件? 内容によるな~。この前のニンベン師みたく、武蔵にハメられるのはもう勘弁だがよ~」
「今回はそういうのじゃないですよ。本当に調べて欲しいことがあるだけです」
思い立ったら即行動とばかりに席を立ったのだが、ここで俺の頭に一つ別の考えが浮かぶ。
大凍亜連合総帥が捕まったとはいえ、その裏には今でも謎に包まれたままの部分が多い。
隼の戦いはまだまだ続くのだから、その謎を少しでも解き明かしておきたい。
――大凍亜連合にニンベン師といった裏社会に詳しい玉杉さんなら、もしかすると何か糸口を掴んでくれるかもしれない。
淡い期待ではあるが、頼んでおいて損はないはずだ。
「『ラルカ』という名前のスナイパー、または殺し屋……。そいつのことを探って欲しいんです」
先日起こったワームホール騒動により、ついに隼はその総帥を撃破。これにより総帥は逮捕され、大凍亜連合はその勢力を大幅に縮小させることとなった。
まだ完全に壊滅したわけではなく、残党による事件は度々起こっている。ただ、それも隼が空色の魔女という街のヒーローの姿で駆けつければ、すぐに片付く話だ。
これまで多くのしがらみに囚われていた隼も、これで少しは肩の荷が下りただろう。
事実、最近の隼はカラ元気ではない、心からの笑顔で日々を過ごしている。
まだまだ空色の魔女として戦う機会はあるが、それでもあいつが明るく自分らしく振る舞う姿を見ると、俺もそれを支えてやりたいと強く心に願うことができる。
ただ、願いはしても現実的には厳しい面もあるわけで――
「ヤ、ヤバい……。今月の家計、赤字じゃないか……」
――金銭的な問題はどうにもならない。
隼が仕事を休んだことで、我が家の収入は減った。それに対し、ショーちゃんを養子に迎え入れたことで支出は増えた。
工場内の防衛システムもなんだかんだで電気代を食うし、俺の保育士としての収入だけではとても補いきれない。
まさに我が家の家計は火の車。少し前の借金まみれだった隼を思い出してしまう。
「タケゾー、どしたのさ? そんな難しい顔をして?」
「武蔵さん、悩み事? ボク、相談に乗る」
「ああ、いや。大丈夫さ、二人とも。心配してくれてありがとう」
俺がスマホの家計簿アプリと睨み合って厳しい顔をしていたせいか、隼とショーちゃんにも心配されてしまう。
大凍亜連合の勢力が弱まったとはいえ、隼にはまだ空色の魔女としての役目が続いている。ここで『仕事に復帰してくれ』などと言い、負担をかけたくはない。
ショーちゃんに話をしてしまえば『ボクのせいだ』となって、これまた余計に心配をさせてしまう。
――家族を支えるというのは大変だ。
亡くなった親父の偉大さが、今になってよく分かる。
「……本当に何かあったらさ、迷わずアタシ達に相談しておくんなよ? アタシだって、タケゾーが悩む姿は見たくないしさ」
「ありがとな、隼。その気持ちだけでも十分だよ」
「そうだ! ちょいとタケゾー一人で出かけてきたらどうだい? 最近はずっと家族一緒が多かったけど、たまには一人の時間だって必要でしょ?」
「……そうだな。少しだけ、お言葉に甘えさせてもらおうか」
今日は俺も休日ということで家族そろって家にいたが、思えば俺も一人の時間なんて最近はなかった。
隼がそう言ってくれるならば、俺にも一人で息抜きの機会も必要か。
「俺は少し出かけてくる。夕飯までには帰るから安心してくれ」
「そんな気にしなくても大丈夫だって。夕飯はアタシがなんとかするから、タケゾーは外で食べてくるといいさ」
「いや……。隼が作るってのが、一番安心できない……」
嫁と息子に見送られながら、俺はスニーカーを履いて一人で我が家を出る。
どこか奇妙な感覚を覚えるが、決して悪い感覚ではない。
これが隼の守りたい日常なのだから、俺も俺で家計のことでどうにか打開策を見つけたいものだ。
■
「――そんなわけで、相談に伺いました。あっ、注文はお冷でお願いします」
「……お前、今日は金払う気ねえだろ?」
とはいえ、俺一人ではいい案など思いつかない。
そういう時は俺よりも大人であり、俺と同じ一家の父親としての先輩に話を聞くべきかと思い、とりあえずは玉杉さんの店へとやって来た。
事情を説明して俺がお冷を注文すると、目の前のカウンターにはコーラが置かれた。なお、伝票は置かれていない。
――この人、本当に『見た目に似合わず』を地で行く人だよな。
俺も悩み事がある時はよく訪ねているし、なんだかんだでいい相談役だ。
「玉杉さんって、こういう家計が苦しい時はどうしますか?」
「そんなもん、すぐカミさんに相談して終わりだ」
「いや……。そんな簡単に済む話じゃないですよね?」
ただ、今回の相談事はあまり玉杉さんにはよろしくなかったのか、グラスを磨く片手間に軽く返されてしまう。
この間の同居の話と違い、家計の話となると事情が違うということか。
玉杉さんも副業で金貸しをしてるし、あまり俺がこういう話を振っても心証がよくないのかも――
「馬鹿野郎が。赤字の家計簿を解決することは難しくても、その状況を打開するための一歩目は簡単なんだよ。家族のことは、家族に相談する以外に何があるってんだ?」
「玉杉さん……?」
――そう考えていると、玉杉さんは眉間にシワを寄せながらも、俺にも分かる言葉で理解を促してきた。
「武蔵はそもそも、隼ちゃんに無理させたくないから、家計を一人で担うようにしたんだろ? それなのに、今は武蔵の方が無理をしちまってる。これは隼ちゃんからしてみれば、本末転倒な話じゃねえか?」
「で、ですが、今俺が隼に相談しても、余計に心配にさせることしか――」
「そんなダセぇプライドは捨てろ。言いづれえことも家族に話せて、一緒に解決に向かえる人間がカッコいいんだ。……武蔵に自分の気持ちを正直に話した、隼ちゃんみたいによ」
「あっ……」
その言葉を聞かされて、俺も思わず我に返る。
確かに今俺がこうして家計で悩むのは、空色の魔女で在り続けることに悩む隼の姿と重なって見える。
ただ、あの時は隼が俺に本心を話してくれたおかげで、俺もその気持ちを尊重して仕事を休ませることができた。
今回の悩みは内容こそあの時の延長ではあるが、俺の方が隼に相談できていないという点で異なっている。
「まあ、俺も武蔵が悩む気持ちだって分からなくはねえ。一家の父親ってのは、時として一人で悩むことだってある。だがよ、家族の問題は家族で乗り越えてこそだ。俺に聞く話じゃねえよ」
「……そうですね。俺も隼達を心配させまいと、どこか意気地になってたみたいです。ありがとうございました」
「気にすんな。家庭以外での相談だったら、俺もまた相談に乗ってやる。人にはそいつにしかできねえ役目みたいなのがあるからな」
玉杉さんの話を聞くことで、俺も気持ちに踏ん切りがついた。
結果として財政難の打開策は見つからなかったが、それでも本当にそのことを相談するべき相手は理解できた。
俺もまだまだ若いってことか。本当に家族を支え続けてきた人間の言葉は、本当に身に染みる。
――帰ったら、まずは隼とも相談しよう。
俺は隼のことが心配だが、隼だって俺のことを心配して、一人で出かけることを提案してくれるぐらいだ。
そんな隼のことを信頼しているのならば、包み隠さずに打ち明けるべきだとようやく思えるようになった。
「……あっ、そうだ。相談ついでの別件として、少し調べて欲しいことがあるんですが……」
「別件? 内容によるな~。この前のニンベン師みたく、武蔵にハメられるのはもう勘弁だがよ~」
「今回はそういうのじゃないですよ。本当に調べて欲しいことがあるだけです」
思い立ったら即行動とばかりに席を立ったのだが、ここで俺の頭に一つ別の考えが浮かぶ。
大凍亜連合総帥が捕まったとはいえ、その裏には今でも謎に包まれたままの部分が多い。
隼の戦いはまだまだ続くのだから、その謎を少しでも解き明かしておきたい。
――大凍亜連合にニンベン師といった裏社会に詳しい玉杉さんなら、もしかすると何か糸口を掴んでくれるかもしれない。
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