記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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最終章 それが俺達の絆

第473話 栄光の終焉

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「お、お姉ちゃん……? いえ……ユメ様なのですか……?」
「急で申し訳ございません。ラルフル君のお姉さん――マカロンさんの体を、少しの間だけお借りしています」

 突如目の前に現れた姉の姿に茫然自失としていたラルフルだったが、ゼロラの言葉で状況を推測する。
 今目の前にいるのは、自身の姉のマカロンではない。
 肉体こそマカロンのものだが、その身に宿っている魂はゼロラが言う通り、ユメのものだった。

「く、くそぉ!! 僕に敗れた偽物の勇者が、今更他人の体を借りて、僕の邪魔をすると言うのかぁああ!?」

 レイキースも今目の前にいるのが自らの先代であるユメだと理解し、怒りをまき散らす。
 そんなレイキースの言葉を聞いても、マカロンの体を借りたユメは冷静に言葉を紡ぐ。

「レイキース。あなたが勇者であれ、何であれ。この二人を傷つけることは許しません」
「勇者としての"正義"を全うできなかった裏切り者が、僕の行為に横槍を入れるなぁああ!!」

 レイキースの耳には、ユメの言葉も届かない。
 なおも怒りに身を任せ、両手に持った<光毒針>を手当たり次第に投げつける――


 ――ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!


 ――だがその全てを、ユメは手に持った刀で難なく弾き飛ばす。

 かつてレイキースに不意打ちで<光毒針>を刺されて命を落としたユメだったが、今回は完全な真っ向勝負。
 読むことが可能な攻撃ならば、ユメにとっては恐れるに足らないものであった。

「……もう、撃ち止めですか?」
「く……くそぉ……くそぉおおお!!!」

 持っていた全ての<光毒針>を捌かれ、レイキースはただ怒りのままに吠えた。

 そこに【栄光の勇者】と呼ばれた気高さはない。
 あるのはただ自身を絶対とし、それ以外を認められない歪んだ精神の"怪物"――



 ――レイキースの"栄光"は、もう戻ることのないレベルに達していた。



「み、認めないぞ……! 僕は勇者なんだ……! 【栄光の勇者】――レイキースなんだぁああ!!!」

 その精神が完全に人からかけ離れたレイキースは、懐から一本の注射を取り出す。
 ここで負ければ全てが終わる――
 そう考えたレイキースは、ボーネス公爵やリフィーが使った薬を、自らの体に迷わず投与した――



 ――ブスンッ



「おお……アァア……オマエラ……全員……殺シテ……!」
「……本当に人間をやめてしまいましたか。ですが、私の方も時間切れのようです」

 肉体をも異形の怪物へと変えていくレイキースを見て、ユメは残された時間を考えながら行動を考えた。
 元々はマカロンの持っていたブローチに宿していた自らの力で、憑依という形で現世へと戻ってきたユメ。
 許された時間は短く、このままレイキースを倒す時間は残されていなかった――



「すみません。後はお二人にお任せします」


 ポォオウ――


「こ、これは……? <勇者の光>か……?」

 ユメはゼロラとラルフルに手をかざし、<勇者の光>による回復魔法を唱えた。
 そのおかげでゼロラとラルフルの体は、一通り動かせるレベルには回復していく――

「今の私にできるのは、これが限界です。当代勇者レイキースのことは、あなた達二人に任せます」
「ああ、助かった……ユメ。こうしてマカロンの体をお前が借りた形だが、それでももう一度会えて……本当に嬉しい……!」

 かつて自らが心底愛した女性との、僅かながらの再会。
 ゼロラはそれに喜びながら、涙を押さえていた。

「駄目ですよ、そんなに簡単に泣いちゃ。それよりも……今私が体を借りているこの子やミライちゃんと一緒に、幸せに生きてくださいね? 私の願いはそれだけですから……」
「ああ……分かってる。お前が望んでくれる通り、俺はこれからも生きていくさ……」
「フフフッ。それじゃあ、今度はちゃんとお別れを言いましょう――」

 ユメはゼロラに対し、名残惜しくも最後の言葉を伝えようとする。

 それはかつて自身がこの世を去る時に、どうしても伝えられなかった言葉――



「さようなら、ジョウインさん。私は今も……愛してますよ――」



 ――涙を浮かべながら必死に笑顔を作り、ユメはその言葉を言い切ることができた。

 そしてその言葉を言い終えると、ユメが借りていたマカロンの体は、地面へと崩れ落ちた。



「……あ、あれ? 私、なんでここに……? え!? な、何あの怪物は!?」

 ユメの魂はマカロンから抜け、本来のマカロンへと戻った。
 マカロンは急に目の前に映った光景に驚くが、すぐに二人の男が、守るように前へ出る。

「お姉ちゃん、事情は後で説明します。今は下がっていてください」
「後は俺とラルフルでやる。お前はそこで見守っていてくれ」
「ラルフル……。ゼロラさん……」

 マカロンの弟、ラルフル。
 マカロンの想い人、ゼロラ。

 状況を飲み込めないマカロンだったが、二人のことは何よりも信頼できた。
 だからこそ大人しくその言葉に従い、後のことを二人に託した。

「オグルゥアアアアァ……!」
「もう勇者でもなければ、人間でもないな」
「一緒に終わらせましょう。この人には今度こそここで倒れてもらい、"人として"の罰を受けてもらいます」

 完全に異形の怪物となったレイキースを前にしても、ゼロラとラルフルは全く動じない。

 ユメから託された願いを遂げるため――
 この騒動の元凶を倒すため――

 完全とは言えない状態だが、それでも二人には十分な力が戻っていた。
 そして何よりも――



「お前と一緒だと、これ以上ないほど心強いな。ラルフル」
「それは自分だって同じ気持ちですよ。ゼロラさん」



 ――二人の力を合わせれば、レイキースも怖くない。
 二人の間にある、確信を持って言えるほど大きな"絆"。
 互いがそれを胸に秘め、レイキース目がけて走り出した――

「オォラァアアア!!」
「ハァアァアアア!!」

 ――その二人の拳は一直線にレイキースへと向かう。
 その動きを、レイキースにとらえることはできない――





 ドゴォオオオン!!





「オガッ!? ガァ……!?」

 ――二人の拳がレイキースの腹へと突き刺さる。

 わずかにうめき声を上げたレイキースは、そのまま星の輝くルクガイア城の屋上で、崩れ落ちていった――
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