空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep142 狂戦たる爬虫人類:バーサクリザードⅡ

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「そ、そいつは……インサイドブレードやないかい!? 閉じ込めとったのに、逃げ出しおったんか!?」

 牙島の尻尾を切断し、アタシのことを救ってくれたのはショーちゃんの魂を宿した居合君だった。
 アタシも牙島も視認できないほどのスピードで放たれた、高周波ブレードによる居合。その一閃により、アタシを牙島の尻尾締め付けから解放してくれた。

「お姉さん! 隼さん! 無事!? しっかりして!」
「た、助かった……。ありがとう。マジでヤバかったからね……。でも、どうして居合君が――」
【隼! 遅くなって悪かった! こっちも居合君を助け出せたぞ!】

 アタシもこの窮地のせいで錯乱していたが、タケゾーもウィッチキャットを操縦してこちらに近づいてきて説明してくれる。
 どうやら頼んでいた居合君の救出を無事に成し遂げ、アタシが託した居合君の刀も渡してくれたようだ。
 そして即座にアタシのもとへ駆けつけ、その窮地を見るや否や、迷いなく放たれた居合の一閃。
 最初に会った時はアタシまで斬られそうになったけど、今回は非常に頼もしい。

 ――まるで、タケゾーとショーちゃんが一緒にアタシを助けに来てくれたようだ。

「キ……キーハハハ! どうにも、もうワイの手ぇではインサイドブレードをどないもこないもできひんみたいやなぁ! ええでぇ! そっちに一人増えたとて、ワイも負ける気なんざあらへん! もっと……もっとこのワイを楽しませてくれやぁああ!!」

 尻尾を切られはした牙島だが、その程度で終わるはずがない。その身体構造もトカゲに近いのか、根本的なダメージにはなっていない。
 むしろさらに気分を高揚させ、両手も地面に着く構えをとってくる。

 ――その姿、さながら戦いに飢えたトカゲといったところか。
 全員合流できたとはいえ、こいつを倒さないことには逃げることも叶わない。

「……居合君。悪いんだけど、アタシと一緒に戦ってくんない?」
「うん、戦う! 隼さんと一緒に、あのトカゲの人、倒す!」

 もうこちらも悠長なことは言ってられない。アタシの体にもまだ牙島の毒が残ってるし、長期戦なんてしていられない。
 だから、ここはアタシも頼らせてもらう。ショーちゃんの魂と剣技を受け継ぎ、超人的な肉体を持った居合君の力も必要だ。

「タ、タケゾー。そっちは逃げ道を探しておいて。この爬虫人類をぶっ飛ばしたら、すぐに脱出するよ……!」
【そ、それは分かったんだが、なんだか顔色が悪くないか……?】
「ニシシ~、ちょーっと……ね。でも、今はアタシを信じて欲しい。こいつ相手に、余計なことも考えらんないのよ……!」
【わ、分かった! 絶対に無事でいてくれよ!】

 タケゾーが操縦するウィッチキャットには逃げ道の確保を頼んでおく。
 ここは敵陣のど真ん中だ。まだ他の構成員が襲ってくる可能性だってある。
 仮に牙島を倒した後、そいつらに襲われたらひとたまりもない。正直、毒の回ったこの体がいつまでもってくれるかも分からない。

 ――ただ、それでも最善の一手は打てたはずだ。
 アタシの言葉通りにウィッチキャットは逃げ道を探しに行き、居合君は隣で腰を落として構えてくれる。

「今度はさっきよりも速いでぇ! 見切れるもんなら……見切ってみろやぁあ!!」

 牙島の方もそう長くは待ってくれず、こちらがそれぞれの役割を理解したと同時に再度襲い掛かってきた。
 両手も使った四足歩行。それによる、さらなるスピードアップ。
 もうその姿は完全にトカゲだ。戦うことに悶え狂う人の形をした怪物だ。

 ――『バーサクリザード』のコードネームが本当に相応しい。

「居合君! あいつに斬りかかって! 今回は手加減なしで大丈夫さ!」
「分かった! かなり速い相手だけど、頑張る!」

 こちらとて、その動きに驚いてばかりもいられない。
 まずは居合君に牙島の相手をお願いし、アタシの方はさっき落とした酒瓶を拾い上げる。
 居合君も神速の居合術を使い、牙島とのスピード勝負に対抗してくれる。

「ンク! ンク! ――プハァ! ど、どうにか出力は上げられそうだけど、完全にデトックスは無理か……!」

 そして中身を一気に飲み干し、それを燃料に生体コイルと強化細胞をフル稼働させる。
 残念ながら毒自体は抜けきらない。それでも、パワーも神経も研ぎ澄まされたことで、牙島に立ち向かう活路はできてきた。

 牙島を倒すには生半可な一撃じゃダメだ。スタンロッドのフルスイングでも、あの強固な鱗で防がれてしまう。
 ならば、もっと強力な威力を持ち、なおかつ鱗の隙間からでも体内にダメージを与えられる技が必要だ。

 ――エネルギー自体は十分にある。
 一か八かでも、あの技を使うしかない。

「居合君! そのままそいつの相手をしてて! アタシもいっちょ、大技の準備をするよ!」
「分かった! ボク、隼さんのこと、信じる!」

 居合君にも声をかけ、アタシは牙島を倒せる大技の準備をする。
 腰のあたりで両手を合わせ、そこに電気の球体を作り出して放つ技――電撃魔術玉。
 いくら牙島に電気が効かないといっても、それは表面の鱗だけで見た場合の話。電撃魔術玉ならば、その鱗の隙間を掻い潜って体内にまで通すことができる。
 たとえ牙島が規格外の怪物でも、生物の域を出ることはない。内臓を直接電気で焼かれてしまえば、流石にひとたまりもないはずだ。

 ――今はこれに賭けるしかない。
 最大レベルの電撃魔術玉を溜めながら、アタシは居合君が隙を作ってくれるタイミングを伺う。



 ガシィッ!


「んくぅ!?」
「動きも居合も大したもんやな、インサイドブレード。せやけど、ワイにはまだ及ばんってところかぁ……!」



 だが、事はそう簡単に及んではくれない。牙島の方が居合君よりも一枚上手だった。
 居合君の斬撃を何度も躱し、隙を見て逆に居合君の体を左腕で拘束してしまう。
 アタシとしたことが、とんだ誤算をしてしまった。居合君を助けるために来たはずなのに、逆に窮地に立たせてしまう。

「い、居合君……!」
「お? その技はいつぞやにも見せてもろた、電気玉でガツンと行く奴かいな? ワイの隙を伺ってぶち込むつもりやったらしいが、こないしたらそれもできひんやろぉ?」

 さらに牙島は捕らえた居合君を盾にして、アタシが電撃魔術玉を放つのを拒んでくる。
 色々と本当に甘かった。牙島はこれまで、アタシとは比べ物にならない死線を潜り抜けてきた怪物だ。
 どれだけ相手が増えようとも、それに対応できる戦い方を熟知している。

「じゅ、隼さん……! ボクのこと、構わないから……撃って……!」
「そんなのできっこないよ!? くうぅ……!?」

 まさに万事休すといった状況。電撃魔術玉で居合君を巻き込むわけにはいかない。
 アタシの方も毒の回った体で無理矢理大技の準備をしたせいか、どんどんと限界に近付いている。
 足腰に力も入らなくなり、視界もぼやけ始める。
 このまま牙島によって、アタシも居合君も始末されるしかないのか――



「対象……! バーサクリザード……! 捕縛……!」
「な、なんや!? お、お前はまさか……!?」



 ――そんなぼやけた視界に、一つの人影が飛び込んでくる。
 それは牙島の背後から飛び掛かり、その身を庇い締めにしてくれるが――



「ショ、ショーちゃん!?」
「くそがぁ! 死にぞこないのケースコーピオンがぁあ!!」



 ――それはショーちゃんの肉体であるケースコーピオンだった。
 完全に機能を停止したと思われたが、まるで最後の力を振り絞るように牙島へと組みかかっている。

「インサイドブレード……! 脱出……!」
「あ、ありがとう!」

 それで牙島は完全に隙だらけとなり、捕まっていた居合君も抜け出すことができた。
 分断された肉体と精神。元々は二つで一つだった存在。
 そんな二人が協力するかのように、アタシの活路を開いてくれる。

 ――これで居合君が電撃魔術玉の巻き添えを食らうことはない。
 牙島もケースコーピオンに背後から庇い締めにされたせいで、完全に動きが止まった。

「空鳥 隼……! バーサクリザード……! 排除希望……!」
「そ、そんなことしたら、あんたが……!?」

 ただ、このままでは牙島の動きを止めるために残ったケースコーピオンにまで攻撃が及んでしまう。
 いくらもうただの抜け殻といっても、こうまでアタシの力になってくれた人を巻き添えにはできない。



「隼さん! ボクからもお願い! トドメ、刺して!」
「い、居合君……! く……クッソォォオオ!!」



 だが、その迷いを断ち切るように居合君がアタシに声をかけてくれる。
 居合君にとってもケースコーピオンは本来の肉体だ。それでも、牙島を倒すためにアタシに電撃魔術玉の発射を優先するように願う。
 ショーちゃん自身の魂にそう言われた以上、アタシも迷ってなどいられない。
 声を荒げ、迷いを断ち切り、構えた両手を前方へと突き出す。



 ――アタシは涙を流しながら、電撃魔術玉を牙島とケースコーピオンショーちゃんへと発射した。
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