空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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魔女の誕生編

ep43 話を終えて、戻ろうと思ったら――

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「……さてと。話し込んでいたら、結構な時間が経ってしまったな」
「気がつけば、もう夜じゃんか。まさかタケゾーの奴、まだアタシのことを待ってたりするのかな?」

 そうこうタケゾー父と話をしていると、いつの間にか陽が暮れてしまった。
 色々と有意義な話もできたし、アタシも元気を貰えたけど、そろそろ戻った方が良さそうだ。
 でないと、タケゾーが待ち惚けのままだ。

「あの息子は隼ちゃんのためならば、いつまでだって待つだろうよ」
「やっぱ、そうだよねぇ。別にあいつにも仕事があるから帰ってくれてていいのに、どうしてこうもアタシの心配ばっかりすんのかね? 気持ちは無下にしたくないけど、ちょっとしつこくも思っちゃうよ」
「……隼ちゃんって、本当に武蔵の気持ちに気付いてないんだね」
「……はへ?」

 そんなタケゾーの話をしていると、タケゾー父が呆れ顔でこちらを見てきた。
 何と言うか『こいつ、鈍感すぎない?』とでも言いたげな顔。それはちょっと失礼じゃないかな?
 アタシだってタケゾーの心配性は理解してるし、無下にしたくないとも発言している。
 ちゃんとタケゾーの気持ちは汲み取ってるつもりだ。

 ――まあ、この間は喧嘩もしたけど。

「アタシはちゃんとタケゾーの気持ちも考えてはいるつもりだよ? そりゃ、全部は無理だから昨日みたいに喧嘩もするけど、大半は合ってるでしょ?」
「……これはダメだな。俺ではどうしようもない。まあ、難しい問題とはいえ、武蔵自身に頑張ってもらうしかないか」
「……?」

 少し説明してみたものの、返ってくる言葉を聞いて、アタシには何が何やらサッパリだ。
 よく分からないけど、特にアタシが何かする必要はないって感じかな? タケゾーが何かするみたいなニュアンスだよね?
 それならそれで、アタシはタケゾーが何かアクションを起こすのを待っていよう。
 タケゾー父がこう言うのだから、待っていれば大丈夫なはずだ。多分。

「それより、隼ちゃんもその姿から早く元に戻ったらどうだい?」
「あっ。すっかり変身を解除するの忘れてた」
「変身って……。もしかして、その姿も隼ちゃんが色々と作ったものなの?」
「うん。一瞬で容姿の切り替えが可能なんだよ。髪は能力の影響で、勝手に色や形が変わってるけど」
「そんなものを個人で作ってる時点で、隼ちゃんの技術レベルも大したもんだ……」

 うっかり忘れていた魔女モードの変身のことにツッコまれながらも、アタシとタケゾー父はようやく屋上を後にしようとする。
 とりあえず、まずは変身を解除しないとね。空色の魔女の姿で建物内をうろついちゃうと、流石に大騒ぎだ。

 というわけで、胸元のブローチに手を当てて――



 ガラララァァアア!!


「ッ!? じゅ、隼ちゃん!? 危ない!!」
「え!? う、うわぁああ!?」



 ――その時、突如上空から瓦礫が崩れるような音が鳴り響いてきた。
 アタシが反応するよりも早く、タケゾー父によって一緒になって地へと伏せさせられる。

 そして体に降り注いでくるのは、大量の廃棄用の木材。
 伐採した木の不要となった部分らしきものが、いくつもアタシとタケゾー父の体に襲い掛かって来た。

「い、一体何が!? ねえ! 親父さん! 大丈夫!?」
「ぐうぅ……! あ、足をやられたか……!?」

 いったんは木材の雨も落ち着くものの、正直言って何が起こったのかが理解できない。
 いきなりこんな災難に襲われるし、そのせいでタケゾー父も足を怪我してしまった。
 木材の断片が右足に突き刺さり、とても動ける状況ではない。

 もう最悪の気分だ。せっかくアタシも気持ちが前に進めそうだったのに、いきなりなんでこんなことに――



「グゲケェェエ!! 空色の魔女ォオ! 貴様だけはどうあっても、このワシが殺さねば気がすまぬワァアア!!」
「あ、あいつは!?」



 ――その正体は上空に目を向ければすぐに分かった。
 さっきは急に退却したはずだった、巨大怪鳥ことデザイアガルダ。
 どういうわけか今度は巨大な木箱を両足で持ちながら、上空でアタシ達のことを睨んでいた。

「まさか……その中身を降り注がせてきたってのかい!? なんでそんなことをするんだ!?」
「決まっているだロ! 貴様をこの場で始末するためダ! もうラルカの命令も……知ったことカァァアア!!」

 デザイアガルダの目的は単純だ。ただ単にアタシのことが気に食わず、復讐に戻って来たのだ。
 木箱の中に入れていた大量の木材で強襲し、両目を血走らせながら本気でアタシに殺意を向けて来ている。
 ラルカと呼ばれる仲間の命令も無視しているようで、完全に怒りで我を忘れている。

「さア! 今度こそ死ネェエエ!!」


 スゴォォオオン!!


「ふんぐぅう!!?」

 木材の雨を降らせ終えると、今度は持っている木箱をアタシの方に押し付けるように急降下してきた。
 こっちには怪我で動けずにうつぶせになったタケゾー父もいる。アタシ一人で回避するわけにはいかない。

 ――できることは一つ。アタシがこの木箱を持ち上げるように押し堪えるだけだ。

「んぎぎぎ……!!」
「貴様の能力、おおよそは理解できたゾ! 電気を使っているのならば、木材で防ぐことも可能ダァア!!」

 生体コイルを最大限稼働させ、身体能力を限界まで引き上げるも、完全にこちらの方が押し負けている。
 これが金属製だったのならまだ電磁フィールドで防ぐこともできたが、デザイアガルダも今回はそのことを考慮している。
 アタシを圧し潰してくる木材が相手では、アタシの電気を使った能力は全て通用しない。
 できることなど、本当にアタシが両手でこの木箱を支えるのみ。

「じゅ……隼ちゃん……! 俺のことはいいから、君だけでも逃げるんだ……!」
「嫌だ!! アタシは絶対、タケゾーの親父さんを見捨てたりしない! 絶対に助け出すんだぁああ!!」

 タケゾー父はアタシに諦めることを促すが、そんなことをできるはずがない。
 ここでアタシだけ逃げ出せば、タケゾー父はデザイアガルダに圧し潰されてて死んでしまう。
 そんなことできるはずがない。そんな結末だけは認めない。



 ――たとえこの身が砕け散ろうとも、この人だけは救ってみせる。



「しつこい魔女の小娘ガァア! さっさと潰れぬカァアア!!」
「んぎぃい……! ふんぐらぁああ……!!」

 そんな気持ちで必死に持ちこたえても、状況が好転することはない。
 デザイアガルダはさらに力を込めて、アタシが支える木箱を押し込んでくる。
 こっちも限界が近づき、今は膝もついて両手と頭で木箱を支えるので精一杯だ。

 だからといって、この状況どうすればいい?
 タケゾー父を見捨てるわけにもいかず、身体能力を強化する以外の方法も思いつかない。
 とにかく堪えることしか、アタシの頭の中には思い浮かばない。



「……隼ちゃん。俺のことは本当にもういいんだ。それより、君だけは生き残ってくれ。武蔵のことも……頼んだよ」


 ――ブンッ


「……えっ?」



 そうやって歯を悔いしながらも堪えていたら、アタシの体は突如タケゾー父が振り絞った最後の力によって、横へと投げ飛ばされた。
 あまりの不意打ちだったせいか、アタシも呆気に取られてそのまま体が流されてしまう。

 その時にうつぶせになったままのタケゾー父の顔が見えたが、その表情はどこか安心しきった笑顔だった。

 そして、アタシが木箱の下から抜け出したのとほぼ同時に――



 グシャァアア!!


「タ……タケゾーの親父さぁぁああん!!??」



 ――木箱によって、タケゾーの親父さんは完全に圧し潰されてしまった。
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