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大凍亜連合編・承

ep173 ダークヒーローの助っ人だ!

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「あ、あなたは確か……フェイクフォックス様……?」
「な、何者や!? どこから忍び込みおったんや!?」

 洗居さんを守るように現れたのは、狐面に黒のレインコートを身に着けた自称ダークヒーロー、フェイクフォックスだった。
 手に持った高周波ブレードにより、洗居さんに向けられていたライフルを全て切断してしまった。
 おかげで洗居さんは無傷。どこから現れたのかは知らないが、どうやら頼れる助っ人が来てくれたようだ。

「ありがとうございます、フェイクフォックス様。あなたがいなければ、私は今頃息を引きとっていたでしょう」
「そ、そんなこと、俺は絶対にさせねえからな! お、お前に降りかかる火の粉は、俺が振り払ってやる!」
「なんと頼りになるお言葉でしょうか。あなたもまた、人々を救うヒーローなのですね。尊敬いたします」
「そ、尊敬とか、俺にするんじゃねえよ! 俺はあくまでお前を救うだけのダークヒーローだ! か、勘違いするんじゃねえ!」

 ただ、フェイクフォックスの目的は実に単純だ。あくまで洗居さんのピンチを助けに来ただけで、別にアタシのようなヒーローとしてこの場に参じたわけではないと主張している。
 こいつって、本当に洗居さんが好きなだけなんだろうね。そのくせに正体を隠したシャイボーイだし。

 ――後、ダークヒーローの定義も多分ズレてる。
 どうせ名乗るのならば『洗居さん専属ナイト』とでも名乗りなよ。

「……まあ、今は下手なことに構ってる暇もねえか。おい、空色の魔女! お前も一人で突っ走るんじゃねえよ! それでこの眼鏡女が危険な目に遭ってたら、俺も見逃せねえだろが!」
「おやおや? アタシの心配までしてくれんのかい。だったら他人の心配ついでに、フェリアさんって人を探してくんないかね? 洗居さんの親友なんだけど、あの人が見つからないと洗居さんも安心して逃げ出せないのよ」
「あー……フェリア・スクリードのことか。あのシスターなら大丈夫だ。先に逃げてる。……多分」
「へ? どゆこと?」
「い、いいから、あのシスターには構わなくても大丈夫だ! ともかく、今はこの場を切り抜けることを考えろ!」

 物のついで感覚でフェリアさんの救出をお願いしようと思ったけど、どういうわけかフェイクフォックスはフェリアさんのことは大丈夫だと言い張ってくる。
 こうして大凍亜連合が包囲する状況で、先に逃げ出せるとは思えないんだけどね? でもまあ、それを言えばフェイクフォックスも同じ話か。
 会場にこいつらしい人はいなかったし、どこからか抜け道はあるのだろう。多分。

 ――まあ、アタシも今は目の前のことに集中しないとね。

「おんどれぇえ!! 次から次へと、わけの分からん連中がしゃしゃり出おってからにぃい!! もう構わへん! 装置の出力を上げろ! こんまま、実験を続行するんや!」
「し、しかし総帥! まだワームホールの安定化が――」
「構わん言うとるやろ! 出力上げてワームホールを巨大化させて、儂ん力で予定通りに反転させっぞ!」

 ステージの上では氷山地もヤケを起こしたように声を荒げ、次の実験フェーズに移ろうとしている。
 あいつの目的も気になるが、今はまず会場の人達を脱出させないとね。
 フェイクフォックスのおかげで敵も怯んでるし、仕掛けるなら今しかないか。

「ショーちゃん! 大凍亜連合の撃退をお願い! フェイクフォックスもここまで来たら、最後まで付き合ってもらうよ!」
「分かった! ボク、戦う!」
「本当は眼鏡女だけ守るつもりだったんだが……ここまで来ると乗り掛かった舟か。仕方ねえ。俺も力を貸してやるよ!」

 アタシはこの場において戦える二人にも声をかけ、一気に攻勢へと打って出る。
 フェイクフォックスが乱入したおかげで、敵の動きにも乱れが生じている。この隙を逃さない手はない。

「お、怖気づくな! 全員、空色の魔女を撃てぇえ!!」
「アタシを撃ち殺すつもりなら、鉄砲ライフルじゃなくてボウガンを用意しておくこったね!」

 大凍亜連合も構えたライフルでアタシを狙ってくるが、こちらもロッドで宙を舞い、あえて狙いやすいように一人になると、電磁フィールドで守りに入る。
 敵も情報共有ぐらいしておくべきだったね。アタシに銃弾は通用しないのにさ。

「電磁フィールド! アーンド……コイルガン!」
「グハッ!? じゅ、銃弾を跳ね返してきた!?」

 電磁フィールド銃弾をガードしてからの、手を使った人力コイルガンコンボ。
 そうやってアタシは大凍亜連合を注意を引き付けている間に、今度は地上でさらなる動きが見える。

「その銃、危ない! 壊しておく!」
「テメェらには悪いんだが、俺にも事情があるもんでな。おとなしくしててもらうぜ」
「こ、こいつら!? ライフルを!?」

 ショーちゃんとフェイクフォックスが一緒になって、大凍亜連合の持っているライフルを次々に切断していく。
 高周波ブレードを持った二人はなんとも頼もしい限りだ。ライフル相手でも容赦なく飛び込んでいく。

 そして、敵の戦力が減ってきたところで――



「今だ! みんな、空色の魔女達が作ってくれた道になだれ込め! 数はこっちの方が多いんだ!」
「そ、そうか! 銃さえなければ、怖気づく必要もない!」
「連中を殴り飛ばして、ここから脱出だぁ!」



 ――タケゾーが会場のみんなに声をかけ、出入口を塞いでいた大凍亜連合へと突撃を始めた。
 出入口のライフル持ちはもういないので、後は数の有利で押しかければ強引に突破できる。
 参加者の中には筋肉モリモリのネタメイドもいたが、こういう時はネタ抜きで頼りになる。

 ――それにしても、アタシが打ち合わせたわけでもないのに、まるで待ち望んでいたようなタイミングでタケゾーは動いてくれたね。
 こういうさり気ないところでも、アタシはタケゾーとの心の繋がりを感じてしまう。
 戦う力はなくても、タケゾーもまた立派なヒーローだ。

「隼! こっちはこのまま脱出できそうだ!」
「本当に助かったよ、タケゾー。後はアタシ達で殿しんがりを務めたいけど、どうにもそれだけじゃ済まないかもね……!」
「え……? それってどういうことだ……?」

 どうにか筋道も見えて来て、タケゾーもアタシに声をかけてくれる。
 ショーちゃんとフェイクフォックスによる大凍亜連合の討伐も進んでいるし、後は全員でここから脱出すればオッケーだろう。

 ――そう思っていたのだが、どうやらそう簡単にことは終わってくれないようだ。



「あ、あれって……ワームホールだったか? さ、さっきよりも巨大化してるぞ……?」
「氷山地の姿も見えないし、まさかあの中に……!?」



 会場に出現したワームホールは先程よりもその規模を拡大し、まるで辺りを飲み込むように膨れ上がっている。
 もうステージを完全に飲み込んでおり、あれを起動させた張本人である氷山地の姿も見えない。
 おそらく、ワームホールの中にいる。何かしらの目的があって、ワームホールの中でさらなる行動に移る気だ。

「……タケゾー。アタシはあのワームホールの中に突入するよ。そして氷山地をぶっ飛ばし、全部終わらせて帰ってくる」
「だ、大丈夫なのか!? ワームホールは隼でも理解できない、未知の力なんだろ!?」
「確かに未知の力だけど、放っておいていい理由にはならないさ。氷山地もあの中にいるのなら、ワームホールを作り出してる装置もきっとあの中にあるはずだ。……安心して。アタシは『帰る』って約束だけは必ず守るさ」

 周囲ではショーちゃんとフェイクフォックスが戦い、会場の人々が脱出のために大凍亜連合と争う喧騒が響いている。
 だけども、アタシには別でやることができてしまった。あのワームホールと氷山地。どちらも対処しないことには、この場から逃げ出すだけで全てが終わったことにはならない。

 ――アタシは笑顔の中に決心を込めて、タケゾーにその想いを語った。

「……分かった。俺は隼を信じて、その帰りを待ってる。……絶対に帰って来いよ!」
「ああ、分かってるさ。全部終わった暁には、ベストメイディストショー決勝戦の再開をしたいもんだ」
「それが隼の望みだってんなら、俺もメイド服なんていくらでも着てやるさ」
「お? 言ったね? タケゾーのメイド服を見るためにも、アタシは意地でも帰って来るさ! そいじゃ、また後で!」

 タケゾーとも約束し、決意を固めてアタシはデバイスロッドに腰かけ直す。
 目指すは会場の中央に出現したワームホール。外から見ているだけでも、その空間を歪めるように形成された時空の穴。
 恐ろしくはあるけれど、アタシもあそこに飛び込むしかない。



「……よし! 待ってなよ……氷山地ぃい!!」



 迷いも恐怖も打ち消すように声を上げ、アタシはワームホールへと突っ込んでいった。
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