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魔女の誕生編

ep37 幼馴染に謝罪しよう!

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「なんとかここまで来たけど、やっぱ、迷惑だったかな……?」

 アタシはタケゾーに謝罪するために、赤原家の前までやって来た。
 とりあえずは勢いに任せてやって来たはいいものの、もう夜分遅い時間帯。
 親御さんもいるだろうし、急にアタシが押しかけては、流石に迷惑ではないだろうか?

 ――それでも、アタシはどうしてもタケゾーに謝罪したい。謝罪しないといけない。

「よ、よし……! このインターホンを鳴らして……!」

 まさかタケゾーの家のインターホンを鳴らすのに、ここまで緊張することになるとは思わなかった。
 それでも震える指を押し進め、なんとかそのボタンを押そうとする――



「……くっそ! ごめん、親父、おふくろ! 俺、やっぱり空鳥に謝りに――って、そ、空鳥!?」
「タ、タケゾー!?」



 ――そうしてインターホンを鳴らすより前に、家の扉が開いてタケゾー当人が中から出てきた。
 何やら慌てて身支度をして、どこかに出かけようとしていた様子。

 ――てか、タケゾーもアタシのところに向かおうとしてなかった?
 扉を開けた時の言葉、アタシの耳にも届いちゃったよ。

「え、えーっと……。どうして空鳥はここに?」
「い、いや~……その~……」

 そんなお互いがお互いの所に向かおうとした途中だったため、どうにも気まずい空気が流れてしまう。
 タケゾーも間が悪いとは思うが、それはアタシにも言えた話か。
 まったく、こんなところまで似た者同士となると、つくづく幼馴染の腐れ縁を思い知ってしまう。

 ――そんな思わぬ事態が起こったけど、ここまで来たらもう後は野となれ山となれだ。

「タ、タケゾー! さっきはごめん! アタシも意気地になって、きつい言い方をして――」
「い、いや! 俺の方こそ悪かった! 空鳥の気持ちも考えずに、言いたいことばっかり言って――」

 そうしてアタシが頭を下げて謝罪すると、同時にタケゾーも頭を下げて謝罪してきた。
 家の前でお互いに頭を下げ合い、お互いに必死に謝り続けるという光景。
 傍から見れば珍妙なものだろう。それでも、アタシもタケゾーもお互いに謝罪をやめることはない。
 そもそも、悪いのはアタシの方なんだ。タケゾーが折れてくれるまで、アタシがやめる気はない。

「アタシもタケゾーにきちんと話せないのは悪いと思ってる! でも、今はアタシのことを信じて、このことは伏せておいて欲しいんだ! 頼む!!」
「俺も空鳥がそんなに嫌がってるのに、無理に聞き出そうとして悪かった! もう余計なことは聞き出そうとしないから、どうか俺を許してくれ! 頼む!!」

 そんなお互いに頭を下げて、それぞれの悪かった点について謝罪する姿は、本当に滑稽としか言いようがない。
 それでも、これがアタシとタケゾーの関係なんだ。ここまで喧嘩をしたのは初めてだったけど、自然と理解できる。



「あらあらら~。隼ちゃんも武蔵も、これで仲直りできたのかしらね~?」
「まったく……我が息子ながら、実に不器用なものだ」



 アタシとタケゾーがそうして謝罪ラッシュを繰り返していると、家の中からタケゾー母と父まで顔を見せてきた。
 その様子はなんだか、小さい子供が喧嘩の仲直りをしているのを眺める大人といった感じ。アタシもタケゾーの保育園で、同じような光景を見たことがある。

 ――なんだかんだで、アタシもタケゾーもまだまだ子供だね。
 いくら成人したとは言っても、本当に親である大人にはなんだかんだで敵わないや。

「あ、あの……今回の件はアタシが一方的に意地を張ってただけだから、タケゾーは何も悪くなくて――」
「私も旦那も、武蔵から話は聞いてたわよ。どっちが悪いかまでは分からないけど、隼ちゃんの秘密に土足で踏み込もうとする武蔵も悪いわよね~」
「そこについては、本当に俺が悪かったと反省してる……」
「だが、その様子を見る限り、仲直りはできたって感じだな? まったくもって、人騒がせな幼馴染なものだ。ハハハ!」

 タケゾーの両親も出てきたことで、アタシもタケゾーも少し落ち着いて話をする形となる。
 そんなご両親の介入もあって、最初の口論が嘘のように、アタシもタケゾーもしょんぼりと話を聞いている。

 ――でも、悪い気はしない。
 アタシとタケゾーの目的は、果たされようとしているんだ。

「……ん。タケゾー」
「……ん? その手は何だ? 空鳥?」
「……仲直りの握手」
「なんだか子供っぽいけど、今の俺達にはお似合いかもな」

 アタシがタケゾーに右手を差し出すと、タケゾーも右手を出して望み通りに優しくも力強く握り返してくれた。
 アタシはこれでも、人付き合いでは不器用な方なんだ。それに喧嘩の仲直りなんて、そうそうやる機会もなかった。
 だからここは素直にやるべきことをやる。どれだけ子供っぽくても、素直にアタシの気持ちを伝えられる方法で仲直りする。

 ――そんなアタシの気持ちを汲み取ってくれたタケゾーの手は、とても温かかった。

「アタシが隠してる秘密については、いつの日か必ず話す。だから……今だけは見逃して欲しい」
「分かったよ。俺もお前のことを信じる。でも、どうしても自分一人じゃ駄目だって時は、俺にも相談してくれよ?」
「ああ、分かってるさ。本当にタケゾーはお人好しだねぇ。ニシシシ~」
「お前が言えた義理でもないと思うがな……」

 これにて、タケゾーとも無事に和解。空色の魔女の件は話せずじまいだが、今はそれで構わないや。
 いつかはタケゾーにも本当のことは言いたいけど、今はこうして仲直りできたことに安心したい。



 ――昔からずっと一緒にいたタケゾーといがみ合ったままなんて、アタシには何よりも耐えられない。



「おお、そうだ。曲がりなりにも、隼ちゃんにこうして会ったわけだ。実は君に相談したいことがあるんだよ」
「へ? アタシに相談事?」

 そうやってアタシとタケゾーの件が一段落すると、今度はタケゾー父がアタシに話を振って来た。
 タケゾー父から相談事とは珍しい。最近は空色の魔女として正体を隠しての接触も多いけど、普段のアタシに相談ってことは、何か技術者としての仕事かな?

「君の亡くなったご両親だが、警察と共同開発していたことは知ってるかね?」
「あー……聞いたことはってぐらいに。アタシも何を共同開発してたのかまでは、聞かされてなくて」

 どうやら、技術者としての相談事ではあるようだ。しかも、アタシの亡くなった両親が絡んでる話。
 両親が警察と一緒に何かしてたのは知ってたけど、何をしていたのかまでは流石に知らない。
 当時まだ高校生だったアタシでは、警察が絡む技術なんて別世界の話だ。

 それでも今なら、少しは理解できそうな気がする。アタシだって、技術者としてのレベルは上がっている。
 それに、タケゾー父がこうして娘のアタシにこの話をしたということにも、それとなく理由が見えてくる。



「隼ちゃんのご両親が警察と共同開発していたものについて、君にも一度目を通してもらいたいんだ」
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