記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第21章 開戦前日

第300話 過去を見ず、今夢見るは、未来なり

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 俺は協力者達に要請をした後、帰路についていた。
 辺りはすっかり夜。明日のためにも早く床につこうと思った。





 ――そんな矢先、あいつは初めて会ったあの時と同じように現れた。

「ハッハッハッ……! ご機嫌いかがかな? ゼロラ殿」
「……またお前か、"紅の賢者"」

 俺が今置かれている状況を楽しむように、"紅の賢者"が俺の前に現れた。

「おい。お前に一つ確認したいことがある」
「ほう……。卿の方から小生に確認したい……とな? 以前は『聞きたいことは後回しでいい』と言っていたのに?」
「ああ。俺もお前が何を考えているのかを知っておきたくてな」

 俺の過去を知っていると思われる男、自称"紅の賢者"。
 俺の過去のことを今どうこう聞くつもりもないが、ただ一つ聞いておきたいことがあった――





「ギャングレオ城――旧地底魔城の崩壊。サイバラに与えた書物――おそらくは、"チャン老師の武術本"……。これらの糸を引いていたのは、全部お前だな?」

 俺は"紅の賢者"に質問をぶつけた。
 確証なんてものはない。
 ただ、俺には『こいつならできる』『こいつならやりかねない』という考えがどこかにあった。



「ハッハッハッ……フハハハハ! どうしたのかね? 卿は記憶を取り戻したのかな?」
「そんな明確なもんじゃない。ただの"勘"だ」

 俺の質問に笑いながら返す"紅の賢者"。
 俺の記憶が戻ったわけではない。

 ――ただ、俺の体に少しずつ"過去の経験"が戻ってきていることは確かだった。
 それはまだ、"勘"の領域を出ない不確かなものではあるが。

「なるほど……。では小生が『本当は誰なのか?』というところまでは、まだ理解いただけていないということ……か」
「そうだな。だが、お前が"どういう人間だったか"は体が思い出してきたようだ」

 確信ではない、この"紅の賢者"と呼ばれる男の正体。
 それでも、俺には少しずつだが何かが見えてきていた。

「お前は相変わらず、こうやって裏で暗躍することを楽しんでみているのか?」
「ハッハッハッ。『相変わらず』と来た……か! 本当はもう、小生が誰なのかに気付いているのではないのかね?」
「俺とお前が元々どういう関係だったのか、そもそもお前の本当の名前が何なのか……。そこまでは分からない。俺に分かることはただ一つ……お前が"暗躍して見物を楽しむ人間"だということだけだ」

 サイバラをルクガイア暗部の【虎殺しの暴虎】へと変えたこと。
 ギャングレオ城を崩壊させて俺達を混乱させたこと。

 ――こいつなら、それができる。
 そして、それがこいつにとって何よりの『楽しみ』なのだろう。

「今は卿が小生に対して思う通り……とだけ述べておこう」
「やっぱりお前が裏で色々暗躍してたのか……」
「ハッハッハッ。あまり小生を睨まないでくれたまえ。結果として、卿らの臨む改革とやらは進んでいるのだろう?」

 "紅の賢者"は俺の質問を笑ってごまかす。

 この男はこれ以上のことは何も語らないだろう。
 この男の目的はあくまで"燃え盛る騒動を見て楽しむ"ことにある。

 今はまだ、この"紅の賢者"と自らを称する男に構うことはできない。
 今俺がするべきことは目の前の改革を実現させること。
 明日の戦いに勝利すること。



 だが、その決着が着いた時には――

「お前ともいつか必ず決着を付けさせてもらう。どうやらお前は……俺の過去の象徴のようだからな」
「ハッハッハッ! 新たな人として歩み、多くの人と関わることで変わってきた卿ではあるが、そういうところは変わらない……な!」
「お前の言う通りだよ。俺は結局……戦うことでしか語れない人間だ」
「結構結構。ではまた再び相見えよう。……明日の戦いで死んでくれるな? 【零の修羅】よ。フハハハハ!」

 "紅の賢者"は高笑いと共に巻き起こる煙で、いつものように姿を消していった。



 今俺の過去のことは考えることではない。
 考えるべきでもない。

 俺の過去と記憶、"紅の賢者"。

 ――そしておそらくは<ナイトメアハザード>の元凶。

 これらすべてとの決着は明日の戦いが終わった後、この俺が個人的に付けようと考えた――





 途中"紅の賢者"の厄介は入ったが、俺は宿場村の宿に戻ってこれた。

「あ! ゼロラさん! お疲れ様です! 今までどこに行ってたのですか?」
「ロギウス達との話にもあった協力者に会いにな」

 戻ってきた俺をラルフルが出迎えてくれた。
 明日の戦いは今までとは比べ物にならない規模となるだろう。
 俺の背中を追ってここまで強くなってくれたラルフルの力にも期待せずにはいられない。

「あの……ゼロラさん、ラルフル……。少し話したいことが……」

 そんな俺達の元へマカロンがやって来た。
 なにやら言いづらそうにしているが――

「お姉ちゃん、どうかしましたか?」
「う、うん……。二人にお願いしたいことがあって……」

 マカロンが俺達に頼みたいこと――
 俺はマカロンの性格を考えて先に述べた。

「俺達と一緒に戦いたい……ということか?」
「……はい」

 マカロンは真剣な眼差しで俺とラルフルを見つめる。

 マカロンは俺とラルフルを心配している。
 それだけでなく、自らに宿った光魔法で俺達を守れるという自信。
 それらがマカロンを突き動かし、俺達の力になることを望む原動力となっていた。

「……マカロン。明日の戦いでは俺達の身を守ること優先してくれ。……この約束を守れるか?」
「はい……! 私の力で皆さんをお守りします!」

 マカロンの意志は強い。俺を見つめる瞳からその覚悟が分かる。
 魔幻塔でリョウを助ける時に見せてくれたマカロンの光魔法――
 弟のラルフルから受け継いだ力は、確かに俺達にとって心強い味方になった。

「ラルフル。お前もマカロンが一緒に戦ってくれることに異論はないか?」
「はい。自分からもお願いします……お姉ちゃん!」

 ラルフルはマカロンが一緒に戦うことを認めた。
 マカロンの光魔法は守りに徹したものだ。
 とにかく俺達が窮地に晒されないようにすることを優先してくれるなら――

「俺の方こそ頼む、マカロン」

 ――今のマカロンは心強い。
 そう確信した俺も、マカロンが一緒に戦うことを願った。

「分かりました。私が……皆さんを守ります!」

 マカロンの意気込みと共に、俺にも気合いが入る。
 ラルフルもその力強い表情から覚悟が伺える。



 ここまで来た以上、俺達はやるしかない。
 多くの人々の未来のためにも――



 明日、このルクガイア王国を変える……!
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