427 / 476
第28章 勇者が誘う、最後の舞台
第427話 新たに迎え入れるために
しおりを挟む
「よう、オクバ」
「おお! ゼロラの旦那だど!」
俺はマカロンとミライを連れて、王都の"壁周り"へとやってきた。
俺が最初に訪れた時と違い、今は王国の正式な管轄元、住人達の生活改善が図られている。
一通りの住居が用意され、炊き出しも行われている。
それだけでなく、知性を持った魔族との交友の足掛かりとして、この場も使われ始めている。
オクバもその一人だ。
「あー! オクバのおじちゃんだー!」
「おぉ! ミライ様だど! 本当にご無事で何より―― いでで!?」
「まえばー!」
ミライはオクバのことを覚えていたようだ。
再会を喜んで両手を広げるオクバへ駆け寄り、その出っ歯な前歯を引っ張っている。
懐かしい光景だ。
「あら~? もしかして、夫が言ってたミライ様かしら~?」
「おっとー。この子はー?」
「おっとー。ともだちー?」
さらに後ろから、オクバの奥さんと子供達も姿を見せる。
子供達はミライに興味津々なようだ。
「オクバ。すまないが、お前の子供達とミライを遊ばせてくれないか?」
「お安い御用だど! おでの子供達も、友達がもっと欲しいはずだど!」
「それなら、私が面倒を見ておきますね~」
オクバの奥さんエルフは自身の子供達とミライを連れ、遊びに行ってくれた。
ミライにも友達が必要だし、俺個人としても助かる。
今この場にいるのは、俺とオクバ。そして、マカロンの三人。
「なあ……マカロン。俺はかつて【伝説の魔王】として、お前を奴隷扱いしていた。そのことについて、まずは謝罪させてくれ」
「そ、そうだったど……。おでも謝るど」
「い、いえ! 謝らないでくださいよ! あれはもう、過去の話ですから……」
頭を下げる俺とオクバに、マカロンは両手を振りながら拒否の姿勢をとる。
マカロンなりの気遣いをしてくれているようだが、この件については俺の心の痛みが収まらない――
「そもそも私、魔王軍の奴隷だった頃は、しっかりした生活をさせてもらってましたし」
「……え? そうなのか?」
「はい。確かに労働力にされて自由もありませんでしたが、三食寝床付きで、父の元にいたころよりもマシだったと言いますか……」
――マカロン、意外とまともな生活を送れてたんだな。
そういえば俺、魔王軍の奴隷に関してはオクバに一任してて、魔王時代もほとんど関与してなかったな――
「オクバ。お前、奴隷達にどんな生活をさせてたんだ?」
「おでも人間の生活がよく分からなかったから、当時、ウォウサカで活動してた人間の盗賊に話を聞いたんだど。そしたら――」
『人間なんて、三食寝床が付いてりゃ、どないかなるもんやで』
「――と、言ってたど。それでおでも、その話通りに奴隷に生活させてたんだど」
オクバにアドバイスした、人間の盗賊――
当時、ウォウサカで活動していた――
話し方から、ウォウサカ弁――
――そいつ……シシバじゃね?
「ゼロラさん……。これって私、シシバさんに感謝した方がいいのでしょうか?」
「俺もよく分からないが……とりあえず今度会ったら、礼を言っておく」
こんなところでシシバの名前が出てくるとはな……。
あいつ、昔から手広くやってたんだな……。
「ところで、ゼロラの旦那。今日は何でマカロンも一緒なんだど?」
「ああ、そのことか。いや……ちょっと一緒にいたかったんだ……」
「『一緒にいたかった』……? はは~ん。さては、"コレ"だど?」
オクバの問いに答えた俺に、マカロンに見えないように小指を立てながらオクバが返す。
こいつ……結構人間社会に溶け込んでるな。
俺は一応、元魔王だぞ? お前の元上司だぞ?
いや、それぐらい気軽な方が、俺も助かるのだが。
「まあ……お前の察しの通りだ。ユメのこともあるが、ミライのこともある。それに……俺も個人的に、マカロンとなら一緒にやっていけそうな気がしている」
「なるほどだど。おでが口を挟む話ではないと思うどが、ユメ様ならゼロラの旦那とミライ様の幸せを第一に考えるはずだど」
オクバは俺の気持ちを察し、深い言及は避けてくれた。
ミライはマカロンに非常に懐いている。
そんなマカロンの姿に、俺も好意を抱いている。
ユメのことを忘れるわけではないし、リョウが婚約したから妥協するわけでもない。
ただ、俺とミライには今後もマカロンのことが必要だし、マカロンと一緒にいたいという考えには行きついている。
オクバも言う通り、ユメの思いを汲むならば、俺はマカロンにこの思いを伝えたい――
「ゼロラさん? オクバさん? さっきから二人で、何を話しているのですか?」
そんな俺とオクバのコソコソ話が気になったのか、マカロンが顔をのぞかせる。
「ゼロラの旦那。告白するなら、今がチャンスだど。ミライ様の面倒はおでが見ているど。二人で歩きながら、いい雰囲気になったところでアタックするど」
「お前……元々は俺が用意したお見合い結婚だろうが……。でもまあ、お前の言う通りだ。すまないが、ミライのことは頼んだぞ」
ここはオクバの好意に甘えるとしよう。
オクバもついてくれているし、今の"壁周り"の治安なら大丈夫だろう。
俺とマカロンで近くをブラつきながら、告白のチャンスを伺ってみよう。
「マカロン。少し二人だけで、近くを歩かないか?」
「え!? あ! はいぃ!」
何故か声が上ずっているが、マカロンは了承してくれた。
二人で散歩でもしながら、どうにかしてタイミングを掴もう。
「ゼロラの旦那……応援してるど!」
親指を立てて見送るな、オクバ。
「おお! ゼロラの旦那だど!」
俺はマカロンとミライを連れて、王都の"壁周り"へとやってきた。
俺が最初に訪れた時と違い、今は王国の正式な管轄元、住人達の生活改善が図られている。
一通りの住居が用意され、炊き出しも行われている。
それだけでなく、知性を持った魔族との交友の足掛かりとして、この場も使われ始めている。
オクバもその一人だ。
「あー! オクバのおじちゃんだー!」
「おぉ! ミライ様だど! 本当にご無事で何より―― いでで!?」
「まえばー!」
ミライはオクバのことを覚えていたようだ。
再会を喜んで両手を広げるオクバへ駆け寄り、その出っ歯な前歯を引っ張っている。
懐かしい光景だ。
「あら~? もしかして、夫が言ってたミライ様かしら~?」
「おっとー。この子はー?」
「おっとー。ともだちー?」
さらに後ろから、オクバの奥さんと子供達も姿を見せる。
子供達はミライに興味津々なようだ。
「オクバ。すまないが、お前の子供達とミライを遊ばせてくれないか?」
「お安い御用だど! おでの子供達も、友達がもっと欲しいはずだど!」
「それなら、私が面倒を見ておきますね~」
オクバの奥さんエルフは自身の子供達とミライを連れ、遊びに行ってくれた。
ミライにも友達が必要だし、俺個人としても助かる。
今この場にいるのは、俺とオクバ。そして、マカロンの三人。
「なあ……マカロン。俺はかつて【伝説の魔王】として、お前を奴隷扱いしていた。そのことについて、まずは謝罪させてくれ」
「そ、そうだったど……。おでも謝るど」
「い、いえ! 謝らないでくださいよ! あれはもう、過去の話ですから……」
頭を下げる俺とオクバに、マカロンは両手を振りながら拒否の姿勢をとる。
マカロンなりの気遣いをしてくれているようだが、この件については俺の心の痛みが収まらない――
「そもそも私、魔王軍の奴隷だった頃は、しっかりした生活をさせてもらってましたし」
「……え? そうなのか?」
「はい。確かに労働力にされて自由もありませんでしたが、三食寝床付きで、父の元にいたころよりもマシだったと言いますか……」
――マカロン、意外とまともな生活を送れてたんだな。
そういえば俺、魔王軍の奴隷に関してはオクバに一任してて、魔王時代もほとんど関与してなかったな――
「オクバ。お前、奴隷達にどんな生活をさせてたんだ?」
「おでも人間の生活がよく分からなかったから、当時、ウォウサカで活動してた人間の盗賊に話を聞いたんだど。そしたら――」
『人間なんて、三食寝床が付いてりゃ、どないかなるもんやで』
「――と、言ってたど。それでおでも、その話通りに奴隷に生活させてたんだど」
オクバにアドバイスした、人間の盗賊――
当時、ウォウサカで活動していた――
話し方から、ウォウサカ弁――
――そいつ……シシバじゃね?
「ゼロラさん……。これって私、シシバさんに感謝した方がいいのでしょうか?」
「俺もよく分からないが……とりあえず今度会ったら、礼を言っておく」
こんなところでシシバの名前が出てくるとはな……。
あいつ、昔から手広くやってたんだな……。
「ところで、ゼロラの旦那。今日は何でマカロンも一緒なんだど?」
「ああ、そのことか。いや……ちょっと一緒にいたかったんだ……」
「『一緒にいたかった』……? はは~ん。さては、"コレ"だど?」
オクバの問いに答えた俺に、マカロンに見えないように小指を立てながらオクバが返す。
こいつ……結構人間社会に溶け込んでるな。
俺は一応、元魔王だぞ? お前の元上司だぞ?
いや、それぐらい気軽な方が、俺も助かるのだが。
「まあ……お前の察しの通りだ。ユメのこともあるが、ミライのこともある。それに……俺も個人的に、マカロンとなら一緒にやっていけそうな気がしている」
「なるほどだど。おでが口を挟む話ではないと思うどが、ユメ様ならゼロラの旦那とミライ様の幸せを第一に考えるはずだど」
オクバは俺の気持ちを察し、深い言及は避けてくれた。
ミライはマカロンに非常に懐いている。
そんなマカロンの姿に、俺も好意を抱いている。
ユメのことを忘れるわけではないし、リョウが婚約したから妥協するわけでもない。
ただ、俺とミライには今後もマカロンのことが必要だし、マカロンと一緒にいたいという考えには行きついている。
オクバも言う通り、ユメの思いを汲むならば、俺はマカロンにこの思いを伝えたい――
「ゼロラさん? オクバさん? さっきから二人で、何を話しているのですか?」
そんな俺とオクバのコソコソ話が気になったのか、マカロンが顔をのぞかせる。
「ゼロラの旦那。告白するなら、今がチャンスだど。ミライ様の面倒はおでが見ているど。二人で歩きながら、いい雰囲気になったところでアタックするど」
「お前……元々は俺が用意したお見合い結婚だろうが……。でもまあ、お前の言う通りだ。すまないが、ミライのことは頼んだぞ」
ここはオクバの好意に甘えるとしよう。
オクバもついてくれているし、今の"壁周り"の治安なら大丈夫だろう。
俺とマカロンで近くをブラつきながら、告白のチャンスを伺ってみよう。
「マカロン。少し二人だけで、近くを歩かないか?」
「え!? あ! はいぃ!」
何故か声が上ずっているが、マカロンは了承してくれた。
二人で散歩でもしながら、どうにかしてタイミングを掴もう。
「ゼロラの旦那……応援してるど!」
親指を立てて見送るな、オクバ。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる