空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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新しい家族編

ep150 タケゾー「新たな家族のために手を打っておいた」

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「言われた通りに玉杉さんの店まで来たけど、酒でも飲みたい気分なの? でもさ、ショーちゃんもいるよ?」
「ボク、ミルクでいい。ミルク、飲みたい」

 俺は隼とショーちゃんを連れて、玉杉さんが経営しているバーまでやって来た。
 もう陽も暮れ始めているし、酒を飲むのにもいい時間帯ではある。だが、今回の目的はそこではない。

「玉杉さん、お疲れ様です」
「お~、武蔵か。連絡通り、来てくれたんだな。肝心の子供もいるみたいだし、丁度都合がいいな」

 俺達が店に入ると、店長の玉杉さんがカウンター越しに出迎えてくれる。
 その眼前に置かれているのは一冊の封筒。玉杉さんはそれを俺達の方に差し出してくれる。

「ねーねー、タケゾー? その封筒が目的のものなの? 何が入ってるの?」
「おやつ? ボク、おやつ食べたい」
「ショーちゃん、おやつはこんなA4封筒には入れないよ。まあ、もっと重要なものが入ってる」

 隼とショーちゃんは事情を知らないので、不思議そうに揃って首を傾げている。
 俺はその封筒を手に取って中身を確認すると、そこには目的の品が確かに入っていた。



「これはショーちゃんの戸籍関係の書類だ。玉杉さんに頼んで用意してもらった」
「ええぇ!? せ、正規のものじゃないよね!? 偽装した戸籍だよね!? そんなものを用意してたの!?」



 俺の話を聞き、思わず目を丸くして驚く隼。
 俺も顔には出さないが、内心では結構驚いている。まさか、本当にここまでしっかり偽造した戸籍が出来上がるとは思わなかった。
 玉杉さんが用意してくれたこの書類があれば、下手に詮索されない限り、ショーちゃんの詳細な身元までバレることはない。
 普段の生活をするためならば、人造人間であることなど知られるはずがないレベルだ。

「名前も『佐々吹 正司』にして、しっかり俺と隼の養子になったことにまでしてくれたんですか……」
「まあな。それが武蔵の依頼だったろ? それにしても、武蔵はよく俺がニンベン師の知り合いがいることを知ってたもんだな~。こっちも内心はヒヤヒヤしてたぞ」

 ニンベン師――要するに偽造屋。
 俺が事前に玉杉さんに依頼していたのは、ニンベン師と繋いでショーちゃんの戸籍を偽造してもらうことだった。
 正規の手段で戸籍を作るわけにはいかない。そうなってくると、玉杉さんのように裏社会に精通した人の力が必要になってくる。

 ――ただ、俺も別に確信を持ってニンベン師のことを玉杉さんに依頼したわけじゃない。



「玉杉さん、今更ながらすみません。ニンベン師の話は俺がハッタリで持ち出しました」
「ハァ~!? お、お前、俺が大凍亜連合とも多少は関わってるから、その伝手でニンベン師に依頼したんじゃねえのか~!?」
「それも含めてハッタリです。結果として、本当にニンベン師の知り合いがいて助かりました」



 生憎と、俺も玉杉さんが本当にニンベン師と繋がっている確証はなかった。
 だから俺は依頼した時に『ニンベン師に戸籍の偽造をして欲しい』と要望を出しただけ。そのタイミングで玉杉さんが『ニンベン師の知り合いなんていない』と断っていたなら、その時点でこの手をはもう使えなくなっていた。
 だが、玉杉さんは『分かった。任せておきな』と、あっさり依頼を了承してしまったのだ。
 完全に俺のハッタリが、そのまま通ってしまった形である。
 なんだかかなりあくどい手を使ってしまったが、これぐらいしかショーちゃんの戸籍を用意する方法が思いつかなかった。

 ――玉杉さんには悪いことをしたとは思っている。
 本当にニンベン師と繋がっているこの人の人脈も大概だけど。

「ハァ~……。まさか、武蔵ごときに一杯食わされるとはな~……。頼むからさ、警察に突き出すのだけは勘弁してくれよな?」
「しませんって、そんな無粋なこと。そもそも、依頼したのは俺の方なんですから」
「そいつは助かる。……しっかし、警察官の息子で真面目君だった武蔵が、ニンベン師まで使うとはな~……」
「確かに罪の意識はありますけど、俺にはそれ以上に成すべきことがあったってだけの話です」

 玉杉さんはそんな俺に対しても特に怒ることなく、むしろ俺の立場や性格のことを心配してくれる。
 今回俺がやったことは明確に犯罪だ。やっていいことではない。
 それでも、どうしても俺には成さないといけなかった。

 ――隼とショーちゃんのためならば、俺だって泥を被る覚悟はある。たとえ警察官だった親父に化けて出られても、俺は自らの行いを貫き通す。
 決して格好のいい覚悟ではない。決して胸を張れる話じゃない。
 それでもこうしないと、ショーちゃんのような人造人間が安心して暮らすことはできなかった。

「ねえ……タケゾー? 本当にこんなことしても良かったの?」
「まあ、良くはないけどな。だけど、戦えない俺が愛する家族にできることなんて、これぐらいのことしかない。……願わくば、俺のことを蔑まないでくれないかな?」
「……まったく、タケゾーは真面目君である以上にお人好しなもんだ。アタシがあんたを蔑むわけないだろ? 覚悟を決めて動いてくれた旦那様に対して冷たい感情を抱くほど、アタシも愚かな嫁じゃないさ。……ありがとね、タケゾー」

 隼もそんな俺の行いについて咎めることなく、笑顔で礼を述べてくれた。その笑顔と言葉で、俺の心もだいぶ軽くなる。
 隼だって、空色の魔女としての責務に追われているんだ。俺も迷ってばかりではいられない。

「武蔵さん、ありがとう。ボク、これできちんと二人の家族になれた」
「ああ、そうだな。こうやって形式上も家族にしておいた方が、なんだかんだで世間体もあるからな」

 ショーちゃん本人も喜びながら戸籍書類を手に取り、俺に見せびらかしながら喜んでいる。
 人造人間とはいえ、この子は一人の人間だ。しかもその魂は俺や隼とも縁の深い佐々吹のもの。
 そんなショーちゃんがこれからも社会で一人の人間として認められることは、俺なりのケジメにもなる。

 ――隼一人だけには背負わせない。
 俺も一緒に、この業を背負ってやりたい。



「……あれ? 今度はおふくろからメッセージか?」



 そうこうここでの目的を果たしていると、俺のスマホに新たな通知が入る。
 どうやら、おふくろからメッセージが届いたらしい。
 そういえば、おふくろにもショーちゃんのことをしっかり説明しないいけない。話が話だけに、その辺りは隼ともしっかり話を合わせておこう。

 それで、肝心のおふくろからの用件なのだが――



「隼……。ヤバいことになったぞ」
「え!? な、何? お義母さんが倒れたとか……!?」



 ――届いたメッセージを読んだ途端、俺は思わずその身に寒気を感じてしまった。
 まさに悪寒。おふくろオカン絡みの悪寒。
 隼が心配するような内容ではないのだが、これは一大事だ。



「おふくろ……今から俺達が住んでる工場に来るって……」
「え? へ? ええええぇ!?」
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