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大凍亜連合編・起
ep121 幼い子供を連れて帰った!
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「タケゾー、ただいまー」
「お帰り、隼。今日もパトロールお疲れ様――って、後ろの子供は誰だ?」
幼いパン泥棒剣士を連れて、アタシは無事に新婚の我が家へと帰宅。旦那のタケゾーも出迎えてくれる。
そして当然と言うべきか、タケゾーも気にするこの子供。今はアタシの後ろに隠れ、コソコソとタケゾーの様子を伺っている。
「……お前、まさかその子供を食べる気じゃないよな?」
「いや!? 流石にそんなことはしないよ!? 確かにアタシは魔女だけどさ!?」
「まあ、今のは冗談だ。だけど、そんな子供を連れて帰って来るなんて、それはそれでマズくないか?」
「うーん、まあ……ちょっと事情があってね」
何やらタケゾーに童話の魔女のような疑惑をかけられるが、とりあえずは工場の中へと入っていく。
肝心のパン泥棒剣士についてなのだが、今でもタケゾーのことは警戒しているのか、アタシの背中にべったりくっついて離れない。
これは困った。このままだと変身を解除できない。
「ごめん、タケゾー。ちょっとこの子を引きはがしてくんない? 元の姿に戻れない」
「それは分かったが、この子の前で空色の魔女の正体をさらしてもいいのか?」
「あっ、そうだった。でもまあ、いっか。この子もこの子で、色々と正体は不明だし」
「もうそのセリフだけでも、また厄介ごとに首を突っ込んだことを理解したよ。まあ、俺も慣れてきたけどさ」
タケゾーの返事で気づいたが、このままだとこの子供にアタシの正体を気付かれることになってしまう。
とはいえ、そこはもう仕方のない話か。それにアタシの正体をバラした方が、この子も腹を割って話しやすいだろう。
――こっちとしても、この子の正体の方が気になる。
「じゃあ君……えーっと、名前は?」
「……インサイドブレード」
「へ? な、何て?」
「インサイドブレード。ボクの名前」
「か、変わった名前だな……」
それを調べることも大事だが、まずはアタシの背中に抱き着いて離れないこの子をどうにかするのが先決か。
そのためにもタケゾーも腰を落とし、目線を合わせてこの子にまずは名前を尋ねてみる。
そういえば、アタシも名前を聞いてなかったや。まだタケゾーを警戒しながらも名乗ってくれるけど、随分と変わった名前だね。
――てか『インサイドブレード』って、名前には聞こえないよね。
どちらかというと、デザイアガルダやケースコーピオン、アタシも持ってるサイエンスウィッチみたいなコードネームに聞こえてくけど――
「……もしかして、この子も大凍亜連合の関係者?」
「そうなのか? 見た目はただの子供だけど?」
「見た目に関してはね。ただこの子、居合でビルを切断してた」
「……え? 居合でビルを切断? 嘘だろ? そんなこと、佐々吹でもできないだろ?」
「うん。いくらショーちゃんでも無理だね」
――そう考えてみると、この子もケースコーピオンと同じように、大凍亜連合が作り出したヴィランに思えてくる。
能力にしたって、完全に人間の範疇を超えてるもん。むしろ、その類と見た方が納得できる。やった悪行はパン泥棒だけど。
「佐々吹……? ショーちゃん……? 何か気になる」
「ん? 何か覚えてることでもあるのかい?」
そんなアタシとタケゾーの話が耳に入ったのか、この子供は反応を示してくる。
何やら頭を抱え込み、軽く考え込んでいるようだ。
様子を見る限り、ショーちゃんのことを知ってるってこと? そういえば、この子の剣技もショーちゃんと同じものなんだよね。
――色々とアタシとも結びつきそうで、気になって仕方がない。
「ねえ、何でもいいから、知ってることを教えてくれない――」
「お腹空いた。ご飯食べたい」
「あー……食欲が先ってことね。分かったよ。タケゾー、悪いんだけど、この子の分の夕食も用意してくれない?」
「それぐらいなら問題ないさ。隼も元の姿に戻ってくつろいでてくれ」
先の話を聞き出そうにも、インサイドブレードと呼ばれるこの子の脳内は本当にマイペースな子供だ。
まあ、いきなり色々聞こうとしても可哀そうだよね。この子自身も記憶がないみたいだし、まずは心にゆとりを持ってもらうのが一番か。
この子もようやく離れてくれたし、アタシも変身を解除して、ひとまずはビールでも開けようかね。
「……? お姉さん、その姿は?」
「ああ、これかい? こっちがアタシの本来の姿さ。さっきあんたと戦った時は、専用の戦闘スタイルってとこかねぇ」
「……むー? ボク、お姉さんと初めて会ったっけ?」
「え? そのはずだけど?」
ただ、それでもこの子の一挙手一投足は気になってしまう。
アタシが空色の魔女への変身をやめると、眉をひそめながらこちらを眺めてくる。
それにしても、まさかこの子はアタシと過去に会ったことがあるとでもいうのだろうか?
可能性があるとすれば、ショーちゃんの兄弟か、はたまた親戚か。
それならば、この子がショーちゃんと同じ居合術を身に着けている理由にも納得できる。
ただその場合、アタシも考えていた仮説を当てはめると、この子は『大凍亜連合に改造されて記憶を失った』という可能性も出てくる。
もしそうだとしたら、アタシは大凍亜連合を許せない。それはヒーローたる空色の魔女としてではなく、アタシという一人の人間としてだ。
――こんな幼い子供を、しかもアタシを愛してくれた男の身内を不幸に陥れるなんて、お天道様が許したって許さない。
そもそも、まだこんなに幼い少年を利用して――
「……あれ? そういえば、君って男の子なの? 女の子なの?」
――などと少し憤慨していると、アタシは一つ重大なことをこの子に聞いていなかった。
なんとなくショーちゃんとイメージが被ったせいで少年っぽいと思ってたけど、この年代なら女の子でもあり得る容姿だ。
タケゾーにしてもショーちゃんにしてもそうだけど、アタシの周りって見た目の性別が分かりづらい人が多いのよね。胸だけで判断できない。
少し前に会った洗居さんの友人フェリアさんみたいに、胸がなくてもハッキリ女性と分かる人ならいいのだが、声や言葉遣いでも判断に迷う。
インサイドブレードなんて名前よりも、アタシとしてはそっちの方が気になるんだけど、果たして真相は――
「オトコ、オンナ? それって、何?」
――まさかの闇の中だった。
「お帰り、隼。今日もパトロールお疲れ様――って、後ろの子供は誰だ?」
幼いパン泥棒剣士を連れて、アタシは無事に新婚の我が家へと帰宅。旦那のタケゾーも出迎えてくれる。
そして当然と言うべきか、タケゾーも気にするこの子供。今はアタシの後ろに隠れ、コソコソとタケゾーの様子を伺っている。
「……お前、まさかその子供を食べる気じゃないよな?」
「いや!? 流石にそんなことはしないよ!? 確かにアタシは魔女だけどさ!?」
「まあ、今のは冗談だ。だけど、そんな子供を連れて帰って来るなんて、それはそれでマズくないか?」
「うーん、まあ……ちょっと事情があってね」
何やらタケゾーに童話の魔女のような疑惑をかけられるが、とりあえずは工場の中へと入っていく。
肝心のパン泥棒剣士についてなのだが、今でもタケゾーのことは警戒しているのか、アタシの背中にべったりくっついて離れない。
これは困った。このままだと変身を解除できない。
「ごめん、タケゾー。ちょっとこの子を引きはがしてくんない? 元の姿に戻れない」
「それは分かったが、この子の前で空色の魔女の正体をさらしてもいいのか?」
「あっ、そうだった。でもまあ、いっか。この子もこの子で、色々と正体は不明だし」
「もうそのセリフだけでも、また厄介ごとに首を突っ込んだことを理解したよ。まあ、俺も慣れてきたけどさ」
タケゾーの返事で気づいたが、このままだとこの子供にアタシの正体を気付かれることになってしまう。
とはいえ、そこはもう仕方のない話か。それにアタシの正体をバラした方が、この子も腹を割って話しやすいだろう。
――こっちとしても、この子の正体の方が気になる。
「じゃあ君……えーっと、名前は?」
「……インサイドブレード」
「へ? な、何て?」
「インサイドブレード。ボクの名前」
「か、変わった名前だな……」
それを調べることも大事だが、まずはアタシの背中に抱き着いて離れないこの子をどうにかするのが先決か。
そのためにもタケゾーも腰を落とし、目線を合わせてこの子にまずは名前を尋ねてみる。
そういえば、アタシも名前を聞いてなかったや。まだタケゾーを警戒しながらも名乗ってくれるけど、随分と変わった名前だね。
――てか『インサイドブレード』って、名前には聞こえないよね。
どちらかというと、デザイアガルダやケースコーピオン、アタシも持ってるサイエンスウィッチみたいなコードネームに聞こえてくけど――
「……もしかして、この子も大凍亜連合の関係者?」
「そうなのか? 見た目はただの子供だけど?」
「見た目に関してはね。ただこの子、居合でビルを切断してた」
「……え? 居合でビルを切断? 嘘だろ? そんなこと、佐々吹でもできないだろ?」
「うん。いくらショーちゃんでも無理だね」
――そう考えてみると、この子もケースコーピオンと同じように、大凍亜連合が作り出したヴィランに思えてくる。
能力にしたって、完全に人間の範疇を超えてるもん。むしろ、その類と見た方が納得できる。やった悪行はパン泥棒だけど。
「佐々吹……? ショーちゃん……? 何か気になる」
「ん? 何か覚えてることでもあるのかい?」
そんなアタシとタケゾーの話が耳に入ったのか、この子供は反応を示してくる。
何やら頭を抱え込み、軽く考え込んでいるようだ。
様子を見る限り、ショーちゃんのことを知ってるってこと? そういえば、この子の剣技もショーちゃんと同じものなんだよね。
――色々とアタシとも結びつきそうで、気になって仕方がない。
「ねえ、何でもいいから、知ってることを教えてくれない――」
「お腹空いた。ご飯食べたい」
「あー……食欲が先ってことね。分かったよ。タケゾー、悪いんだけど、この子の分の夕食も用意してくれない?」
「それぐらいなら問題ないさ。隼も元の姿に戻ってくつろいでてくれ」
先の話を聞き出そうにも、インサイドブレードと呼ばれるこの子の脳内は本当にマイペースな子供だ。
まあ、いきなり色々聞こうとしても可哀そうだよね。この子自身も記憶がないみたいだし、まずは心にゆとりを持ってもらうのが一番か。
この子もようやく離れてくれたし、アタシも変身を解除して、ひとまずはビールでも開けようかね。
「……? お姉さん、その姿は?」
「ああ、これかい? こっちがアタシの本来の姿さ。さっきあんたと戦った時は、専用の戦闘スタイルってとこかねぇ」
「……むー? ボク、お姉さんと初めて会ったっけ?」
「え? そのはずだけど?」
ただ、それでもこの子の一挙手一投足は気になってしまう。
アタシが空色の魔女への変身をやめると、眉をひそめながらこちらを眺めてくる。
それにしても、まさかこの子はアタシと過去に会ったことがあるとでもいうのだろうか?
可能性があるとすれば、ショーちゃんの兄弟か、はたまた親戚か。
それならば、この子がショーちゃんと同じ居合術を身に着けている理由にも納得できる。
ただその場合、アタシも考えていた仮説を当てはめると、この子は『大凍亜連合に改造されて記憶を失った』という可能性も出てくる。
もしそうだとしたら、アタシは大凍亜連合を許せない。それはヒーローたる空色の魔女としてではなく、アタシという一人の人間としてだ。
――こんな幼い子供を、しかもアタシを愛してくれた男の身内を不幸に陥れるなんて、お天道様が許したって許さない。
そもそも、まだこんなに幼い少年を利用して――
「……あれ? そういえば、君って男の子なの? 女の子なの?」
――などと少し憤慨していると、アタシは一つ重大なことをこの子に聞いていなかった。
なんとなくショーちゃんとイメージが被ったせいで少年っぽいと思ってたけど、この年代なら女の子でもあり得る容姿だ。
タケゾーにしてもショーちゃんにしてもそうだけど、アタシの周りって見た目の性別が分かりづらい人が多いのよね。胸だけで判断できない。
少し前に会った洗居さんの友人フェリアさんみたいに、胸がなくてもハッキリ女性と分かる人ならいいのだが、声や言葉遣いでも判断に迷う。
インサイドブレードなんて名前よりも、アタシとしてはそっちの方が気になるんだけど、果たして真相は――
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