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最終章 それが俺達の絆
第450話 明暗夜光のルクガイア・急③
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シシバとの戦いの最中に入った、"もう一人のミライ"の横槍。
だがそのおかげで、ひとまずミライとリョウの身の安全は確保できた。
いまだに魔法の檻の中ではあるが、それを解放する手段は一つ。
元凶である、レイキースを倒すこと。
そのためにも俺は、王宮の奥へと進む。
シシバとの戦いで受けた傷が痛むが、そんな悠長なことは言ってられない。
リフィーは自らを異形の怪物へと変え、王都で暴れようとしている。
シシバと"もう一人のミライ"、それにサイバラとジフウも援軍に入ってくれているが、いつまでも長引かせるわけにはいかない。
俺はとにかく急いだ。
全ての元凶となっているレイキースを倒し、この大暴動を治めることだけを考えて――
「納得納得……! やはり、あの賢者如きの策略では、公を止めることなどできなかった……か!」
――先を急ぐ俺の前方から、聞きなれた声がした。
だがその声は、俺が"ゼロラとして"聞きなれた声ではない。
かつて【伝説の魔王】と呼ばれていた、"ジョウインとして"聞きなれた声だ。
かつての俺の側近で、今も尚この世界で生き続けている、元魔王軍四天王最後の一人――
「またお前か……ダンジェロ!」
「ハッハッハッ……! ごきげんよう。こうして再び相対できたことを、小生は歓迎しよう……ゼロラ公!」
――"紅の賢者"という偽りの肩書で人の世を生きる男が、俺の目の前に現れた。
今回はフードを最初から被らず、目元に赤い隈のある素顔をそのまま見せている。
玉座の間へと通じる、最後のエントランス。
そこでまるで主を守るかのように、俺の前に立ちはだかっていた。
「……まさか、レイキースが俺の正体を知ったのは……!?」
「流石に公は鋭いな。いかにも。少しばかり、小生が口を挟ませてもらったよ……!」
ダンジェロはニヤつきながら、俺の疑問を肯定する。
よくよく考えてみたら、おかしな話だった。
そもそも、何故レイキースは"俺が【伝説の魔王】だったこと"を知ることができたのか――
その答えが、このダンジェロだ。
俺に改革の戦いに身を投じるように促した時と同じく、今度はレイキースを焚きつけて争いを起こさせている。
全ては動乱を起こし、己の欲望を満たすために――
「お前と遊んでやる時間はない。悪いが今回は、レイキースを優先させてもらう」
今ダンジェロの相手をしている暇などない。
シシバとの戦いで受けたダメージも残っている。
ここは無理にでも突っ切って、ダンジェロとの戦いは避けたいところだ――
「どうやら、あの賢者の策も一定の効果はあったようだな。だが、これを見ても尚、公は小生を見過ごすことができるかな?」
俺が疲弊して、逃げの一手を打とうとしているのを読んだダンジェロ。
そんな俺を引き留めるためなのか、ダンジェロは物陰から一人の女を連れてきた――
「ゼ、ゼロラさん……」
「マカロン!?」
ダンジェロが連れてきたのは、上半身を縄で縛られたマカロンだった。
俺を足止めするために、マカロンを人質にとったのか……!
「ダンジェロ……マカロンを放せ。さもないと、俺はてめえを殺しかねない……!」
「ハッハッハッ! 実にいい顔だ! 怒りに滲んだその表情……愉快愉快!」
ダンジェロは俺の様子を見て、高らかに笑い始める。
俺自身にも分かる。抑えようのない怒りが籠った表情――
その様子を、ダンジェロは楽しげに眺めていた。
「安心したまえ。小生はこの場に、レイキースを割り込ませるような真似はしない。小生とて、あのような小童に横槍は入れられたくないのでね……!」
そう言いながら、ダンジェロは懐から爆弾のようなものを取り出した。
「そ、それは!? <マジックジャマー>!?」
「その通りだとも、少女よ。かの天才科学者、ドクター・フロストより拝借させてもらった物……だ!」
マカロンも知っている<マジックジャマー>と呼ばれるものを、ダンジェロは地面へと叩きつけた。
ジジジ…… ジジジジィ……
「……何をしたんだ?」
「このエントランス一帯での魔法を無効化させてもらった。レイキースは今、王宮中に探知式の結界を張っている。魔力で感知するものだが、こうしてしまえば小生達のことを、感知することはできない……!」
成程。ダンジェロはどうしても、俺とサシで勝負がしたいわけか。
レイキースと組んではいるようだが、やはり目的は完全に別で存在している。
俺が追い込まれ、この動乱の中でどう動くか――
ダンジェロの興味はそこに尽きるのだろう。
「ゼ、ゼロラさん! チャンスですよ! <マジックジャマー>はあらゆる魔法効果を無効にします! このダンジェロって人も、魔王城で戦った時のような魔法は使えません!」
ダンジェロの後ろで囚われたままのマカロンが、俺へのアドバイスのつもりで声をかけてくれた。
――そうか、マカロンは知らないんだな。
いや、ダンジェロの"正体"を知っているのは、最早この世に俺だけか。
「違うんだ……マカロン」
「え……? な、何が違うんですか……?」
【伝説の魔王】ジョウインだった頃の記憶が蘇った今だからこそ、はっきりと分かる。
俺はマカロンにも理解できるよう、そのことを説明し始めた――
「こいつは――ダンジェロは、そもそも魔法なんて"使えない"んだ」
だがそのおかげで、ひとまずミライとリョウの身の安全は確保できた。
いまだに魔法の檻の中ではあるが、それを解放する手段は一つ。
元凶である、レイキースを倒すこと。
そのためにも俺は、王宮の奥へと進む。
シシバとの戦いで受けた傷が痛むが、そんな悠長なことは言ってられない。
リフィーは自らを異形の怪物へと変え、王都で暴れようとしている。
シシバと"もう一人のミライ"、それにサイバラとジフウも援軍に入ってくれているが、いつまでも長引かせるわけにはいかない。
俺はとにかく急いだ。
全ての元凶となっているレイキースを倒し、この大暴動を治めることだけを考えて――
「納得納得……! やはり、あの賢者如きの策略では、公を止めることなどできなかった……か!」
――先を急ぐ俺の前方から、聞きなれた声がした。
だがその声は、俺が"ゼロラとして"聞きなれた声ではない。
かつて【伝説の魔王】と呼ばれていた、"ジョウインとして"聞きなれた声だ。
かつての俺の側近で、今も尚この世界で生き続けている、元魔王軍四天王最後の一人――
「またお前か……ダンジェロ!」
「ハッハッハッ……! ごきげんよう。こうして再び相対できたことを、小生は歓迎しよう……ゼロラ公!」
――"紅の賢者"という偽りの肩書で人の世を生きる男が、俺の目の前に現れた。
今回はフードを最初から被らず、目元に赤い隈のある素顔をそのまま見せている。
玉座の間へと通じる、最後のエントランス。
そこでまるで主を守るかのように、俺の前に立ちはだかっていた。
「……まさか、レイキースが俺の正体を知ったのは……!?」
「流石に公は鋭いな。いかにも。少しばかり、小生が口を挟ませてもらったよ……!」
ダンジェロはニヤつきながら、俺の疑問を肯定する。
よくよく考えてみたら、おかしな話だった。
そもそも、何故レイキースは"俺が【伝説の魔王】だったこと"を知ることができたのか――
その答えが、このダンジェロだ。
俺に改革の戦いに身を投じるように促した時と同じく、今度はレイキースを焚きつけて争いを起こさせている。
全ては動乱を起こし、己の欲望を満たすために――
「お前と遊んでやる時間はない。悪いが今回は、レイキースを優先させてもらう」
今ダンジェロの相手をしている暇などない。
シシバとの戦いで受けたダメージも残っている。
ここは無理にでも突っ切って、ダンジェロとの戦いは避けたいところだ――
「どうやら、あの賢者の策も一定の効果はあったようだな。だが、これを見ても尚、公は小生を見過ごすことができるかな?」
俺が疲弊して、逃げの一手を打とうとしているのを読んだダンジェロ。
そんな俺を引き留めるためなのか、ダンジェロは物陰から一人の女を連れてきた――
「ゼ、ゼロラさん……」
「マカロン!?」
ダンジェロが連れてきたのは、上半身を縄で縛られたマカロンだった。
俺を足止めするために、マカロンを人質にとったのか……!
「ダンジェロ……マカロンを放せ。さもないと、俺はてめえを殺しかねない……!」
「ハッハッハッ! 実にいい顔だ! 怒りに滲んだその表情……愉快愉快!」
ダンジェロは俺の様子を見て、高らかに笑い始める。
俺自身にも分かる。抑えようのない怒りが籠った表情――
その様子を、ダンジェロは楽しげに眺めていた。
「安心したまえ。小生はこの場に、レイキースを割り込ませるような真似はしない。小生とて、あのような小童に横槍は入れられたくないのでね……!」
そう言いながら、ダンジェロは懐から爆弾のようなものを取り出した。
「そ、それは!? <マジックジャマー>!?」
「その通りだとも、少女よ。かの天才科学者、ドクター・フロストより拝借させてもらった物……だ!」
マカロンも知っている<マジックジャマー>と呼ばれるものを、ダンジェロは地面へと叩きつけた。
ジジジ…… ジジジジィ……
「……何をしたんだ?」
「このエントランス一帯での魔法を無効化させてもらった。レイキースは今、王宮中に探知式の結界を張っている。魔力で感知するものだが、こうしてしまえば小生達のことを、感知することはできない……!」
成程。ダンジェロはどうしても、俺とサシで勝負がしたいわけか。
レイキースと組んではいるようだが、やはり目的は完全に別で存在している。
俺が追い込まれ、この動乱の中でどう動くか――
ダンジェロの興味はそこに尽きるのだろう。
「ゼ、ゼロラさん! チャンスですよ! <マジックジャマー>はあらゆる魔法効果を無効にします! このダンジェロって人も、魔王城で戦った時のような魔法は使えません!」
ダンジェロの後ろで囚われたままのマカロンが、俺へのアドバイスのつもりで声をかけてくれた。
――そうか、マカロンは知らないんだな。
いや、ダンジェロの"正体"を知っているのは、最早この世に俺だけか。
「違うんだ……マカロン」
「え……? な、何が違うんですか……?」
【伝説の魔王】ジョウインだった頃の記憶が蘇った今だからこそ、はっきりと分かる。
俺はマカロンにも理解できるよう、そのことを説明し始めた――
「こいつは――ダンジェロは、そもそも魔法なんて"使えない"んだ」
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