空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep134 偵察ロボットを手掛かりにしよう!

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「そ、そうだ! 居合君、寝てる時からずっとウィッチキャットを抱きかかえたままだった!」

 タケゾーの言葉から、アタシも誘拐された居合君の足取りを追う方法に気がつく。
 もしかすると、居合君は誘拐されている今でも、黒猫型偵察ロボットのウィッチキャットを抱きかかえたままかもしれない。
 そうだとすれば、こちらからウィッチキャットを遠隔操作して干渉することもできる。

「タケゾー! ウィッチキャットの操縦準備をして!」
「ああ、分かった! だが、今はまだ完全に起動させるな。下手に動くと怪しまれる。視覚と聴覚だけ起動させて、様子を伺うぞ」

 そうと決まればそこからの動きは早い。工場の電源を復旧させ、各々で準備を始める。
 アタシはパソコンを立ち上げ、ウィッチキャットとの連携アプリを起動。タケゾーもVRゴーグルとコントローラーを装備し、いつでも動けるように準備をしてくれる。

 だが、まずは周囲の状況確認からだ。
 タケゾーに言われた通り、ウィッチキャットの視覚と聴覚だけをアプリで起動させてみる――



「ほれ、幹部はん。ちーっと時間はかかったが、インサイドブレードを連れ戻したったで」
「でかしたぞ、牙島。まったく。アジトにあった高周波ブレードまで盗み出すし、変な黒猫のぬいぐるみまで抱えて、今までどこに逃げてたんだか……」
「放して! ボク、お姉さんとお兄さんのところ、帰りたい!」

「い、居合君!」



 ――そして画面に映るのは、またしても大凍亜連合幹部であるチェーンジャラジャラ男の姿。
 同時に聞こえてくるのは、牙島の淡々とした声と居合君の怯えた声。
 その状況を見聞きする限り、どうやら居合君は牙島に掴まれながら、ジャラジャラ男に差し出されているようだ。
 聞こえるはずがないのに、アタシは思わず画面越しに声をかけてしまう。

 ――居合君が怯えていることを知って、どうにも動揺を抑えられない。

「ところで、インサイドブレードはどこに隠れてたんだ?」
「ワイの味方のラルカって奴が協力してくれた。……これ以上のことは何も言えへん」
「チィ! ただの用心棒のくせに、幹部の俺に口ごたえしやがって……! まあいい。とにかく、そいつもケースコーピオンと同じ部屋に押し込んどけ」

 こちらからは何もできないもどかしさなど関係なく、居合君はそのまま牙島に連れられて別の場所へと送られていく。
 どうやら、居合君を攫ったのはラルカという人物で間違いない。そのラルカが牙島に居合君の身柄を渡したということか。
 居合君がウィッチキャットは抱きかかえたままなので、こちらからも様子は伺える。
 そのまま牙島により、居合君はある部屋に放り投げられるのだが――



「ほれ。お前らは元々二人で一人の人間なんやさかい、中で仲ようしとけや」
「あっ……サソリ人間さん……」
「……ンギィ」



 ――そこにいたのはアタシも気になっていたもう一人のヴィラン、ケースコーピオンの姿だ。
 牙島はケースコーピオンと居合君を一緒の部屋に押し込めると、そのまま部屋から出て行ってしまった。
 部屋の中にいるのはケースコーピオンと居合君のみ。居合君はウィッチキャットを抱きかかえているだけで、武器も何も持っていない。
 こんなことなら、預かっていた刀を渡しておけばよかった。
 そうすれば、ケースコーピオンにも対抗できたのに――



「ねえ、サソリ人間さん。あなた、ボクのこと知ってる?」
「インサイドブレード……。記憶同期開始……」



 ――そうして居合君の身の安全を願っていたが、室内での状況はそんなアタシの想像とは違う方向に向かっている。
 居合君はケースコーピオンに自ら近づき、質問を投げかけるように語り掛け始める。
 そういえば、以前にこの二人が出会った時も、居合君はケースコーピオンのことを気にかけていたっけ。
 ケースコーピオンもあの時は居合君に反応し、まるで自らの意思に従うように作戦の手を止めていた。

 ――いや、そもそもの話、どうしてケースコーピオンはあの時に居合君の居場所を知ることができたのだろうか?
 この二人、どうにも完全な別個体とは考えられない。
 それは牙島も述べていた『元々は二人で一人』という言葉のように、本当にこの二人が何かしらの要因でリンクしているようなことを匂わせてくるが――



「あうぅ!? 頭……痛い……!」

「居合君!? どうしたの!? 苦しいの!?」



 ――こちらが画面越しに考察していると、ケースコーピオンに近づいていた居合君が頭を押さえて突如苦しみ始める。
 別にケースコーピオンが危害を加えたわけではない。
 まるで、脳内に流れ込む情報に抗うように居合君は苦しんでいる。

「隼! ウィッチキャットからこっちの会話を通すことはできるか!?」
「そ、それならできるけど」
「今は牙島といった大凍亜連合の連中もいない! ケースコーピオンはいるが、あの様子だとあいつはただの敵とは思えない! 会話を繋いで、居合君と話せるようにしてくれ!」

 タケゾーもその様子を確認し、即座に次の行動を考えてくれる。
 確かにアタシもこれは放っておけない。居合君が苦しんでる姿を見て、何もせずにいられるはずがない。

 アタシはすぐにアプリを操作し、居合君と会話できるようにウィッチキャットを設定する。

「居合君! アタシ達の言葉が聞こえる!?」
「ウィッチキャットだ! 君が抱えてる黒猫から話ができるようにした!」

「……え? お姉さんにお兄さん? 黒猫さんから?」

 そしてアタシとタケゾーがそれぞれ呼びかけると、居合君もその呼び声に反応してくれた。
 一度抱きかかえていたウィッチキャットから手を放し、その目を見つめ合うように会話に応じてくれる。

「そっちは大丈夫!? なんだか、頭を押さえてたみたいだけど!?」
「うん、大丈夫。それよりボク、少しだけ自分のことを思い出した」
「思い出した……!? そ、それって本当なの!?」
「うん、本当。まだ全部じゃないけど、何かを思い出してきてる」

 アタシが心配の声をかけると、居合君はさっきまで苦しんでいた様子から一転し、どこか真剣な眼差しでウィッチキャット越しに話をしてくれる。
 それにしても『思い出した』ってのは本当のことなの? この子って、ショーちゃんをベースにした人工知能じゃなかったの?
 人工知能なのに過去の記憶を思い出したって、どういうことなんだろう? 何か制作者でも意図しない、プログラムのゴーストとか?

 ――いや、今はそんな考察よりもやることがある。

「ねえ。居合君が今捕まってる場所って、この間の大凍亜連合のビルであってる?」
「うん、あの場所。ボク、ここから脱出したい。お姉さんとお兄さんに、もう一度会いたい」
「それはアタシ達だって同じさ。すぐそっちに行くから、ちょっとだけ待っててね」
「分かった、待ってる。後、ボクの刀も持ってきて。脱出するのに使う」
「ああ、そいつも承知したよ」

 何よりも優先すべきは、居合君を大凍亜連合の手中から助け出すこと。ウィッチキャットに搭載したGPSで、おおよその場所も判明している。
 居合君自身も脱出を優先する考えを述べ、アタシに高周波居合ブレードを持ってくるように頼んでくる。
 あれの威力は強大すぎるが、敵も同じように強大だ。牙島がいるのならば、一人でも戦力は多い方がいい。

 ――どうやら今度こそ、アタシも牙島とは事を構えることになりそうだ。

「俺はウィッチキャットを使って、ビル内のダクトから隼が忍び込めるルートを調べておく」
「ンク! ンク! 頼んだよ、タケゾー。こっちもいつでも通話はできるようにしとくよ」

 居合君を救出するためにも、アタシも早速空色の魔女へと変身して燃料を喉に通す。
 さらには小型のイヤホンマイクも装着し、これでタケゾーとの連絡準備も万全だ。

「アタシがそっちに行くまで、少しだけ辛抱しててね! 絶対に助け出してあげるから!」

 アタシは画面越しの居合君に少し声をかけると、すぐさま振り返って工場の外へと向かう。
 どんな理由が裏にあったとしても、居合君を大凍亜連合の好きにはさせない。
 そんなアタシの決意を高めるように、背後のパソコンからわずかに願うような居合君の声が零れてきた――



「お願い、助けて。空鳥 隼さん、赤原 武蔵さん……」
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