空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
22 / 465
魔女の誕生編

ep22 アタシの能力は助けるためにあるんだよ!

しおりを挟む
「お、落ちてしまいます……! た、助けて……ください……!」
「あ、洗居さん!? ヤバいって!? 落ちる寸前じゃん!?」

 アタシの目線の先にいたのは、ソニックブームで崩れ落ちた外壁にしがみつく洗居さんの姿。
 必死にしがみついてはいるが、もう今にも落ちそうだ。あの高さから落ちれば無事では済まない。

 ――アタシのせいだ。
 アタシがソニックブームを回避したせいで、洗居さんが命の危機にさらされている。


 バシィンッ!


「つうぅ!?」
「よそ見をしてる場合カ? 魔女の小娘ガァ! この宝石は頂いていくゾ!」

 そんな洗居さんのピンチに動揺して、巨大怪鳥のことが頭から抜けていた。
 アタシが持っていた宝石袋は、再度奪われてしまう。

「チイィ!? 手癖の悪い鳥なこった!」
「どうしタ? 奪い返すカ? だが、ワシとて暇ではないからナァ!」

 巨大怪鳥はアタシに少しだけ言い残すと、背を向けて逃げようとする。
 今から追えばまだ間に合うが――



「そんなことしてる暇……こっちにだってないってのぉお!!」



 ――アタシは後を追わず、百貨店の方向へと迷わず飛んでいく。
 盗まれた宝石はどうするかって? そんなことを考えている場合じゃない。
 アタシのせいで、洗居さんが今にも転落死しそうなんだ。それを助ける方が優先だ。

 超一流の清掃用務員だなんて呼ばれて、清掃魂セイソウルとかの変な造語を使ってて、こっちが心配になるほどの真面目気質で、アタシに仕事を教えてくれて、空色の魔女には不信感を抱いている。
 そうやって思うことは色々とあるが、それらは今この状況で、アタシを突き動かす要因とはならない。それらは何一つ関係ない。



 ――人の命より、重いものなどあるものか。
 アタシは人を救うために、こうして空色の魔女になったんだ。



「も、もうダメです……!」
「洗居さぁぁああん!!」

 洗居さんはとっくに限界だ。もう指先が滑り落ちつつある。
 アタシの頭の中の方も、洗居さんを救い出すことしか考えられない。
 とにかく全速力でロッドを飛ばし、洗居さんのもとへと急ぐ――



 ズルッ――

 ――ガシィ!



「ううぅ!? ……あ、あれ? 落ちてないのですか……?」
「よ、よかった! 間に合った!」



 ――そして間一髪、洗居さんが滑り落ちたところで、アタシはその体をキャッチすることができた。
 本当にギリギリのタイミング。コンマ一秒でも遅れていたら、洗居さんはそのまま地面に真っ逆さまだった。

 そもそもの原因は、アタシが迂闊に巨大怪鳥のソニックブームを回避したせいだ。
 もっと注意を払っていれば、洗居さんがこんな危険な目に遭うこともなかった。

 ――アタシのせいで、洗居さんを死なせてしまうところだった。

「あ、あなたは確か、空色の魔女様でしたか?」
「ああ、そうだよ! アタシのせいで危険な目に遭わせちゃって、本当にごめんね! 洗居さん!」

 洗居さんはアタシに抱えられたまま、目を丸くして驚いている。なんだか、理解が追い付かないって感じ。
 そりゃそうか。洗居さんからしてみれば、こうやって空を飛ぶのだって初めてだ。
 しかも噂の空色の魔女本人が登場してるし、思考回路は情報過多でショート寸前だろうね。

「ほい! お待たせ! もう地上に降りたから大丈夫さ!」
「あ、ありがとうございます……」

 そうこうしているうちに、アタシはロッドの高度をゆっくりと落して、洗居さんを地上へと降ろす。
 これで大丈夫。宝石は巨大怪鳥に盗まれちゃったけど、人の命には代えられない。
 洗居さんは相変わらず目を丸くしたまま、アタシのことを見つめてくる。
 まあ、怪我はないみたいだし、時間が経てば落ち着くでしょ。



「あ、洗居さん! 無事だったんですか!?」
「あなたは……確か、タケゾーさんでしたか」
「げっ!? タケゾー!?」



 洗居さんの無事に安心していると、遠くからタケゾーの声が聞こえてきた。
 そういえば、タケゾーも百貨店にいたんだったね。元気よく走ってるし、あっちも無事でよかった。

「タケゾーさんって……。まったく、空鳥の奴が変なあだ名をつけるから……!」
「私は無事です。一時はどうなることかと思いましたが、こちらの空色の魔女様が助けてくださりました」
「うおっ!? 本当に本物の空色の魔女だったのか! 俺もパニくってるけど、知り合いを助けてくれてありがとうな!」
「イ、イエイエ~。この程度のことなら、お気になさらずに~」

 無事なのはよかったが、今の姿でタケゾーと一緒にいるのはマズい。
 こいつはアタシの幼馴染だ。何かの拍子で空色の魔女アタシの正体がバレかねない。
 今は気付いてないようだが、そうそう長居されるわけにも――

「そ、そうだ! 洗居さん! 空鳥はどこに行ったか知りませんか!?」
「そ、空鳥さん……ですか?」
「ああ! 洗居さんを助けに行くって言って、俺と逃げる途中で別れたんだけど、どこにも見当たらなくて……!」
「……そ、そうですか。残念ながら、私も知りません」
「クッソォ! あいつの身に何かあったんじゃないだろうな!? 俺、もう一回探してきます!」

 ――そうやって懸念していると、タケゾーは再びどこかへ走っていってしまった。
 どうやら、アタシを探しているらしい。まあ、そのアタシはここにいるんだけど。
 でも、これはアタシ=空色の魔女だって、バレてないってことだね。そこは安心だ。
 能力が強大なだけに、身バレしちゃうと面倒なしがらみが増えて嫌だし。

 ――アタシはただ、やりたいからヒーロー活動をしているだけなのだ。

「……まあ、後のことは警察とかにお願いするしかないっしょ。そいじゃ、アタシはこれで失礼するね! アディオッス!」
「……あの、待ってくれませんか? 私はどうしても、あなたにお尋ねしたいことがあります」
「へ? 尋ねたいこと?」

 タケゾーの目も誤魔化せたことだし、これ以上アタシができることはなさそうだ。
 それよりも、今度は空鳥 隼として、タケゾーに会う必要もある。このまま心配させるわけにもいかないよね。

 そんなわけで、一度空を飛んでこの場を離れようとしたのだが、洗居さんに呼び止められてしまう。
 質問があるみたいだけど、何を聞く気なのかな?
 もしかして、身元関係? それだったら、いくら洗居さんの要望でもノーセンキューだ。
 それ以外の質問なら、答えられる範囲で答えるけど。
 洗居さんには迷惑をかけたし、少しぐらいは話を聞いても――



「空鳥さんはどうして、そのような恰好で空色の魔女などと名乗り、こういった活動をしているのですか?」
「んっっげぇぇええ!!??」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

処理中です...