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第26章 追憶の番人『斎』
第383話 理の剣豪
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「成程……。ゼロラの正体は、【伝説の魔王】ジョウインが転生した姿だったのか……」
「ああ。流石の俺も驚いたが、シシバの報告だと事実らしいぞ。イトー理刀斎」
俺はバクトからゼロラの話を聞いた。
まさか、ゼロラの正体があの【伝説の魔王】だったとはな……。
つまり、ゼロラはユメの旦那さんだったわけか。
「……おーい、お前ら。話をするのはいいけどさ~、なーんで俺が入ってる牢屋の前でするんだ~?」
俺とバクトが話していると、横にいたフロストが牢屋越しに口を挟んできた。
こいつ、今もちゃんと服役してるんだな。
一度陛下の意向で外に出たらしいが、律儀な奴だ。
「黙れ、バカフロスト。貴様が牢にいるせいで、俺達"共通の目的"を持った四人は、この魔幻塔でしか集まれなくなったんだろうが」
「あ~? なんだー、アホバクト~? そもそも集まるならよー、ロギウスも連れて来いよな~」
バクトとフロストはいつもと変わらず、睨み合いながらお互いをののしり合っている。
フロストも言う通り、ロギウスは不在だ。
公務が忙しいため、なかなか時間を作れずにいる。
それでもこうしてロギウス以外の"共通の目的"を持った三人が集まったのは、ゼロラの正体が判明したからだ。
「しっかし、俺は納得だな~。ゼロラがあの【伝説の魔王】だったことによ~」
「なんで納得するんだ?」
「【伝説の魔王】ジョウインってのは、俺が調べた限りでも結構人間臭くてな~――」
フロストは俺とバクトに自らが調べ、そして俺達に隠していた【伝説の魔王】の情報を話し始めた。
【伝説の魔王】ジョウインは、決して傲慢な暴君ではなかった。
自らの同胞のことを思い、ユメのことも本気で愛していたことが伺える。
今のゼロラを見れば、そのことにも納得できる。
「フロストよ。お前さん、随分と俺達に隠し事をしてたんだな」
「クーカカカ~。聞かれなかったからな~。そもそも、俺はユメ様よりも【伝説の魔王】に興味があったから、こうして協力したんだぜ~?」
まったく、どこまでも食えない男だ。
「だからよ~。俺はゼロラとその娘に、"追憶の領域"へ案内しようと思ってるんだがよ~」
「貴様と同意見なのは癪に障るが、俺も同じ気持ちだ」
フロストもバクトも、ゼロラを"追憶の領域"に入れることに賛成している。
ユメが死んだあの日から、俺達四人が守り続けた"追憶の領域"――
ユメの夫であったゼロラを招き入れるのは当然の流れ。
それに、この二人も家族絡みで色々あった立場だ。そう思うのが人情だろう。
それでも、俺はまだ認めない。
「ロギウスがこの場にいないんだ。"追憶の領域"にゼロラを入れるのは待ってもらえねえか?」
「全員の賛同が欲しいと? いや……イトー。貴様も何か俺達に隠していることがあるな?」
「あるな~、ありそーだな~。俺のことをどーこー言えねーな~?」
バクトもフロストも、俺の考えをある程度読んでいる。
所詮は俺も、この二人とは『同じ穴のムジナ』だな。
「どうやら、俺にもお前さん達のような、"個人的な目的"ができたようだ」
「今更か……。ゼロラが【伝説の魔王】だと知って、何か恨み言でもあるのか?」
恨み言……か。確かにそうかもしれないな。
俺にとって、"一番の宝"を奪った【伝説の魔王】ジョウイン――現在のゼロラ。
俺はあいつに確認しないといけないことがある。
「よー、イトーのおっさん。まさかその"腰にある二本の刀"で、ゼロラを殺す気じゃねーだろーな~?」
「ああ、これか。……一応、殺す気はねえよ。一応な」
俺はフロストに言われた二本の刀の内の一本を手に取る。
鞘からわずかに刃を出し、ジッと見つめる。
ここまで刀に意識を集中させるのはいつ以来だろうか。
もうすでに一線を退いた身だが、ゼロラの正体が分かった以上、俺は今一度戻る必要がある。
【慈愛の勇者】ユメと同じ、剣術流派<理刀流>の宗家、【理の剣豪】イトー理刀斎に――
「さてと……。そろそろ行くか」
「イトー。貴様が何をする気かは知らんが、あまりやり過ぎないことだな」
「やり過ぎるどころかよー、やられるんじゃねーか~?」
バクトとフロストも俺を止める気はないらしい。
どうにもこの二人には勘づかれているようだ。
俺がこれからしようとしていることに――
そして、"俺のもう一つの正体"については、ゼロラも勘付いているだろう。
俺の予想では、もうじきあいつの方から俺の元へと現れる。
――そして、俺とゼロラは戦うことになる。
「まあ、お前さん達に迷惑はかけねえよ。俺の要件はすぐに終わる。その後で、ロギウスともまた話し合うとするか」
俺はバクトとフロストを残し、魔幻塔を後にする。
■
外に出ると、雨が降り始めていた。
今から宿場村に戻れば、夜になるだろう。
おあつらえ向きだ。
あいつと初めて会った時と、同じ舞台で戦えるのか――
「ちょいと俺の私怨に付き合ってもらおうか。ゼロラ――いや、【伝説の魔王】ジョウイン……!」
「ああ。流石の俺も驚いたが、シシバの報告だと事実らしいぞ。イトー理刀斎」
俺はバクトからゼロラの話を聞いた。
まさか、ゼロラの正体があの【伝説の魔王】だったとはな……。
つまり、ゼロラはユメの旦那さんだったわけか。
「……おーい、お前ら。話をするのはいいけどさ~、なーんで俺が入ってる牢屋の前でするんだ~?」
俺とバクトが話していると、横にいたフロストが牢屋越しに口を挟んできた。
こいつ、今もちゃんと服役してるんだな。
一度陛下の意向で外に出たらしいが、律儀な奴だ。
「黙れ、バカフロスト。貴様が牢にいるせいで、俺達"共通の目的"を持った四人は、この魔幻塔でしか集まれなくなったんだろうが」
「あ~? なんだー、アホバクト~? そもそも集まるならよー、ロギウスも連れて来いよな~」
バクトとフロストはいつもと変わらず、睨み合いながらお互いをののしり合っている。
フロストも言う通り、ロギウスは不在だ。
公務が忙しいため、なかなか時間を作れずにいる。
それでもこうしてロギウス以外の"共通の目的"を持った三人が集まったのは、ゼロラの正体が判明したからだ。
「しっかし、俺は納得だな~。ゼロラがあの【伝説の魔王】だったことによ~」
「なんで納得するんだ?」
「【伝説の魔王】ジョウインってのは、俺が調べた限りでも結構人間臭くてな~――」
フロストは俺とバクトに自らが調べ、そして俺達に隠していた【伝説の魔王】の情報を話し始めた。
【伝説の魔王】ジョウインは、決して傲慢な暴君ではなかった。
自らの同胞のことを思い、ユメのことも本気で愛していたことが伺える。
今のゼロラを見れば、そのことにも納得できる。
「フロストよ。お前さん、随分と俺達に隠し事をしてたんだな」
「クーカカカ~。聞かれなかったからな~。そもそも、俺はユメ様よりも【伝説の魔王】に興味があったから、こうして協力したんだぜ~?」
まったく、どこまでも食えない男だ。
「だからよ~。俺はゼロラとその娘に、"追憶の領域"へ案内しようと思ってるんだがよ~」
「貴様と同意見なのは癪に障るが、俺も同じ気持ちだ」
フロストもバクトも、ゼロラを"追憶の領域"に入れることに賛成している。
ユメが死んだあの日から、俺達四人が守り続けた"追憶の領域"――
ユメの夫であったゼロラを招き入れるのは当然の流れ。
それに、この二人も家族絡みで色々あった立場だ。そう思うのが人情だろう。
それでも、俺はまだ認めない。
「ロギウスがこの場にいないんだ。"追憶の領域"にゼロラを入れるのは待ってもらえねえか?」
「全員の賛同が欲しいと? いや……イトー。貴様も何か俺達に隠していることがあるな?」
「あるな~、ありそーだな~。俺のことをどーこー言えねーな~?」
バクトもフロストも、俺の考えをある程度読んでいる。
所詮は俺も、この二人とは『同じ穴のムジナ』だな。
「どうやら、俺にもお前さん達のような、"個人的な目的"ができたようだ」
「今更か……。ゼロラが【伝説の魔王】だと知って、何か恨み言でもあるのか?」
恨み言……か。確かにそうかもしれないな。
俺にとって、"一番の宝"を奪った【伝説の魔王】ジョウイン――現在のゼロラ。
俺はあいつに確認しないといけないことがある。
「よー、イトーのおっさん。まさかその"腰にある二本の刀"で、ゼロラを殺す気じゃねーだろーな~?」
「ああ、これか。……一応、殺す気はねえよ。一応な」
俺はフロストに言われた二本の刀の内の一本を手に取る。
鞘からわずかに刃を出し、ジッと見つめる。
ここまで刀に意識を集中させるのはいつ以来だろうか。
もうすでに一線を退いた身だが、ゼロラの正体が分かった以上、俺は今一度戻る必要がある。
【慈愛の勇者】ユメと同じ、剣術流派<理刀流>の宗家、【理の剣豪】イトー理刀斎に――
「さてと……。そろそろ行くか」
「イトー。貴様が何をする気かは知らんが、あまりやり過ぎないことだな」
「やり過ぎるどころかよー、やられるんじゃねーか~?」
バクトとフロストも俺を止める気はないらしい。
どうにもこの二人には勘づかれているようだ。
俺がこれからしようとしていることに――
そして、"俺のもう一つの正体"については、ゼロラも勘付いているだろう。
俺の予想では、もうじきあいつの方から俺の元へと現れる。
――そして、俺とゼロラは戦うことになる。
「まあ、お前さん達に迷惑はかけねえよ。俺の要件はすぐに終わる。その後で、ロギウスともまた話し合うとするか」
俺はバクトとフロストを残し、魔幻塔を後にする。
■
外に出ると、雨が降り始めていた。
今から宿場村に戻れば、夜になるだろう。
おあつらえ向きだ。
あいつと初めて会った時と、同じ舞台で戦えるのか――
「ちょいと俺の私怨に付き合ってもらおうか。ゼロラ――いや、【伝説の魔王】ジョウイン……!」
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