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第23章 追憶の番人『ドク』

第324話 狂ったまま止まった時計

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「あ~……とーとーこの日が来たんだな~! 待ちに待った……あのクソアマ公爵への復讐の日がよ~!」
「フ、フオオー……」

 背中から生やした四本の機械仕掛けのアームを駆使し、フロストは平原を駆けていく。
 その目に正気はない。完全に復讐という目的に取りつかれた、復讐者としての狂気の灯――
 そんなフロストの横を、合流した弟のフレイムも不安そうに並走する。

「なんだ~、フレイム~? お前だってこの俺の復讐の手助けはするんだろ~? 今更止めるなんてーことはしねーだろーな~?」
「フオ、フオオ」

 そんなフレイムの様子を見て、フロストは駆けながら忠告する。

 改革が成立した以上、フロストがゼロラ達に協力する理由はなくなった。
 また、改革のおかげでターゲットであるレーコ公爵の守りは手薄になった。
 すでにレーコ公爵が籠城している場所の調べは着いている。
 この日のために用意した四本のアームも完成した。

 ――マカロンとラルフルに、別れを告げることもできた。

 もう、フロストに思い残すことはなくなった。

「だがそーだな~。ゼロラ達は俺の邪魔をしてくるだろーな~。あのアホバクトも、黒蛇部隊も……。そーなってくると、面倒だな~……」

 フロストは走りながらも考える。
 短い間だったが、ゼロラ達がどういう人間かはフロストも理解していた。
 そして旧知の中で己の秘密を知るバクト。元部下で己の心配をする黒蛇部隊。
 そんな彼らの邪魔を予測したフロストは、フレイムに命じた――

「フレイム~。お前はゼロラ達を足止めしろ~」
「フ、フオオ!?」
「大丈夫だ~。そのためにお前を<アサルトモデル>に強化しておいたんだからな~!」

 フロストがフレイムに命じたのは、"ゼロラ達の足止め"。
 自らの復讐の邪魔者となりうる者達をフレイム一人に任せ、フロストは一人でレーコ公爵の元へ向かうことにした。

 本来ならフロストの指示がなければまともに戦えないフレイム――
 だが、それをカバーできるほどの強化をフロストはフレイムに施していた。

「フオオ、オオー……」
「グズグズしないでさっさと行け~! この俺を苛立たせるな~……フレイム~!!」

 フレイムの中にも葛藤はあった。
 自らの兄がこのまま復讐にとりつかれて動くことに――

 それでもフレイムは兄フロストの命令に従うことにした。
 フロストの持つ復讐心がどれほどのものか、それをよく知っていたからこそ――

「フオオオ!」

 フレイムはフロストの元を離れ、空を飛びながらフロストが来た道を引き返し始めた。
 ゼロラ達を足止めするために――

「待ってろよ~! レーコ公爵よ~! ルナーナの仇討のため……てめーには地獄以上の苦しみを味わってから、死んでもらうからな~~!! クーカカカ~!!」

 フレイムと別れたフロストは、復讐の理由を叫びながらレーコ公爵の元へと進んで行った――





「ジフウ隊長! ほんなこつ、こげん人形が役に立ちますばい!?」
「知るか! 俺だってバクト公爵に言われて持ってきただけだ!」

 フロストとフレイムが行動を開始したのと同じ頃、はるか上空で黒蛇部隊隊長のジフウと副隊長のポールは飛行機に乗りながら、王都を目指していた。

「そもそんこの人形、人と同じサイズばい! こん飛行機二人乗りじゃき! コクピット狭いばい!」
「つべこべ言わずに操縦しろ! フロスト元隊長を止めるために必要らしいからな!」

 ジフウとポールは一体の人形を無理矢理コクピットに詰め込み、大急ぎで王都へ引き返していた。
 他の黒蛇部隊はすでにレーコ公爵の籠城先の近くで待機させている。
 この二人はテコロン鉱山にあるフロストの研究施設に行き、"ある物"を運んできていた。



「ジ、ジフウ隊長!? 下にフロスト元隊長とフレイムの姿さ見えるばい!」
「何!? もう動き出してるのか!?」

 二人が乗った飛行機から、フロストとフレイムの姿が確認できた。

「あ!? 王都の前にゼロラがいるばい! おまけん、マカロンとラルフルもいるばい! あ! バクト公爵達も駆け付けて来てるけん!」
「情報量多いな!? くそ! フロスト元隊長も止めないといけないってのに……!」

 さらに王都の近くまで来た二人は、ゼロラとマカロンとラルフル。そしてその三人の元へ駆け寄るバクトと二人の人影を確認した。

「仕方ない! こいつの電源を入れて、パラシュートを付けて投下する! 俺達はレーコ公爵の元へ急ぐぞ!」
「無茶苦茶考えますばい!? じゃっどん、他に考え用意できんけん! お願いしもす!」

 状況を確認したジフウは、とにかく急いでバクトに頼まれたものを届けることを優先した。
 目的のものにパラシュートを付け、ジフウは電源を入れ――



「――ニナーナ、起動いたしました。これよりプログラムの起動準備を――」
「それは落ちながらやってくれ!」

 ――飛行機から蹴り落とした。

 バクトに頼まれた目的の品――ニナーナ。
 フロストが"ある理由"で作り上げたそのヒューマノイドは、ゆっくり地面へと落ちていった――
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