記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
386 / 476
第26章 追憶の番人『斎』

第386話 対決・理刀流宗家②

しおりを挟む
「これが理刀流宗家――イトー理刀斎の実力か……!」

 戦慄せずにはいられない。
 イトーさんは俺がこれまで戦ってきた、どんな剣士よりも強い。
 額から汗がにじみ出る――

「どうした? これで終わりにするつもりか?」

 そんな俺の姿を、イトーさんは真剣に見ながら口を開く。

 この人の全力は底が見えない。
 イトーさんの思いを抜きにしても、手を抜いて勝てる相手じゃない。
 <理刀流>の技の質はユメ以上――

 強いて弱点があるとすれば、"速さ"だ。
 イトーさんは年齢とブランクもあってか、速さの面ではユメに劣る。

 だが、<理刀流>には速さに特化した<居合>の技もある。
 イトーさんも自らの衰えを計算した上で、一撃必殺用にチャンスを見ているのだろう。
 いつどこでイトーさんがその技を使ってくるか――



「ゼヤァア!」
「オラァア!」

 その後も俺とイトーさんの攻防は続く。
 俺の拳とイトーさんの刀がぶつかり合い、二人だけの店内に衝突音が鳴り響く。

 俺とイトーさんが初めて出会ったこの場所――
 俺が人間になって、初めて出会った人間――イトーさん。

 そんな人とこうして戦うことになるとは、思ってもみなかった。
 だが、それがイトーさんの望みであり、【伝説の魔王】だった俺が果たすべき宿命ならば――



「オルァアア!!」

 ――全力で応えるしかない。
 その思いを乗せながら、俺はイトーさんへと下段回し蹴りを放った。

「だから、詰めが甘いんだよ! 俺が下段なら苦手とでも思ったか!?」


 ――ガギィイン!!


 だがその蹴りを、イトーさんは床に刀を突きさす形で立てて防いでくる。
 あくまで剣士のイトーさんだが、下段の蹴り技への対策もできている。
 イトーさん程の達人レベルになれば当然か――



 そして、次に来る技は――



「ゼイィィヤァアッ!!」



 来た! イトーさんが腰にある二本目の刀を抜く!
 一本目の刀は俺の攻撃を防ぐための囮だ。
 一本目を床に刺したまま、二本目の刀で<居合>へと移る!



 イトーさんが刀を二本携えている時から、いつか使ってくる気はしてた。
 速さでユメに劣る分、その技で手数を補う戦術――

「オラァアア!!」
「なっ!? 読まれた――」

 俺はそんなイトーさんの<居合>を、刀ごと蹴り飛ばして阻止する。
 俺がイトーさんの動きを読んでいたからこそできた芸当――
 もし俺が<理刀流>の――ユメとの記憶を取り戻していなかったら、防げなかっただろう。


 ガキンッ!


 そしてさらに、俺は床に刺さった一本目の刀も蹴り飛ばす。



 これで――

「降参してくれるか? イトーさん」
「……はぁ~。やっぱ、ユメみたいに素早く動けないのはキツイ。ああ、降参だ」
「イトーさんがもう十年若ければ、勝てるか分からなかったな」
「へへっ。一丁前の口を聞いてくれるな、お前さんは……」

 イトーさんはあっさり負けを認めてくれた。
 元々この人は『俺がどういう人間か』を改めて確かめるために、こうして勝負を挑んできたんだったな――

「イトーさん。俺はアンタの眼鏡には適ったのか?」
「ああ、十分だ。もっとも、お前さんがどういう人間かなんて、最初から分かってた。……ただ俺自身、"大事な宝"を奪われた恨みみたいなのを、どこかにぶつけたかっただけさ……」

 イトーさんは俺のことを認めてくれながら、寂しそうな顔をして椅子に腰かける。
 俺もそんなイトーさんの向かいに椅子を持ってきて、同じように腰かける。



「それじゃあ、イトーさん。改めて俺と話をしてくれるな?」
「ああ。だがその前に、一応の確認をしておく。ゼロラ、お前さんは俺の正体には気づいてるんだな?」

 イトーさんは念を押すかのように、俺へと尋ねてきた。

 イトーさんの目を見れば、何を聞きたいのかが分かる。
 間違いなく、ユメのことだ。

 ユメはかつて、自らを『東洋の国の出身』だと言っていた。
 イトーさんも同じく、東洋の出身だ。



 そして、ユメは『剣術は父親に教えてもらった』とも――








「イトーさん。あんたは……ユメの父親なんだな?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...