記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第414話 追憶の深部

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 黄色い人影――サイバラさんの化身と思われる人影と戦った後、、自分とお姉ちゃんは再び先へと進みました。

「本当に何もないわね……。この幻想的な光景しか、辺り一面には広がってないし……」
「でももしかすると、さっきのような人影がまた出てくるかもしれません」

 お姉ちゃんは怯えつつも、この幻想的な光景を満喫しながら歩いています。
 自分ももっとこの光景を眺めていたいですが、そうもいきません。
 先程の黄色い人影と同じように、また別の誰かが襲ってくるかもしれません。



 ――いえ、おそらくはまた、襲ってくるはずです。
 自分にも確証はありませんが、この世界は自分の深層心理が関わっているように感じます。

 先程、自分はサイバラさんの化身と思われる影と戦いました。
 あの時放った拳の一撃は、サイバラさんとの戦いでの経験から得た力です。

 拳への力の込め方――
 強くなった自分の力の使い方――

 あの戦いで負けはしましたが、自分はさらに成長することができました。
 自分の内にある、"もっと強くなりたい"という願望――
 それがあの黄色い人影を、自分の前に発現させたように感じます。



「ラ、ラルフル! また誰かいるわ!」
「本当ですね……。今度は青い人影ですか……」

 先程と同じような広い空間に、今度は青く光る人影が現れました。
 これもまた同じように、見ただけでは誰なのか分かりません。

 ――そしてやはりこちらが反応を示すと、黄色い人影と同じように襲ってきました。

「お姉ちゃん! 下がっていてください!」
「う、うん!」

 青い人影は、自分だけを狙ってきます。
 両腕を並行にし、手の平をこちらに向けた構え――

 ――この構えは、ジフウさんのものです。

「その両手は盾、両足が矛―― ならば!」

 自分は向かってくる青い人影に対し、先手を打ちます。
 狙うは滑り込んでからの足払い。

 そして――

「テヤァアア!!」

 足払いが決まって倒れ込む人影に、こちらから掴みに行って投げ飛ばします。
 奇襲とも言える一連の流れでしたが、うまく決まりました。

 投げ飛ばされた青い人影は霧散し、黄色い人影と同じように、自分の体へと取り込まれて行きます。

「す、すごいわね、ラルフル……。動き方が完全に、熟練の武闘家みたい……!」
「ありがとうございます、お姉ちゃん。ゼロラさんの傍で鍛えてきた甲斐がありました」
「それにしても、さっきの黄色い人影といい、ラルフルに入り込んで行ったような……?」
「大丈夫ですよ。これは自分の"経験"のようなものです」

 お姉ちゃんも称えてくれている通り、自分は確実に強くなっています。
 青い人影も自分の中へと入りこむことで、一層とその実感が増していきます。

 最初はゼロラさんの強さへの憧れからでした。
 魔法使いとしての道を閉ざされ、武闘家を目指した自分――
 魔力は失った時は随分と絶望しましたが、今はこうして胸を張って『あの頃よりも強くなった』と言えます。



 そして、今の自分には"ある願い"があります。
 ルクガイア王国の改革という大仕事が終わり、ゼロラさんの記憶の件も片付いた今、どうしても成し遂げたいこと――



 ――『ゼロラさんを超えたい』



 最初は絶対に届かない、雲の上の存在だと思っていました。
 ですが、今の自分にならば手が届きそうです。

 サイバラさんの化身、ジフウさんの化身。
 二人と戦って、そう実感してきました。
 あの二人は自分が思う中で、ゼロラさんと同格の実力を持った人です。



 ――そして、自分がそう考えている人は、もう一人います。



「……ラルフル。また人影が見えてきたわ」
「今度は赤い人影ですか……」

 自分とお姉ちゃんの前に、新たな人影が現れます。
 今度は赤く光った人影――
 例によって見ただけでは誰なのか判断できませんが、おそらくこの人影は、"あの人"の化身です。

「あなた相手には、下手に待つ戦い方はしないほうがいいですね」

 自分は地面を蹴り、先に動きます。
 赤い人影も、それに反応して向かってきます。

「な、何あの人影!? 速い!?」

 お姉ちゃんも驚いている通り、相手の動きはかなり速いです。
 ひょっとすると、お姉ちゃんには瞬間移動しているように見えているかもしれません。

「最初に見たときは自分も驚きましたが――今なら追いつけます!」

 自分も赤い人影の動きに負けじと、猛スピードでラッシュを仕掛けます。
 互いに高速での攻防戦――

 王宮を脱出する時は、ただ驚いてみていることしかできませんでした。
 ですが、改革の戦いの前日に手合わせした時は、自分でも追いつけるようになっていました。



 ――もう、あなたにだって負けませんよ。シシバさん。



「ハァアア!!」


 ドゴォン!


 自分の拳はシシバさんの化身と思われる、赤い人影の頬へとめり込みました。
 そしてこれまでと同じように、霧散して自分の中へと入りこんで行きました。

「自分は……本当に強くなれたのですね……」

 これまで自分の内に入り込んで行った人影――
 自分のこれまでの"経験"に対して、新たに見つめ合った機会――

 それらが自分に、大きな自信を与えてくれています。





「……ねえ、ラルフル。あそこにも一人、人影が見えない?」
「本当ですね……。一体誰でしょうか……?」

 お姉ちゃんに言われて奥の方を見ると、もう一人誰かが立っていました。

 この星が瞬く夜空のような幻想的な空間に用意された、透明で円形の闘技場のような足場――
 その人は自分達に背を向け、星を眺めているようでした。



 ――ただ、その人はこれまでの人影とは違います。
 ハッキリとその姿を、細部まで捉えることができます。

 後ろ姿から分かるのは、黒くて長い髪をした女性であること――
 身に着けている衣装はレイキース様のものと同じ、"勇者専用の装束"であること――





「よくぞここまで来てくれました。私が干渉できたのは、あなた達姉弟二人だけみたいですね」

 その人はゆっくりとこちらへと向き直ります。

 勇者の姿をし、魔王城で見た写真と同じ姿をした人――



 まさか、今自分とお姉ちゃんの目の前にいる人は――










「私の名前は、ユメ。先代勇者――いえ、【慈愛の勇者】と説明した方が、分かりやすいでしょうか?」
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