空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep68 新しい日々の幕開けだ!

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〇 〇 〇


「ねえ!? 父さん、母さん!? 返事してってば! ねえ!?」

 アタシの頭の中に、あの日の光景が蘇ってくる。
 目の前にあるのは崖から転落して大破し、轟々と燃え盛る我が家の車。

 ――そして、血塗れになって微動だにしないアタシの両親。

「あ、熱い……痛い……! なんで……なんでこんなことに……!?」

 アタシ自身も車から発生した炎によって下腹部を焼かれ、崖から転落した衝撃も合わさってまともに体を動かせない。
 こうなった原因は雨で濡れた山道で、対向車のトラックを避けきれなかったが故の事故。
 アタシも乗っていた車は大きくスリップし、崖下へと転落してしまった。
 ただ、そんなことよりも辛いのは、やはりアタシの両親のこと――

「父さん! 母さん! う……うわぁぁああ!?」

 ――あの日、アタシは両親を一度に失った。


〇 〇 〇


「――プハァ!? ハァ、ハァ、ハァ……!? ゆ、夢……?」

 思わず飛び起きてしまう程、なんとも寝覚めの悪い夢だった。
 アタシはあの日のことを、今でもこうしてたまに夢に見てしまうことがある。
 両親を救えなかったことへの後悔。アタシだけが生き残ってしまったことへの罪悪感。

 ――もしもあの時、アタシに空色の魔女としての力があれば、両親だって救えたかもしれない。
 最近はそう考えることも増えてしまい、余計に心苦しくなってくる。

「……あの事故がなかったら、アタシの人生も今とだいぶ変わってたのかな?」

 アタシは横になっていたソファーに腰かけ直しながら、ズボンの隙間を覗いてみる。
 あの事故によってこの身に残ってしまった火傷跡。今でも事故のことを鮮明に物語るように残っている。
 あの日以来、人にこの火傷を見せないためにタイツや長ズボンを履くようにし、車に乗ってどこかへ行くことに抵抗感も芽生えてしまった。
 事故に遭った時に両親だけでなく、アタシは色々と失ってしまった。

 ――両親の形見だった工場も守れなかったことまで思い出し、朝っぱらからナイーブになってしまう。


 ピコンッ


「お? SNSのメッセージ? タケゾーからかな?」

 そんな沈んだ気持ちのアタシの耳に、スマホの通知音が入ってくる。
 操作して内容を見てみると、やはりタケゾーからのメッセージだった。
 ここ最近の日課であり、アタシのちょっとした楽しみだ。

【おっはろ~。今日も律儀なメッセージ、ご苦労様だね~ヾ(^∇^)】
【今日はやけに返信が早いな。眠れなかったのか?】
【眠れたことは眠れたけど、ちょーっと嫌な夢を見て目覚めが悪くてさ~(´・ω・`)】

 そんなタケゾーからのメッセージに対し、アタシも慣れた手つきで返信する。
 いつも通りの感じで送ったつもりだが、こんなところでもタケゾーは鋭く何かに勘づいてくる。
 どうにも、アタシがタケゾーの手玉に取られている感じがする。でも、悪い気はしない。
 元々が長い付き合いだからなのか、アタシも特に気にすることなく本音で返信を続ける。

【今日は俺も休みでそっちに寄るけど、隼も休みだよな? 洗居さんとの仕事にも復帰したみたいだし、疲れとか残ってないか?】
【タケゾーだって、保育園の仕事に復帰したのは大丈夫なのかな?(。´・ω・)】
【俺は大丈夫だ。空色の魔女様みたいに、何足もわらじは履いてない】
【q(≧▽≦q)】
【顔文字だけで返事するな】

 タケゾーに告白されて以来、アタシ達二人の交際は順調に続いている。
 仕事の方も技術屋としては相変わらずタケゾーの勤める保育園しかクライアントがないが、洗居さんの部下として清掃の仕事は続けられている。
 そこに空色の魔女としての役目も入って大変ではあるが、それでも毎日が充実している。

 こうやってタケゾーとSNSでくだらないやり取りをするのだって、アタシにとっては楽しいのだ。
 お揃いで買った空色のキーホルダーもスマホに飾り付け、それが揺れるたびにちょっと心も跳ねる。

「とは言っても、あの仇敵クソバードの足取りはいまだに追えてないんだよねぇ……」

 ただ、目下最大の課題については手詰まりな状況だ。タケゾーとのSNSを終えると、再びソファーで横になりながら少し考える。

 タケゾー父を殺し、アタシの彼氏になってくれたタケゾーまでをも襲った忌まわしき元凶――デザイアガルダ。
 正直なところ、アタシには今でもその正体が掴めていない。生物図鑑を調べても見たのだが、人語を話す巨大な怪鳥なんてやはり載っていない。
 ならば、あいつは誰かが作った生物ということか? まさかとは思うが、元々は人間だったとか?

 ――流石にそれはないだろうと思いたい。
 人間をあそこまで完全な鳥の姿に変えるとなると、人間の設計図たるヒトゲノムを相当解析していないと無理だ。
 ヒトゲノムの解析計画については様々な研究機関で昔から行われているが、人間の姿を全く別物に変えてしまうほどの解析と解明なんて、現代でも聞いたことがない。

 ――それに、ヒトゲノムそのものをあそこまで変異させているとなると、それはもう生命への冒涜とも言える。
 アタシも一人の技術者として、そんな禁断の領域の技術が存在しないことを願いたい。


 コン コン


「あれ? ノック? タケゾーの奴、もうこっちに来たのかな?」

 なんだかマイナスなことばっかり考えてたけど、今日はタケゾーとのデートの日だ。
 お互いに仕事の兼ね合い(と、アタシの空色の魔女としての都合)もあるが、休みが合う日には一緒に出掛けることが増えた、
 まあ、アタシもタケゾーの彼女になったわけだ。こっちだって、内心ではタケゾーに真正面からの数年熟成ものの告白をされて、結構ウキウキでもある。
 今日は彼氏様のためにも、健気で愛しい彼女様となろうじゃないか。


 コンコン コンコン


「はいはーい。今出ますよー」

 それにしても、タケゾーも随分と早いご到着なことだ。
 アタシもまだ起きたばかりで、身だしなみの準備も何もできていない。
 タケゾー母からもらったコーディネートは今でもアタシのお気に入りで、デートの時の定番としている。
 普段とは違う清楚なお嬢様なアタシ、結構魅力的だとは思うんだよね。タケゾー母、グッジョブ。
 それでも、化粧も含めて時間がかかるコーディネートだ。外で待っててもらうのも気の毒なので、ここは一度タケゾーにも顔見せしておこう。

「よっそ! タケゾー! ちょーっと悪いんだけど、しばらく待ってもらっても――」

 そう思って作業着のままプレハブ小屋のドアを開け、タケゾーにお願いしたつもりだったが――



「ようやく出てきたか、隼。あまり、わしを待たせるでない」
「鷹広の……おっちゃん?」
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