上 下
345 / 476
第24章 常なる陰が夢見た未来

第345話 魔王城走馬灯①

しおりを挟む
 それは数年前の話。
 まだ勇者レイキースが【伝説の魔王】ジョウインと戦うよりも前。
 一人の勇者を筆頭とした、四人のパーティーが魔王城へと訪れていた――

「ハッハッハッ。無謀無謀。諸君らが束になったところで、この【伝説の魔王】ジョウイン公直属の、"魔王軍四天王"が一人。【欲望の劫火】と呼ばれる小生を――このダンジェロを倒すことなど、できぬの……だ!」

 自らの名をダンジェロと名乗る男は宝玉のついた杖を片手に、周囲に大量の炎を巻き起こしていた。
 そして、そんなダンジェロの目の前には、三人の人間がいた――

「くそ! このダンジェロとかいう四天王……。これまでの四天王とは別格じゃないか!」

 一人は先代勇者パーティー、武闘家のジフウ。
 フロストが隊長を務めていた二番隊解体の後、チャン老師の推薦もあって勇者パーティーの一員となった。

「これほどの炎の使い手……! 拙者の剣が届かぬとは……!」

 もう一人は先代勇者パーティー、戦士のバルカウス。
 後に当代勇者パーティの一員にもなるが、この時は魔法も使えない純粋な戦士であった。

「ヒィイ~! も、もう無理じゃ! わしらだけでも逃げるのじゃ!」

 そしてもう一人は先代勇者パーティー、魔術師のジャコウ。
 推薦元となっていた貴族に媚を売り、名を上げるために先代勇者パーティーの一員となった。

「ジャコウ! てめぇだけ逃げるとか、何言ってやがるんだ!? あぁ!?」
「ま、待つのじゃ! ジフウ! ここでわしらまでやられてしまっては――」
「ユメ様は先へ向かって【伝説の魔王】と戦っているのだぞ! 後を任された拙者らは、その思いに応える義務がある!」

 ジャコウはその小心さ故に逃げ出そうとするが、ジフウとバルカウスはそれを許さなかった。
 すでに先代勇者――【慈愛の勇者】ユメは【伝説の魔王】ジョウインとの戦いを始めている。
 "魔王軍四天王"最後の一人、【欲望の劫火】ダンジェロの相手を任された三人は、なんとしても目の前の敵を倒して先へ進もうとしていた。

「……バルカウス。お前はジャコウのように怖気づいたりはしねえよな?」
「無論だ、ジフウ。なんとしても目の前の敵を倒し、ユメ様に追いついてみようぞ!」
「フン……。俺より弱いくせに、いっぱしの口を聞いてくれるぜ」

 当時から二人の実力はジフウの方が上だったが、それでもバルカウスのことをジフウは信用していた。
 後にレイキース達と行動を共にするようになり、バルカウスは道を踏み外すことになるが、それでもこの時は気高き精神を誇っていた。

「苛烈苛烈! ならば来るがいい。小生の焔をもって、諸君らの身を焼き焦がしてくれよう……ぞ!」

 そんな三人へ、ダンジェロは左手から黒い靄のようなものを投げつける――

「<詠唱の黒霧>……!」

 ダンジェロが<詠唱の黒霧>と呼んだ黒いもやを右手の杖に纏わせ、地面に擦り付けることで炎の道を作り出す――

「グゥ!? またこの技か!? こんな魔法……見たことも聞いたこともないぞ!?」

 ジフウ達三人はダンジェロが作り出す膨大な炎により、完全に押されていた。
 それでも勇者ユメの元へ向かおうと、なんとか奮戦を続けた――





「流石は【伝説の魔王】と呼ばれるだけのことはありますね……」
「その方こそ、我とここまで対等に戦える人間がいるとは思わなかったぞ。【慈愛の勇者】よ」

 ジフウ達三人が四天王ダンジェロと戦っている場所の先――魔王城、玉座の間。
 そこで二つのオーラを纏う影が戦っていた。

 一人は<白色のオーラ>を纏う、【慈愛の勇者】ユメ。
 一人は<黒色のオーラ>を纏う、【伝説の魔王】ジョウイン。

 二人の戦いは歴史上類を見ない激戦となっており、その戦いの衝撃は玉座の間の空気を大きく震わせていた。
 部屋中のものが壊れるだけでなく、壊れた破片が重力を無視して宙に漂い、空間そのものに亀裂が入る程の力の衝突――
 それは人間や魔族という種族さえも超えた激戦の様子が、一目で分かるほどに――

 二つのオーラが衝突する戦いは、その後も続いた。

「ハァアアア!!」
「刀と光魔法の二刀流か。面白いが……我には届かぬ!」

 ユメは師匠であるイトー理刀斎から教わった<理刀流>の剣術と、<勇者の光>を駆使してジョウインへと挑む。
 対するジョウインも徒手空拳と<魔王の闇>を混ぜ合わせた武術で、ユメを迎撃する。

 全てを包み込む、<勇者の光>。
 全てを奪う、<魔王の闇>。
 相反する二つの魔法は互いの決定打を潰し合い、その激戦を長引かせていた――





「ハァ……ハァ……!」
「フゥ……フゥ……!」

 長引く激戦に、双方に疲れが見え始める。
 四天王ダンジェロがジフウ達を完全に足止めしているため、救援が訪れることもなかった。



「……そろそろ、終わりにしましょうか」

 そう言ってユメは持っていた刀を鞘へと収める。
 傍から見れば『ユメが降伏した』ようにも見える光景。

 だが、ジョウインはそうは思っていなかった。

「<居合>か。人の世にあるという剣技において、最速と謳われる技だな……!」

 ジョウインはユメが<居合>の構えに入ったものと読んだ。
 ユメが使う<居合>は、まさに神速――
 【伝説の魔王】と呼ばれるジョウインであれど、その身に緊張が走る――










「【伝説の魔王】――いえ、ジョウインさん。一度私と話しませんか?」

 ――だが、ユメが次にとった行動は<居合>ではなく、話の申し出であった。
 ユメは両手を広げ、<白色のオーラ>も鎮め、これ以上の戦意がないことをジョウインに示す。

「どういうことだ? 我と話がしたいなどと――」
「こうして実際にあなたと戦って分かりました。あなたは"悪"と断言できる人ではありません」
「……なぜ、そうだと思う?」

 疑問を呈するジョウインに、ユメは答える――

「数年前、ルクガイア王国の辺境にある領地が魔王軍に襲われました。ですが、あの襲撃はあなたの指示ではありませんでした。現にその後、あなた自身がその場所へとおもむき、どういう訳か評判の悪かったそこの領主を殺めました……」
「……何が言いたい?」
「あなたは独善的に戦いを起こしていません。私もここに来るまでに魔王軍と戦うことはありましたが、そのどれもがあなたの意思を汲んだ戦いでした――」

 ユメは己が胸中をジョウインに語る。
 ユメから見たジョウインは"魔王"と呼ばれていても、ただ暴力を振るうだけでなく、何かの意志を感じ取れる存在だった。

「我はただ、人間によって攻め入られる同胞を守りたいだけだ。そのためにこれまで敵意を向けてきた歴代の勇者さえも、駆逐し続けてきたのだ」
「それはあなた達魔族にとっては当然の行為でしょう。私達人間が自分達の身を守ることと同じ――」
「そうだ。人間と魔族。相容れぬ二つの魔族だからこそ、こうして戦う必要が生じているのだ。そのために、我は同胞達に策を用意し、本来我らよりも知に優れた人間と戦えるようにしてきたのだ」

 ジョウインの言葉を聞いて、ユメは理解した。
 知性と理性を持ち合わせ、力だけで屈服させるのではなく、人間のようなやり方で自らの仲間を守る【伝説の魔王】――

 この人とならば、終わりの見えない"勇者と魔王の戦い"も終わらせられると、ユメは思った。

「では、ジョウインさん。しばらく私と一緒に暮らしませんか?」
「何? そんなことをして、何の意味があるというのだ?」

 そしてユメはジョウインに対し、一つの提案をした――



「私とあなたが一緒に暮らす中で、"人と魔が共存"できる世界を、一緒に考えていきたいのです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...