上 下
70 / 465
怪鳥との決闘編

ep70 アタシだけのヒ-ローだね!

しおりを挟む
「お、お前は……!? 隼をたぶらかした、赤原の子せがれか!?」
「俺が隼をたぶらかしたかどうかなんて、どうでもいい話だ。それより、あんたは自分が何をやってるのか分かってるのか……!?」

 アタシがおっちゃんの車に乗せられそうになった間際、タケゾーがアタシを掴んでいたおっちゃんの手を引き離して助けてくれた。
 こんなタイミングでアタシのことを助けてくれるなんて、まるでタケゾーがヒーローじゃんか。空色の魔女のアタシよりもヒーローだよ。

 ――でも、今はそんな冗談も口には出せないほど、タケゾーが助けてくれた事実が嬉しい。

「あんただって、隼が車が苦手なのは知ってるよな? それなのに、そんな嫌がる隼を無理矢理連れ出して、どこに行くつもりだよ……!?」
「き、貴様のような小僧の知ったことか! これは家族の問題だぞ!? 邪魔をするな!」
「いいや、邪魔させてもらう。俺も隼がこんなに嫌がってる姿を見て、黙って見てることなんてできない……!」

 タケゾーは声こそ静かな方ではあるが、どこか怒りを抑えるように振り絞って声を出している。
 表情にもかなりの怒りが滲み出ており、その華奢な体格からは想像もできないほどの力で、鷹広のおっちゃんの腕を掴んで離さない

「ぐぐぐ……!? くそ! せっかくの縁談話だったのに、後で後悔することになるぞ!」
「あんたに隼の結婚云々までを決める権利はない! おとなしく引っ込んでろ!」

 結局、鷹広のおっちゃんの方がタケゾーに根負けする形で、おっちゃんは一人で車に乗って立ち去ってしまった。
 本当に助かった。タケゾーが来てくれなかったら、アタシは本当におっちゃんの車に乗せられ、どこかへと連れ去られてしまっていた。

「大丈夫か、隼? もう安心して――わわっ!?」
「怖かった……。怖かったよぉ……タケゾー……!」

 そんな安心感からか、アタシは思わずタケゾーに抱き着いてその胸元に顔をうずめてしまう。
 傍から見ると、結構恥ずかしいことをしているとは思う。それでも、今はタケゾーに触れていないと落ち着かない。



 ――世間のヒーローたる空色の魔女にだって、苦手なものはある。
 そんなものからアタシを守ってくれたタケゾーは、さしずめアタシだけのヒーローだ。



「それにしても、あの叔父さんは何を考えてるんだ? 俺も少しだけ話は読めたが、隼に縁談だって?」
「本当にとんでもなく迷惑な話だよ。相手はかなり高収入な男みたいだったし、結局のところは金目当てなんだろうね」
「この資料の男がそうか? 星皇カンパニーの社員だって? 確かに結構なご身分だが、あの叔父さんもよくこんな相手を探してきたもんだな……」

 鷹広のおっちゃんもいなくなったことで、アタシも落ち着きながらタケゾーに事情を説明する。
 縁談相手の資料も置きっぱなしだったし、嫌な気分はしつつもタケゾーにも見せてみる。

「……なあ、隼。やっぱり女って、この男みたいに高収入で渋めな年上イケメンの方が好きなのか?」
「へ? 全然だけど? アタシが好きなのはタケゾーだもん」
「そ、そんなにあっさりハッキリ言われると、俺の方が恥ずかしくなってくる……」

 そんな資料を眺めていたタケゾーだが、急にどこか暗い表情になってアタシに尋ねてきた。
 まあ、確かに資料の男はタケゾーよりもはるかに高収入だ。でも、タケゾーだってしっかり働いて収入がある。
 それにタケゾーはまだ新人だけど、すでに勤め先の保育園でも信用を得ていて、タケゾー自身もそんな仕事に誇りを持っている。
 大切なのは収入の大きさじゃない。『本人が納得して働けることが重要なのです』って、洗居さんも言ってたし、タケゾーが納得して働けているならばそれが一番だ。

「それにしても、こんなところで星皇カンパニーの人が出て来ちゃうと、アタシも星皇社長に文句を言いたくなっちゃうね!」
「そんなことしたって、星皇社長は迷惑なだけだろ?」
「いーや! アタシの気が収まらない! 遠回しだけど、タケゾーを馬鹿にされた!」
「どんだけ遠回しにだよ……。むしろ、直接被害を被った隼自身のことで怒れよ……」

 ただ、どうにもこのままというのも気分が悪い。
 アタシも少し星皇社長に直接『お宅の社員のせいで、アタシの彼氏を遠回しに侮辱されました!』ってクレームを入れたい。

 ――いや、モンスタークレーマーなのは自覚してるのよ?
 でもさ、アタシも素直に出した矛を引っ込められるほど、大人じゃないのよね。

「でもまあ、あの叔父さんがどうして星皇カンパニーの社員と繋がってたのかは、俺もちょっと気になるか」
「だよねだよね~。別にクレームじゃないけど、星皇社長とは知った仲でもあるわけだし、ちょっと遊びに行くついでで尋ねてみない?」
「アポなしで大企業の社長に? それはそれで迷惑だろ……」
「まあ、無理だった時はそれで諦めるさ。単純に今日のデートの行き先の一つとして、星皇カンパニー本社の見学にでも行こうよ。ね?」
「それぐらいなら、俺も構わないかな」

 そんなわけでアタシの中でもどうにか妥協点を探し、本日のデートの内容を星皇カンパニー本社への社会見学に行くことにしてみた。
 アタシとしても、一度は行ってみたかったのよね。一般フロアならば、別にアポがなくても見学できるのは知っている。
 世界に名だたる星皇カンパニーの技術力。アタシも一人の技術者として、少しぐらいは覗いてみたいのよ。

「そいじゃ、アタシは着替えてくるよ。星皇カンパニーに行くのに、流石にこの作業着のままはマズいからね」
「普段の営業は作業着でしてたくせに、相手が贔屓の星皇カンパニーとなると、やっぱりそこは謙虚になるんだな。……一応はクレームが第一目的じゃなかったっけ?」
「気にしなーい。気にしなーい」

 アタシも一応の正装としてタケゾー母譲りのワンピーススタイルで訪問すれば、外見的にもまあセーフなラインでしょ。
 タケゾーに少し何かを言われもしたが、アタシは気にせずプレハブ小屋に戻って準備をする。

 ――それにしても、化粧というのは面倒なものだ。
 今度、自動で瞬間的にメイクを完了させる機械でも作ってみよう。





「タケゾー。おっまたせー」
「分かってはいたが、本当に準備に時間がかかるんだな。まあ、隼じゃおふくろのようにはいかないか」
「ごめんごめん。また今度、自動メイクマシーンを作っておくから」
「『化粧の練習をしておくから』じゃないところが、実に隼らしい」
「いや~! そんなに褒めないでってばさ~!」
「……別に褒めてはいない。てか、本当に服装がワンパターンだな」

 そうして時間はかかりつつも、アタシもデートに出かける準備ができた。
 このワンピースは気に入ってるのでアタシのデート着にしているが、やっぱり他の服装も用意した方がいいかな? タケゾープレゼンツの帽子とも合うんだけどね。
 タケゾーに奢ってもらってばっかりってのも気が引けるし、アタシも自分でファッションに気を遣ってみよう。

「そして、今日のタケゾーはライダースジャケットか。意外とレパートリーがあるんだねぇ」
「俺も今日は特別に……な。ちょっと、これで隼と一緒に出掛けようと思ってたからさ」
「これって何のこと?」

 アタシの準備もできたのだが、どうもタケゾーの様子が普段と違う。
 服装もそうだけど、どこか自慢と不安が入り混じった表情というべきか、なんとも言えない表情もしている。

 それに何か今回は特別な用意があるらしく、物陰から何かを引っ張り出してくるけど――



「このサイドカー付き大型バイクなら、隼も乗れるんじゃないか?」
「ふおおおお!? なんか凄いものが出てきたぁああ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...