記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第27章 追憶の番人『殿』

第397話 急転直下の玉座の間

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「皆様。今回は僕の申し出でこの玉座の間に来ていただき、ありがとうございます」

 俺と国王は玉座の間へとやってきた。
 呼び出した張本人であるロギウスも、他の関係者と一緒に玉座の間で待っていた。

「ロギウス殿下。なんで、俺とシシバが呼ばれたんでしょうか?」
「儲け話でっか? 今のギャングレオ盗賊団なら、色んな事業を請け負えまっせ」
「俺とお前が玉座の間に呼ばれて、仕事の話ってこともないだろ……。後、いい加減に『盗賊団』を名乗るのやめろ」
「そこは検討中や。次の新しい名前が思い浮かばへん」

 俺と国王以外にロギウスに呼ばれたのは、ジフウとシシバの二人。
 一応この国にとって重要な存在の二人だが、ここにロギウスが国王に会わせたい人となると、意味が分からない。

 後、シシバ。
 別に"ギャングレオ盗賊団"の名称については、"盗賊団"だけ抜いて、"ギャングレオ"とだけ名乗ればいいだろう。

「息子よ。それで、お主が余に会わせたいというのはどなただ?」
「もうじき来られると思います。きっと父上も気に入られます」

 国王は不安な表情を浮かべながら、ロギウスの様子を伺っている。
 俺もロギウスの様子を見るが、どこか嬉しそうだ。
 今か今かと目的の人物が来るのを、待ちわびているように見える。



 カツ カツ カツ



 そうしていると、玉座の間にやって来る誰かの足音が聞こえてきた。
 ここにいる俺を含む五人以外の誰か。
 このルクガイア城玉座の間にやって来たのは――



「うわ。本当に兄さん達やゼロラ殿までいるよ。でも、ボクにとってはちょうどいい機会だね」

 ――リョウだった。
 何やら荷物を携え、一人で玉座の間にやってきた。

「リョウ。その荷物はどうしたんだ?」
「これかい? 実はね……ボク、旅に出ようと思ってさ……」

 俺に質問に答えるリョウの表情は、どこか暗い。
 リョウも元々は流れ者だったらしいが、今はルクガイア王国での生活に馴染んでいる。
 それがまた、なんで急に旅に――

「旅の目的は何だ?」
「目的ってほどのことはないよ。……まあ、強いて言うなら、"傷心旅行"……かな」
「あっ……」

 リョウが『傷心旅行』と言って、俺はやっと気が付いた。
 リョウは俺に妻がいて、娘もいたから別れを言いに来たのだ。
 曲がりになりにもユメの代わりとなることは、リョウにとって超えたくない一線なのだろう。
 記憶を失っていたとはいえ、俺はリョウを傷つけてしまったのか……。

「すまない……リョウ。お前の気持ちは知っていたが、お前を傷つけるつもりは――」
「謝らないでくれ、ゼロラ殿。これはボクの個人的な気持ちの問題だ。しばらくこの国を離れて、気持ちの整理が付いたら戻ってくるよ」

 リョウは笑顔を作ってはいるが、その表情はどこか悲し気だ。
 リョウを悲しませてしまったのは、俺が原因だ。
 そんな俺に、旅立つリョウを止める資格はない――

「リョウ。旅に出るのは構わないが、他所で面倒を起こすなよ?」
「気が向いたらいつでも帰ってこいや。俺も兄貴も、当分はこの国におるからな」

 リョウの兄であるジフウとシシバも心配しながらも、止めるようなことはしない。
 どこか不安な様子を見せながらも、妹の旅立ちを見送っている。

 いつの日か、リョウには俺よりもいい相手が見つかるだろう。
 こいつはなんだかんだで、魅力的な人間だ。
 リョウが旅に出る原因を作った俺にできるのは、今後のリョウの幸せを願うだけ――



「さてと……。折角玉座の間まで来たんだ。陛下と殿下にも挨拶していくよ」

 俺とジフウとシシバの三人との話を終えたリョウは、玉座の方へと歩き出した。
 仮にもルクガイア王国で大神官という職に就き、魔幻塔の管理まで任されていた身分だ。
 そういうところはきっちりと、礼儀を通す必要があるのだろう。





 ――だが、待てよ?
 そもそもこの玉座の間には、ロギウスが呼んだ相手が来るんだったよな?
 ロギウス好みの女性が来ると思っていたが、ここにやって来たのはリョウだ。
 リョウはロギウスの好みとは異なる。悲しいことに、胸がない。



 ――いや、そういえばいつだったかロギウスが酔っぱらって時、俺に言ってたな。
 その時の好みの女性の条件では、胸以外はリョウが該当してたんだっけ?





 ――ん? まさか――





「ルクベール三世陛下、ロギウス殿下。急に呼ばれて申し訳ございませんが、ボクはこれから旅に出ます。要件は分かりませんが、ボクがお応えするわけには――」

 リョウは国王とロギウスに、謝罪と挨拶をして早々に立ち去ろうとしていた。

 そんな時、ロギウスがリョウの元へと歩み寄る。

「やっと会えた……! 通信魔法で姿を見た時から、ずっと待ちわびていた……!」

 ロギウスの表情はどこか喜びに満ちている。
 両手を広げ、リョウを迎え入れるように近づいていく。

「ん? どうしたのかな? ロギウス殿下?」

 リョウはキョトンとした表情で首をかしげている。
 いや、まさかとは思うが、ロギウスがここに呼んだのって――





「リョウ大神官。僕はあなたに惚れました。どうかこの僕と結婚してください」

 そう言ってロギウスは膝をつきながら、リョウの手をとった。
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