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第26章 追憶の番人『斎』

第388話 ミライちゃん・エブリシング

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「ほら、ミライちゃん。この人がミリアさんですよ」
「へ~。話には聞いてたけど、この人がゼロラさんの娘さんなのね。アタシはミリア。よろしくね、ミライちゃん」

 ゼロラさんが出かけた後、自分の元にやってきたミリアさん。
 そんなミリアさんに、ミライちゃんを紹介してみました。

 ミライちゃんは自分の足に掴まりながら、後ろからひょっこり顔を出しています。

「おねえちゃんがラルフルにいちゃんの"大事な女性"?」
「そ、そうね。ア、アア、アタシとラルフルはちゅ、ちゅき合ってるから」

 そしてミライちゃんから飛ばされる、ミリアさんへの純粋な質問。
 子供というのは恐ろしいものです。ミリアさんのことなどお構いなしです。
 それを聞いたミリアさんの言葉はしどろもどろ。噛みまくってます。

「ねーねー! ミリアおねえちゃん! おかし持ってる!? おかしー!」

 そしてそんなミリアさんの姿を見ても、さらにお構いなしにミライちゃんはおねだりします。
 この子、結構食いしん坊ですね。
 食べることに慣れてきましたし、食べ盛りでもあるのでしょう。

「え、ええ、持ってるわよ。実は今日のために、クッキーを焼いてきたんだけど――」
「え? ミリアさんが?」

 その言葉を聞いた瞬間、自分の背筋が凍りました。
 ミリアさんのお料理スキルは壊滅的です。
 かつてガルペラ侯爵に教えてもらったようですが、その時も結局完成には至りませんでした。

 あれから練習したようですが、果たして――

「こ、これ。よかったら食べてみる……?」
「わはーい! クッキー! お星さまの形ー!」
「……確かにお星さまの形ですね」

 ミリアさんが取り出したクッキーは、確かに綺麗な星形になっています。



 ただ、気になるのは――

「ミリアさん。このクッキーはチョコクッキーですか?」
「……いえ。普通のバタークッキーよ」
「じゃあ、なんでこんなに黒いのですか?」
「…………」

 返事をお願いします! ミリアさん!

 普通のクッキーにしては黒すぎますよね!?
 これ、どう見ても焼きすぎですよね!?
 なのに形だけは綺麗って、どういうことですか!?
 逆に器用ですよ! 何をどうしたらこんな芸当ができるのですか!?

「むむ~……」

 ミライちゃんも真っ黒なお星さまクッキーに喜んでいましたが、これが普通のクッキーだと知って怖気づいてしまいました。
 頭の先端にある二本のアホ毛で、ミリアさんのクッキーをツンツンしています。

 そのアホ毛、触覚か何かですか……?



「ん~~……あむぅ!」

 しかしミライちゃんは意を決して、そのクッキーを口に入れました。
 目を瞑りながら、頑張ってモグモグしています。





「に……にぎゃい……」

 ……でしょうね。
 もうこれ、クッキーじゃなくて完全に炭ですもん。
 苦くて当然です。

「むぐむぐ……あむぅ……!」

 しかしそんな炭クッキーを、ミライちゃんはさらに頬張り始めます。

「ミ、ミライちゃん!? 無理して食べなくてもいいんですよ!?」
「そ、そうよ!? さあ、吐き出して! お腹に悪いから吐き出して!」

 自分もミリアさんも驚いてしまいました。
 ミリアさんも自らが作ったクッキー――のような何かなんてお構いなしに、慌ててミライちゃんに吐き出させようとします。



「だ、だって、『食べ物を粗末にするな。お残しはいけません』って、ママが言ってたから……」



 この子、メチャクチャいい子ですね。
 ちゃんと亡くなったお母さんの言いつけを守っています。
 自分は思わず言葉を失ってしまいました。

「う……うぅ……ミライちゃん……! アタシ、今度はちゃんとしたクッキー焼いて来るから……!」

 ミリアさんもミライちゃんの姿を見て、涙を禁じ得ないようです。
 そうですね。ミリアさんがクッキーをちゃんと作れれば、こんな涙ぐましい場面もなかったですし。

 ……とりあえず、味見はしてください。



「また後で、マカロンおねえちゃんのクッキーも食べる! あまいクッキー、食べたい!」
「あれ? そういえばマカロンさんはどうしたの?」

 そんなミリアさんのお料理不安をしていたら、お姉ちゃんの居場所を尋ねられました。

「お姉ちゃんは今日はリョウ大神官に会いに行ってます。なんだか二人だけで深刻な話をしたいとか……」
「深刻な話……。もしかして、ゼロラさん絡みかしら?」

 おそらくはミリアさんの言う通りでしょう。
 ゼロラさんは元々【伝説の魔王】ジョウインであり、【慈愛の勇者】ユメ様という奥さんがいました。
 そして、ミライちゃんという娘さんもいます。

 お姉ちゃんもリョウ大神官もゼロラさんのことを好いていますが、どうなるのでしょうか……?



「むぐん! 食べた! ごちそうさま!」

 そんな心配を他所に、ミライちゃんは本当に炭クッキーを食べ終えてしまいました。
 後でお腹を壊さないか心配です。

「にがい! まずかった! もう食べたくない!」
「ごふぅ!?」

 そしてミライちゃんからドストレートな味の感想。
 子供の素直さは時として残酷です。
 ミリアさん、なんだか吐血しそうですね……。
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