上 下
300 / 476
第21章 開戦前日

第300話 過去を見ず、今夢見るは、未来なり

しおりを挟む
 俺は協力者達に要請をした後、帰路についていた。
 辺りはすっかり夜。明日のためにも早く床につこうと思った。





 ――そんな矢先、あいつは初めて会ったあの時と同じように現れた。

「ハッハッハッ……! ご機嫌いかがかな? ゼロラ殿」
「……またお前か、"紅の賢者"」

 俺が今置かれている状況を楽しむように、"紅の賢者"が俺の前に現れた。

「おい。お前に一つ確認したいことがある」
「ほう……。卿の方から小生に確認したい……とな? 以前は『聞きたいことは後回しでいい』と言っていたのに?」
「ああ。俺もお前が何を考えているのかを知っておきたくてな」

 俺の過去を知っていると思われる男、自称"紅の賢者"。
 俺の過去のことを今どうこう聞くつもりもないが、ただ一つ聞いておきたいことがあった――





「ギャングレオ城――旧地底魔城の崩壊。サイバラに与えた書物――おそらくは、"チャン老師の武術本"……。これらの糸を引いていたのは、全部お前だな?」

 俺は"紅の賢者"に質問をぶつけた。
 確証なんてものはない。
 ただ、俺には『こいつならできる』『こいつならやりかねない』という考えがどこかにあった。



「ハッハッハッ……フハハハハ! どうしたのかね? 卿は記憶を取り戻したのかな?」
「そんな明確なもんじゃない。ただの"勘"だ」

 俺の質問に笑いながら返す"紅の賢者"。
 俺の記憶が戻ったわけではない。

 ――ただ、俺の体に少しずつ"過去の経験"が戻ってきていることは確かだった。
 それはまだ、"勘"の領域を出ない不確かなものではあるが。

「なるほど……。では小生が『本当は誰なのか?』というところまでは、まだ理解いただけていないということ……か」
「そうだな。だが、お前が"どういう人間だったか"は体が思い出してきたようだ」

 確信ではない、この"紅の賢者"と呼ばれる男の正体。
 それでも、俺には少しずつだが何かが見えてきていた。

「お前は相変わらず、こうやって裏で暗躍することを楽しんでみているのか?」
「ハッハッハッ。『相変わらず』と来た……か! 本当はもう、小生が誰なのかに気付いているのではないのかね?」
「俺とお前が元々どういう関係だったのか、そもそもお前の本当の名前が何なのか……。そこまでは分からない。俺に分かることはただ一つ……お前が"暗躍して見物を楽しむ人間"だということだけだ」

 サイバラをルクガイア暗部の【虎殺しの暴虎】へと変えたこと。
 ギャングレオ城を崩壊させて俺達を混乱させたこと。

 ――こいつなら、それができる。
 そして、それがこいつにとって何よりの『楽しみ』なのだろう。

「今は卿が小生に対して思う通り……とだけ述べておこう」
「やっぱりお前が裏で色々暗躍してたのか……」
「ハッハッハッ。あまり小生を睨まないでくれたまえ。結果として、卿らの臨む改革とやらは進んでいるのだろう?」

 "紅の賢者"は俺の質問を笑ってごまかす。

 この男はこれ以上のことは何も語らないだろう。
 この男の目的はあくまで"燃え盛る騒動を見て楽しむ"ことにある。

 今はまだ、この"紅の賢者"と自らを称する男に構うことはできない。
 今俺がするべきことは目の前の改革を実現させること。
 明日の戦いに勝利すること。



 だが、その決着が着いた時には――

「お前ともいつか必ず決着を付けさせてもらう。どうやらお前は……俺の過去の象徴のようだからな」
「ハッハッハッ! 新たな人として歩み、多くの人と関わることで変わってきた卿ではあるが、そういうところは変わらない……な!」
「お前の言う通りだよ。俺は結局……戦うことでしか語れない人間だ」
「結構結構。ではまた再び相見えよう。……明日の戦いで死んでくれるな? 【零の修羅】よ。フハハハハ!」

 "紅の賢者"は高笑いと共に巻き起こる煙で、いつものように姿を消していった。



 今俺の過去のことは考えることではない。
 考えるべきでもない。

 俺の過去と記憶、"紅の賢者"。

 ――そしておそらくは<ナイトメアハザード>の元凶。

 これらすべてとの決着は明日の戦いが終わった後、この俺が個人的に付けようと考えた――





 途中"紅の賢者"の厄介は入ったが、俺は宿場村の宿に戻ってこれた。

「あ! ゼロラさん! お疲れ様です! 今までどこに行ってたのですか?」
「ロギウス達との話にもあった協力者に会いにな」

 戻ってきた俺をラルフルが出迎えてくれた。
 明日の戦いは今までとは比べ物にならない規模となるだろう。
 俺の背中を追ってここまで強くなってくれたラルフルの力にも期待せずにはいられない。

「あの……ゼロラさん、ラルフル……。少し話したいことが……」

 そんな俺達の元へマカロンがやって来た。
 なにやら言いづらそうにしているが――

「お姉ちゃん、どうかしましたか?」
「う、うん……。二人にお願いしたいことがあって……」

 マカロンが俺達に頼みたいこと――
 俺はマカロンの性格を考えて先に述べた。

「俺達と一緒に戦いたい……ということか?」
「……はい」

 マカロンは真剣な眼差しで俺とラルフルを見つめる。

 マカロンは俺とラルフルを心配している。
 それだけでなく、自らに宿った光魔法で俺達を守れるという自信。
 それらがマカロンを突き動かし、俺達の力になることを望む原動力となっていた。

「……マカロン。明日の戦いでは俺達の身を守ること優先してくれ。……この約束を守れるか?」
「はい……! 私の力で皆さんをお守りします!」

 マカロンの意志は強い。俺を見つめる瞳からその覚悟が分かる。
 魔幻塔でリョウを助ける時に見せてくれたマカロンの光魔法――
 弟のラルフルから受け継いだ力は、確かに俺達にとって心強い味方になった。

「ラルフル。お前もマカロンが一緒に戦ってくれることに異論はないか?」
「はい。自分からもお願いします……お姉ちゃん!」

 ラルフルはマカロンが一緒に戦うことを認めた。
 マカロンの光魔法は守りに徹したものだ。
 とにかく俺達が窮地に晒されないようにすることを優先してくれるなら――

「俺の方こそ頼む、マカロン」

 ――今のマカロンは心強い。
 そう確信した俺も、マカロンが一緒に戦うことを願った。

「分かりました。私が……皆さんを守ります!」

 マカロンの意気込みと共に、俺にも気合いが入る。
 ラルフルもその力強い表情から覚悟が伺える。



 ここまで来た以上、俺達はやるしかない。
 多くの人々の未来のためにも――



 明日、このルクガイア王国を変える……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

処理中です...